海外掲示板で1枚の写真が話題になっています。色とりどりのポロシャツを着せられたマネキンがずらりと並んでいます。左からレッド・ホワイト・ブルー・ダークグリーン・グレー・ブラック・パープル・イエロー・ライトグリーンといったカラーです。ポロシャツの下には、対応するサーモグラフィーと思われる画像が添えられています。
この写真から「サイクリングジャージは何色を着たら涼しく感じるのか」を考えてみましょう。
しかし注意しなくてはならない点がいくつかあります。まずこの写真はソースが不明で、撮影方法も撮影条件も不明。温度のスケールも見えていない。また、ポロシャツを着ているのは人間ではなくマネキンであり、屋外で静止状態に置かれていること、などです。
一見すると太陽光線からの熱を最も吸収しているのはグリーン・ブラック・ブルー・パープルで、ホワイトとイエローは最も熱を吸収していない、という印象は受けます。
出典1 Here’s what colors you should wear if you’re trying to keep cool during a hot commute
出典2 Here’s what colors you should wear if you’re trying to keep cool during a hot commute
イエローに一同困惑、ブラックは賛否両論
以下、この写真が話題になっている一般掲示板と自転車掲示板からの意見を読みこんだ上で、個人的に興味深いと思えたものを抽出してみました(抄訳)。
- カラー以外の全てが同じで、ウェアが目に特定のカラーに見えるように作られた最も安価で一般的な染料が使われていると仮定した場合、暗い染料で染められたウェアは太陽放射からの熱をより多く吸収する。しかし、それよりもずっと多くの要素が絡んでいる。生地の選択や、それが水分をどのように処理するかが人間にはより多くの違いを与える。また、熱をより少なく吸収し、熱をよりよく放射するよう設計されている染料もある。しかしそれは安価なウェアメーカーが使うようなものもでもない
- これが理由で、暗い色のジャージに人気があるのが理解できたためしがない。それに道路での視認性の問題もある
- 私はこれが理由でブラックのシューズを使うのをやめました。足が焼けてしまいそうでしたが、ホワイトのシューズに換えたら問題はなくなりました。それに暗い色のジャージは、汗をかくと吹き出てきた塩が目立ちます
- ブラックは身体からの熱の大部分を放射しているように見えるんだが
- (上の人に)黒は実際、ゆったりした衣服の場合は良い選択肢になると思う。ブルカ(=イスラム世界で女性が顔に着用するヴェール)を考えてみるといい。黒いブルカは熱をブロックし、エアフローがブルカと人を冷却する。タイトなウェア(ライクラなど)の場合、ブラックは吸収したエネルギーが次にあなたに吸収されることになるから、少し悪くなる
- ブルカのことはわからないが、サハラ砂漠の遊牧民はゆったりした黒い衣服を着ている。物理学の先生によると、黒い表面は白よりも熱くなり、それが内側ではわずかな風を生んで睾丸まで空気が循環する。たしか白は足首回りでだけ循環を生むと言っていたと思う
- (上の人に)同じことを言おうと思っていた。タイトなブラックはダメだが、ゆったりしたブラックは良い
- 「砂漠の熱にさらされる遊牧民のベドウィンは、衣服が黒でも白でも蓄積する熱の量は変わらない。(しかし)黒い衣服に余分に熱が蓄積されても、肌に達する前に失われる」という説がある
- ブラックは熱を吸収するが、同時に熱を通しにくい。だからウェアがゆったりしていて空気が循環していれば、ホワイトよりも涼しいかもしれない。ホワイトは熱を吸収しにくいが、熱をより多く通すんだ。タープを考えてみればいい。暗い半透明なタープの下のほうが、白い半透明なタープの下よりも涼しいじゃないか
- ブラックはホワイトよりも熱をより早く吸収するが、ホワイトよりも効率的に熱を排出する。屋内にいたり、屋外でも影のあるエリアを短時間移動するなら、ブラックは涼しくあるために最も効率的だ。もっと長い時間太陽の下にいるなら、ホワイトがより反射性があり、冷却には良い
- この写真が考慮していないのは、ブラックはあなたの体温も吸収して放射するというところだ。熱の吸収が良いということは、それを放射するのも良いということだ
- グリーンがブラックよりも熱を吸収するように見えることに驚いている
- (上の人に)植物が君に内緒にしている小さい秘密がそれさ!
- なぜイエローが思ったほどエネルギーを吸収しないのかみんな不思議に思っているようですが、私はグリーンのシャツを見て困惑しています。しかし、植物たちですよ。理にかなっているじゃないですか。植物はエネルギーを吸収するようにできているのです。反射するようにできているのではない
- しかし警告しておきたい。イエローはばかみたいに虫を惹きつけますよ
考えられそうなこと
これが正解だ! という結論は、正直そう簡単に得られるものではなさそうだ、と思いました。矛盾するコメントも多く見られます。しかし、ある程度のコンセンサスは引き出せるような気もしました。大体次のようにまとめられるでしょうか(以下、筆者の理解です)。
- 体感温度は色だけでは決定できない。移動があるかどうか(空気の流れがあるかどうか)でも変わってくる
- 太陽光線だけではなく、体温の吸収と放射効率も考える必要がある(外側と内側)
- ウェアの素材(吸汗速乾など)による熱放射効率も考える必要がある。暗い色でも素材が乾きやすいなら、差は小さくなるのかもしれない
- タイトフィットであればブラックは暑い、と言えるのかもしれない
- ゆったりしたウェアで空気が循環するのであれば、ブラックでも涼しい状況がある
- タープの例でわかるように、暗い色でも下は涼しい。筆者がいまAmazonで「日傘」を検索してみると、外側の色は様々だが、内側は黒いものが多い印象を受ける
- 晴天下でタイトなウェアを着るのであれば、ホワイトかイエローが最も涼しいのかもしれない(ウェア素材が同じであれば)
- 目に見える色が同じでも、特殊な染料を使えば光線吸収率は変えられるらしい(しかしそうした染料がサイクリングジャージに使われているかどうかは不明)
- イエローは意外に涼しいのかもしれないが、様々な虫に好かれるらしい
本当のところを理解するには、熱力学・電磁波・波動といった物理学の知識がないと難しそうです。実験をするなら、同一メーカー同素材の複数カラーのジャージを着た9人のサイクリストの走行中の姿をサーモグラフィーで撮影する、といった難しいことをやる必要がありそうです(それでも人によって発熱状況が違うと思うので難しそう)。
しかし考えるための素材としては、上で紹介した掲示板のインプットは大いに参考になるとは思いました。
ホワイトを試したことがない方は、日陰のないヒルクライムなどで試してみてはどうでしょうか。
ゆったり系のポタリングジャージならブラックでも意外に涼しかったりして。