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小さい離島でのサイクリング中、自転車に鍵をかけるべきかどうか悩んだ(自転車旅エッセイ)

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サイクリングや山登りをしに、離島に数日滞在していた、と、都会生まれ都会育ちの友人に話すと、危なくないの? と聞かれて、驚きました。

えっ、どういうこと? と聞き返すと、見知らぬ土地で何日も一人でキャンプしていて、犯罪に巻き込まれる危険はないのか、と聞きたかったようです。

犯罪が発生しにくい離島の社会構造

人口の少ない離島で数日過ごしたことのある方ならイメージしやすいと思いますが、そうした土地では、そもそも犯罪が少ないのではないか、と私は考えています。

統計データを調べたわけではありません。しかし、犯罪が発生しにくい社会構造だろうとは思います。

人口数千人の島だと、島民はほぼ全員が顔見知りになると聞いています。

そして、そのことにはありがたい面と、ありがたくない面、両面があるようです。

ありがたい面とは、みんなお互いに何となく知り合いなので、誰それさんは最近元気がないようだけど大丈夫かな、と気遣ってくれたり、調味料や野菜を気軽に貸し借りできたり、子供たちの間でのいじめも比較的少ないだろうこと、等々が挙げられるでしょうか。助け合いが促進される社会、と言えるかもしれません。

ありがたくない面としてよく聞く話は、噂話が盛んだということです。AさんとBさんが、こないだ一緒に公園にいるのを見た。あのふたりは付き合っているのではないか。という推測からはじまり、実際ふたりは付き合っていないのに、翌日には「Aさんが妊娠したらしい」というふうに、噂に尾ひれがついて広まるそうです。

人口の少ない共同体では、噂話が最大のエンターテイメントになってしまうのは必然的なのかもしれません(現代の都市生活者にとってインターネットが最大の娯楽になっている状況と同じ)。

小さい共同体では、こんなふうに、よく言えば共同体の健全さを保っていくために、構成員はお互いを思いやり、助け合い、面倒を見ていく。悪くいえば、相互監視社会になっている、とも言えます。

こういう社会では、犯罪が発生しにくいはずです。

施錠は拒否したいが…

ここで自転車の話をしましょう。

ある時、離島を自転車で旅していて、ふと思ったのでした。

こんな土地で自転車に鍵をかけるのは、パラノイドがやることだ。バカらしい。

自転車を盗もうと思うほどグレた少年はいなさそうだし、盗んだとしても、島では見かけないようなロードバイクを持ち帰ったらすぐ親にバレるし、どこかに隠しても発見されるだろうし、そもそも乗ることも、売ってお金にすることもできないじゃないか。自転車を盗む合理的な理由が、ここにはない。

しかし、自分が小学生や中学生だった頃のことを思い出して、こういうふうにも考えました。

子供には非合理なところがある。理由もなくグレることがある。不満や愚行の対象は、何だっていい。別にその自転車が欲しくなくても、盗むことはありうる。親や友達や先生や社会に対して不満を募らせているとき、眼の前にキラキラとした見知らぬ自転車があったら、それを使って何かをしようとは思わなくとも、単にそれを盗むことを目的として盗む、ということも、あるかもしれない。

人口の少ない離島で、飲食店に入ったり、山に登りにいく時に自転車に鍵をかけるというのは、その島の人達を信頼していない証でもあるような気がして、すごく失礼なことをしているような気持ちになってしまう。こんな土地で自転車に施錠するのは、拒否したい。新宿や渋谷じゃないんだから。俺はここでは人間を全面的に信じたい…

…しかし同時に、鍵をかけないと、かつての自分が一時期そうであったかもしれないような、反抗期の鬱屈した非行少年に、犯罪のきっかけを与えてしまうことになるのかもしれない。それも良くない、という気持ちになります。どんな島にも、そういう子供がひとりふたりいても、おかしくない。自分のような旅行者が原因で島に事件が起きたら、それはそれで少しイヤだ。

悩んだ挙げ句、最終的に私はどうしているか。人口数千人の離島でのサイクリング中、自転車から長時間離れる時に、鍵をかけるのか、かけないのか。

結論は、そのとき次第、になっています。旅行者同士のトラブルを想定して鍵をかける、という考え方もあるでしょうし、行動をシステム化する(習慣化する)ために、どんなところであろうと鍵をかけるという動作を必ず行う、という考え方もあるでしょう。

鍵をかけるべきかどうか、というよりも、離島での社会の仕組みと、見知らぬ人の集まりである都市の社会の仕組みとの違いについて、旅先ではよく考えさせられました(それがこの記事の本題なのだった、とここまで書いて気付いた)。

こういうことを考えられるのも、自転車旅のおもしろさのひとつだと思います。梅雨が明けたら、読者の皆様も数泊の自転車旅に出かけてみてはどうでしょうか。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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