2023年秋――。
ずっと昏睡状態だったnadokazuが目覚めた。
病室を訪れた甥が目にしたのは、意味不明な言葉をつぶやき、
異世界「イズオオシマ」から帰ってきたと話すnadokazuの姿だった。
というわけで、本日の駄文はこちら!
伊豆大島って、どんな島?
東京都大島町、伊豆大島。東京から約120km離れた太平洋にある、伊豆諸島で最も大きな島です。相模湾沿いからは普通に見えているので身近感はあったりしますが、本州でいちばん近い場所(伊豆の稲取)ですら約30kmの彼方。
地理的な状況だけ見ると、まさに「絶海の孤島」と言えるでしょう。なにしろ、過去に流刑地であった歴史すらある場所です。
江戸時代中期まで主に政治犯の流刑地としての一面を持っており、保元の乱に破れた「源為朝(ミナモトノタメトモ)」も大島流罪となりました。
しかし令和の時代である今、現代科学の力をもってすれば、そんな伊豆大島にもたやすく渡航が可能です。浜松町(東京都港区)の竹芝桟橋から、ジェット船でなら最短でわずか1時間45分!いまや「行きたいときに(ほぼ)行ける場所」。いやー、科学技術の進歩って最高ですわ。
でもまぁ、そうは言っても陸路ではアクセスできず、訪問する機会が限られまくる離島です。我々のふだん暮らしている場所とは、大海原によって完膚なきまでに隔絶されています。時代が変わっても伊豆大島が「完全な異世界」であることに、変わりはありません。
そして、そんな場所でサイクリングをしたとしたら…そりゃあもう楽しいに決まってますよね!
というわけで、行ってきました。自分は1人でいることが好きなので、もちろんソロライドです。べ、別に一緒に行く友達がいない!とか、そういう理由じゃないですからね?
伊豆大島は、宿泊した方が楽しめる。でも…。
さてさて1時間45分で気軽に行けちゃう異世界である伊豆大島について情報を集めていると、なんだか島で1泊するプランが多くヒットする印象を受けます。まぁ、伊豆大島でサイクリングと観光を楽しもうとすると、1泊するのがデフォルトなのでしょう。
マスターさんの伊豆大島渡航記事でも、
「宿泊を強く推奨します。可能なら2泊がベスト!」
と書かれていますが、まったく異論なしです。
沈む夕陽をじっくり眺めたり、海が見える露天風呂にのんびり浸かったり…そんな贅沢な時間の使い方は日帰りだとまず叶いません。伊豆大島は、宿泊して楽しんだ方がいいです。もう絶対に。
だがしかし…!!
宿泊するということは、土日の両方が確実に潰れます。特に掃除洗濯買い物家事手伝いをはじめとする、嫁様の下僕活動をこなす時間が無くなってしまうのがダメージ大きすぎです。
それだけではありません!
宿泊するためには「宿泊費」、つまり追加のマニーが必要になります。ただでさえ自転車&機材に全振りして、地獄の業火に焼かれ続けている我が家計。そこに渡航費だけでなくホテル代と滞在中の食費まで上乗せされたら、いよいよ破綻が避けられません。
「宿泊は無理!」
自分の意志にかかわらず、こう断言せざるを得ないでしょう。
伊豆大島は、日帰りでだって楽しめる!?
「ふーん。それじゃあ、お泊まりできない自分みたいな自転車乗りは、伊豆大島サイクリングを楽しめないの?」
という疑問が湧き上がるところですが、結論から申し上げます。
「日帰りでも、伊豆大島はじゅうぶん楽しめます!」
なぜなら、伊豆大島は思いのほかコンパクトサイズだから。東京都大島支庁による「大島一周道路コース」は、約43km程度しかありません。そこに「三原山登坂」をプラスした形になっている「サイクルボールおおいちメイン」でも、走行距離は62.3 km程度です(ただし獲得標高1,346 m ※RWGPSによる)。平均時速10kmでも、6時間あれば走破可能な計算。これなら、日帰りだって余裕でしょう。
しかも三原山、バウムクーヘン、波浮港見晴台、筆島、泉津の切通、サンセットパームラインなどの見どころは。それであらかたコンプリートできちゃいます。
なんだかもう、日帰りでも全然いいじゃん!いや、むしろ日帰りの方がコスパ良くない?
前項で「絶対に宿泊した方がいい」と書いたことをコロっと忘れたかのように、思いっきり手のひらを返したくなってきました。
実際に日帰りしてみた。
さてさて、伊豆大島へのアクセス方法で代表的なものは、
- 竹芝~伊豆大島(大型客船)
- 竹芝~伊豆大島(ジェット船)
- 熱海~伊豆大島(ジェット船)
- 調布~伊豆大島(航空機)
の4つ。
飛行機だと、調布飛行場から大島空港までは約25分。他の移動手段を圧倒する短時間での渡航が可能です。とはいえ飛行場までの移動を考えると、アドバンテージはほぼ消滅(近隣にお住まいの方を除く)してしまいます。最もポピュラーで手っ取り早そうなのは、やはり竹芝桟橋からの船便でしょう。
自分が2023年の7月にサイクルボールおおいち(プレシーズン)で渡航したときは、ジェット船が
往路:東京7時45分発、大島9時30分着
復路:大島16時50分発、東京18時35分着
というタイムテーブルで就航していたので、当日朝に出発して夕方帰路に着くプランにできました。
自宅出発は6時過ぎ。普段の遠征より遅いぐらいですが、それでも現地では7時間20分の滞在時間が確保できています。伊豆大島一周に三原山登坂をプラスしても、走行距離はトータル60km程度。平均時速10kmでノロノロ走っても、時間の余裕はバッチリです。三原山の登坂では間違い無く辛い思いをしそうですが、トータルで考えれば「まぁ楽勝」と、タカをくくれるレベルでしょう。
▼ 参考記事:サイクルボールとは?
到着は岡田港!いきなり激坂!!
なーんてことを思っていたら、いきなり想定外の事態が!伊豆大島ではジェット船の発着港が風向きなどによって変わるのですが、その日はデフォルトの元町港ではなく、およそ7km離れた岡田港発着とのこと。
まぁ岡田港発着への変更自体には何の問題も無いのですが、サイクルボールの出発地点は元町港の近くにあります。およそ14kmの無駄な往復(坂あり)の上乗せが、ここであっさり確定しました。
ちなみに元町港にジェット船で到着すると、自転車を抱えて桟橋を延々歩かされる苦行が待っています。
でも、岡田港は桟橋の目の前がターミナル。下船から輪行解除できる場所までの距離が、元町港より明らかに短い…気がします。発着が岡田港になるのって、むしろラッキーなんじゃない?
と、何も考えずに輪行を解除して走り出した自分の目の前に出現したのは、岡田港から大島一周道路に出るための最大斜度15%(RWGPSによる)の激坂でした。…なに…これ?
一説には「ウエルカム激坂」と呼ばれているらしいこの登坂で、貧弱な両脚は瞬時にズタボロ。サイクルボールのスタート地点にすら着いていないというのに、脚が完全終了しました。
そのあとは元町港まで下り基調なので、ここぞとばかりに脚を休めますが、これ「帰路は登り」ってことですよね…。絶望。
サイクルボールおおいち、走行開始!
ほどなくして元町港に到着。アプリ「ツール・ド」を起動して、サイクルボールおおいちをスタートします。プレシーズンのコースは、スタートしたらそのまま三原山に向かう設定。
「サラ脚のうちにいちばんキツい登坂を済ませる」という作戦だとは思うのですが、初っぱなのウエルカム激坂で崩壊した脚力が、数キロの下り程度で回復するはずがありません。サラ脚ではなく、疲労状態での登坂スタートになりました。
そして、サイクルボールのルートで設定されているのは、三原山登山道路ではなく御神火スカイライン。つまり「斜度がキツいほう」です。
このルートを引いた人…人の心とか、ないんか?
まったく終わりが見えないキッツイ斜度の坂道に、照りつける灼熱の日差し。熱中症指数計は、アッというまに「警戒」を発報します。走り出してまだ数キロなのに、ボトルの水を全身にかけまくるハメになりました。
▼ 熱中症指数計の紹介記事
小径ホイールで、ギアはずっとインナーロー。それでも脚には延々とキツい負荷がかかり続けます。そういえば、よく「小径は坂がラク」と言われているのですが、わたくし坂がラクだと思った経験はこれまで一度もありません。
斜度と暑さで疲弊し尽くして、なんとか登坂を完了。
島の外周をゆるゆる走行。でもツラい…。
せっかく獲得した位置エネルギーを、熱エネルギーとして無駄に変換させ続けながら元町港までダウンヒル。このあとは、島の外周をゆるゆると走るルートです。しばらくはバッチリ平坦基調…かと思いきや、やっぱり登りが何度も出てきて全然ラクに走れません。登坂はあるけど60km程度のチョロいサイクリングを楽しむつもりだったのに、むしろスタートしてからずっとツラい思いをし続けてる気がします。
それでも相変わらずな迫力のバウムクーヘンは見応えありまくりだし、見晴台から観る波浮港は雰囲気抜群。異世界の離島を走っているぞ!というオーラが、バリバリと脳を突き刺し続けます。いいぞ…伊豆大島は…いいぞ!
そういえば波浮港見晴台の近くの売店に設置されている自販機、午前中なのにスポーツドリンクが全部売り切れていました。どうやらガチ勢の皆様が、島の外周を何周もするトレーニングをされていて、スポドリを買いまくられたようです。すげー。
筆島を過ぎると、また長い登坂がスタートします。目の前に立ちはだかる、行き先に山しかない絶望的な風景。これからどれだけヒドい目に遭うのか想像すると、涙が止まりません。
そして始まる、三原山に次ぐ本格的過ぎる登坂。案の定、登っても登っても坂が終わりません。このカーブを超えたら下り…違った。次の次のカーブを超えたら下り…違った。と、いつものように希望的観測と深い絶望を繰り返します。
木陰があるにはあるのですが、日が高くなってしまったので影の面積は極小。ついに熱中症指数計が「厳重経過」を通り越して「危険」を発報しました。さらに!波浮港で補給したボトルの水も瞬く間に枯渇。これは…ちょっとヤバい状況が迫ってきた…?と、脳内で冷や汗が吹き出したタイミングで、ようやく下りに入りました。
た、助かった…。
大島公園の売店で水分を補給して、あとは泉津の切通しまでダウンヒル。いやー、下り坂はヤッパリ最高ですわ。
そういえば、泉津の切通しはauが思いっきり圏外で、「ツール・ド」でチェックインできませんでした。auーーー!!もうちょっとだけ頑張ってーー!!
岡田港から先は、さすがにキツい登坂はもうありません。ダラダラ走って、元町港に戻りました。サイクルボールおおいち、クリアです。
近隣の日帰り入浴施設に駆け込みたい欲求をグッと堪えて、岡田港に戻ります。港の前のお店で明日葉天ぷらを食しますが、葉っぱなので実質カロリーゼロですよね。
あとは冷房の効いたターミナル内で、出発時間を待ってから乗船。サクッと東京に戻りました。
7時45分発、18時35分着。およそ11時間の旅でしたが、サイクリングも現地の食事も、そのうえ船旅まで思いっきり楽しめました。
というわけで、もう一度書きます。
「日帰りでも、伊豆大島はじゅうぶん楽しめます!」
ジェット船で日帰りするなら、夏期がチャンス!…だった。
伊豆大島は日帰りでオッケー!現代科学の粋を集めた、ジェット船は最高!
本稿をお読みのみなさんも、伊豆大島日帰りしましょう!超オススメでーす!!
と、脳天気に思っていたのですが、この「ジェット船で日帰りプラン」は執筆時点(2023年10月)だと使えなくなっていました。季節が変わって、ジェット船の時刻表が思いっきり変更になっています。
いま東海汽船のサイトを見てみると、竹芝〜大島のジェット船は
往路:東京8時35分発、大島10時40分着
復路:大島14時40分発、東京16時45分着
当日朝の出発だと伊豆大島に滞在できるのが、わずか4時間しかありません。
熱海港発着での時間も調べてみましたが、
往路:熱海9時10分発、大島10時15分着
復路:大島15時45分発、熱海16時50分着
こちらも、伊豆大島に滞在できる時間は5時間30分に留まります。
…駄目じゃん!!!
というわけで、時期を逃したのでもうジェット船で日帰りはできません!残念!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
サヨナラ!!(爆散)
「実質日帰りプラン」ならチャンスあり…!?
こうなってしまうと、もはや手の打ちようがありません。伊豆大島での日帰りサイクリングを楽しむには、ジェット船の時刻表が改訂される次のシーズンを待つほかない。
でも…本当にそうなのでしょうか?
何か手はないのでしょうか?
ひとつだけ、方法がありました。
それは、前日夜に竹芝桟橋を出発する大型客船を使って伊豆大島に渡航して、翌日にジェット船で帰宅するプラン。これならパーフェクトな「日帰り」にはなりませんが、「ほぼ日帰り」とは言えるはず。
執筆時点のタイムテーブルは、こんな感じ。
往路:東京22時00分発、大島翌6時00分着(大型客船・船内泊)
復路:大島14時40分発、東京16時45分着(ジェット船)
ホテル宿泊は不要なので、ホテル代は日帰り同様「ゼロ」。それでいて、現地で8時間40分の滞在時間が確保可能です。寝ている間に移動できてしまうので、宿泊を伴うプランの最大の課題「嫁様下僕タイム喪失」だって回避できます。
しかも!
ジェット船だと片道8,220円のところ、大型客船ならいちばん安い部屋を選べば片道5,070円です。宿泊費の負担無し、そのうえ乗船費用も節約できる。なんだか下手に当日朝出発のジェット船で往復するよりも、前日出発・船内泊の「実質日帰りプラン」で渡航するほうが体験としてもより良いうえにコスパも高いように思えてきました。
まぁ、いずれにしても宿泊無しプランでは「自転車で伊豆大島を存分に走り回ったあとに、ホテルの大浴場で汗を流して豪華な夕食!」という、至高の体験はできないんですけどね!
まとめ:この異世界、身近すぎない?
「離島でサイクリングする」これって、自転車乗りとして他では得がたい体験ができる機会にほかなりません。
でも行ってみようと思っても、なかなか踏ん切りがつきづらいのが実際のところ。けれど「日帰りオッケーな場所」という視点に立って考えると、「伊豆大島サイクリング」がグッと現実味を増してきます。なにしろ、都心からたった1時間45分です。これはもう、「近場」と言っても差し支えないはず。
それに0泊2日の船中泊プランでの渡航だとしても、寝て起きたらもう現地です。あとはサイクリングして、その日のうちに帰宅できてしまうのです。
そう考えると渡航の心理的なハードルの高さは、それこそ日光・伊豆・筑波山などの「チョイ遠征エリア」と同等レベルにまで下がると言えるでしょう(我田引水を目論む極めて偏った視点)。
それなのに!
船舶という、普段は乗る機会が少ない交通手段での移動。そしてペダルを回す場所は、まごうことなき「絶海の孤島」です。移動時間もサイクリング中も、すさまじい「非日常」を体感し続けられる。
この「渡航の敷居の高くなさ」と「非日常体験」の巨大すぎるギャップこそ、伊豆大島サイクリングの大きな大きな魅力だと思えてなりません。
これから気温はグングン下がっていって、朝の寒さが堪える季節がやってきます。イヤすぎ…。
だがしかし!伊豆大島は、少なくとも首都圏よりは温暖です。実はこれからの季節こそ、伊豆大島ライドのチャンス!と、言えるのではないでしょうか。
というわけで、伊豆大島は日帰りでもおすすめです!(3回目)
最後に注意点をひとつ。
自分のように情報収集をテキトー&雑に済ませると、ふつうに起こる事態が想定外の事態になって襲いかかってきます。マスターさんの伊豆大島記事、もっと真面目に読んでおくべきでした…ガクッ。