このところVan Ryselの存在感が大きくなってきている印象を受けます。Van Ryselはフランスの総合スポーツ用品会社「デカトロン(DECATHLON)」による自転車ブランド。同社は今年2023年のSea Otter Classic(カリフォルニアで開催される自転車・アウトドア系イベント)に、はじめてブースを出展しました。アメリカでの販売にも力を入れる、という意思表示です。
米国進出でCanyonの市場を狙う?
海外掲示板で、こんな書き込みを見かけました(出典)。
デカトロンはCanyonの市場を狙っているように見える、Canyonはかつてほどお買い得ではなくなっているし。私のCanyonが寿命を迎えたら、たぶんデカトロンか他のアジア・ブランドを選ぶかもしれない
Van Rysel RCRはすごくいいね! アメリカで攻勢を仕掛けるのは理にかなっていると思う、Canyonと良い勝負になるだろうから。イタリアでは、Van Ryselはあまりにもデカトロンのイメージと結びついてしまっている(まともで良い製品だけれどもチープ、というイメージがあり、ファッショナブルでは全然ない)。でもここイタリアの市場に参入するのも楽しみにしている、成功すると思うよ!
なるほど、Van RyselはDTC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドとして最人気のCanyonのお株を奪おうとしているのか。ありえそうだな、と思いました。
デカトロンは過去に何度か米国進出を試みていますが、環境要因(911テロなど)で取りやめた経緯があります。それがまた再進出を考えていて、大量の路面店は展開していないけれども、ショールーム的な大型店舗はあるようです。
Van Ryselブランドのバイクは、米国の店舗ではいまのところ買えないけれども、十分な生産量が確保され次第、デカトロンの公式サイトを通じてアメリカ合衆国からも買えるようになる、という情報も見かけます。
Van Ryselに注目している米国のCanyonファンは少なくない印象を受けます。Canyonはもちろん評判が良い。みんな大好きCanyon・俺たちのCanyonという雰囲気です。しかしお値打ち感はじわじわと下がってきているという声はあり、会社も大きくなってきたせいか品質やカスタマーサポートについていわゆる”mixed reviews”(賛否両論)も増えてきているようにも見えます。
デカトロンはいま追い風で、フランス国内ではライバルだったGO SPORTが業績不振で管財人管理下に置かれました。GO SPORTはUCIコンチネンタルチームの「ルーベ・リール・メトロポール」のスポンサーから撤退。代わりにデカトロンがスポンサーになり”Van Rysel–Roubaix–Lille Métropole”というチームが誕生。チームバイクはARGON 18からVan Ryselに変更されました。
今年のSea Otter Classicでは、同社はVan RyselのほかにRiversideというブランドも積極的に紹介していたようです。Riversideのチタン・グラベルバイク(GRVL 900 Ti)はイタリア製造のデタチャイ・パイプを使用し、GRX組み完成車が3999ドル。これは安い。
ブランドを育てきれるかどうかが鍵?
ところで、デカトロンが現在展開している自転車系ブランドを眺めてみましょう。少なくとも以下の5つがあります。
- BTWIN(エントリーバイク、ウェアや小物・用品)
- TRIBAN(エントリー向けロードバイク)
- RIVERSIDE(ツーリング系ブランド。クロスバイク・BTWINバイクのモデル名としても使われている)
- ROCKRIDER(MTB・キッズバイク)
- VAN RYSEL(ハイエンドロード・グラベル。激安サイコンでも使われるなど混乱はある)
BTWINやTRIBANは日本でもある程度の知名度があると思います。BTWINの激安ウェアを持っている方もいるでしょう。Van Ryselは、本来はハイエンド製品という位置付けだったと思うのですが、なぜか激安サイコン(しかも評価があまり良くないもの)でも使われていたりするんですね。
私の個人的な感想ですけれども、ブランド・マネージメント的なものがうまく行っていない気がします。デカトロンという会社の中で何が起こっているのか。こんな妄想をしたりします。
- ガチサイクリストのピエール課長:「Van Rysel」というハイエンド・バイクブランドを作りました! ロードバイク・グラベルバイク界のメジャーブランドに育てあげましょう! 3年、4年後はこれで天下を取るのです!
- 総合管理職のバンジャマン部長:ピエール君、その「Van Rysel」というブランドが好調のようだね。マーケティング部との協議の結果、その名前を弊社の激安自転車用品でも使わせてもらうことに決めた!
- フランソワ副社長:よし、これで対前年比10%増の売上を確保だ! 3年、4年後のことなんか知らん
みたいな感じになっているのかな? と想像します(名前はどれも架空のものです)。Van Ryselが最近出しているバイクはどれも高評価が目立つのですが、このブランドを大事に育てきれるかどうかが、対Canyon戦争では鍵になるような気がします。
Van Ryselという名前のポテンシャル
Van Ryselという名前自体はすごくカッコいいな、と個人的に思います。発音は、デカトロン日本公式サイトでは「ヴァン・リーゼル」。フランスでは「ヴァン・リゼル」と発音。英語読みだと「ヴァン・リズル」または「ヴァン・ライズル」という感じで、これは国によって好きに読んだら良いと思います。
そして「Van Rysel」はフランス語に置き換えると「De Lille」。RyselはRijselから来ており、RijselはLille(リール)のオランダ語地名。「Van Rysel」は「リール発」という感じの意味になります。
デカトロンはリール近郊で発祥した会社なので「Van Rysel」はデカトロンそのものも意味しうる。加えてロード系サイクリストにとって、リールという都市はクラシックレースのイメージと直結しています。ブランド名としては強力なポテンシャルを持っているのではないでしょうか。アメリカのサイクリストに対してはヨーロッパの伝統と繋がれる気持ちも与えてくれそうに思います。
デカトロンの資本力は規模拡大のために有利。あとはブランドをどう育てていくか、ではないかなと思いました。ブランド育成には何年もかかる、しかし世界経済は四半期ごとの決算に血眼になっている状況です。果たしてVan Ryselという芽が大木に成長できるかどうか、注目したいところです。