年間3,000以上ものレクリエーション製品を生み出すフランスのスポーツ用品製造・小売大手のデカトロン(本拠地は北フランスのリール)。同社は「Vision Project」を掲げており、AutoCADで有名な米国Autodesk社と協業で、AIを駆使した「3Dプリント可能なアルミ製スポーツ自転車」の開発に取り組んでいるそうです。
参考 Decathlon Reimagines Lighter, Stronger, More Sustainable Bicycle Using Autodesk Generative Design
デザイナーの創造性とAIのコラボ
デカトロンは2026年までに自社の全製品を「エコフレンドリーなデザインにする」という目標を掲げています。その時に自転車の分野でネックになるのが、リサイクル・再利用が難しいカーボンフレームやフォークです。しかし原材料やリサイクルの面で有利なアルミは、重量やデザインの自由度の面でカーボンに劣っています。ではどうするか?
ここでデカトロンがAutodeskと出会うことになったようです。アルミを使ったより軽量な、あるいはエアロなデザインはどのように達成できるのか。Autodesk Fusion 360というソフトウェアによる「生成デザイン」(generative design)機能を使えば、フレームやフォークに必要な要件、そして様々な制約条件の中で、機械学習や計算幾何学を交えたアルゴリズムがデザインを提案してくれます。
その結果、上の画像のような大胆なデザインのフレームやフォークが得られるようです。デザイナーは自分のクリエイティビティを存分に活用し、必要な強度計算ではAIの力を利用でき、さらにプロダクトの完成までの時間を大幅に削減できることになります。
複雑なアルミフレームをどうやって製造するか
しかしこれだけ複雑なデザイン、素材にアルミを使ってどのように製造するのでしょうか。従来通りの「ハイドロフォーミング」で実現可能なデザインではなさそうです。
そこで3Dプリンターが登場します。デカトロンは最終的に、どの程度までの自由度があるのかは別として、ユーザーが個別に自分用のアルミフレームを3Dプリントできるような製品・サービスも視野に入れているようです。
環境問題への「セクシーな取り組み」の好例
このニュースの面白いところは、この奇抜で斬新なデザインが「環境負荷を減らす」という目標から発生しているところです。単純に軽量な自転車が欲しい、売れる商品を作りたい、美しいデザインの自転車を売りたい、という発想とは違っています。このプロジェクトが最終的に成功するかどうかはさておき、イノベーションはこうやって生まれるものだと思い知らされます。
ところで2019年、小泉進次郎環境大臣が国連での演説で「気候変動のような大きな問題は楽しく、かっこ良く、セクシーであるべきだ」と発言したことが大きく話題になりました。
その「セクシー」という言葉のニュアンスが日本と英語圏では違うため、あんた公の場でなに言ってんだ、という批判を浴びていましたが、この記事で紹介しているデカトロンの取り組みやアプローチはまさに「セクシー」なものの好例ではないかと私は思いました。
勿論、中長期的に見て「エコフレンドリーであること」は製造業者にとっても小売業者にとっても、自社ビジネスの維持と成長にとって欠かせない要素ではあるでしょう。特にデカトロンのような大規模小売・製造企業にとっては避けられない課題であるのは間違いありません。
過去1〜2年で、デカトロン関連の勢いのあるニュースが増えてきている印象があります(下に関連記事があります)。サイクリング分野では、日本ではまだ本格的な展開はなされていませんが、これからますます存在感を増していくのかもしれませんね。