ブロンプトン工場見学 ~MADE IN LONDON~

世界屈指の完成度を誇る折りたたみ自転車、ブロンプトン。

40年近くにわたり基本構造をほとんど変えず、現在もロンドンで製造されている。

今回、ブロンプトン世界選手権に日本代表として出場した折にイギリスはロンドン西部のグリーンフォードに構えるブロンプトン・バイシクル社を訪れ、本社や工場を見学できる機会に恵まれたので、その様子を紹介する。

ブロンプトン・バイシクルズ

ブロンプトン・バイシクルズ

ブロンプトン・バイシクルズ本社は、ロンドン中心部より15kmほど西に位置している。ロンドン地下鉄に20~30分揺られ、グリーンフォードという駅を降りて数分歩けば本社工場が現れる。

ウィル社長に迎えられ、まずは工場に併設されたオフィスを紹介される。

日本の企業にもありがちなオープンオフィススタイルだが、ミーティング用の机やソファー、クッションにはBROMPTONロゴや車体をイメージした図案がデザインされていて物欲をそそる。ただ、残念ながら特注の非売品とのこと。

ブロンプトン・ミュージアム

社内にはブロンプトンのミュージアムがあり、初期のブロンプトンや限定モデルなどが展示されている。

毎年細かな改良が加えられているブロンプトンには明確なモデルチェンジがないが、実は世代が存在する。最初に販売されたものをMark1として、以後車体に大きな変更点があるたびにMark2、Mark3…と呼ばれている。現行モデルはMark4で、日本未導入の電動アシストブロンプトンがMark5とのこと。

ミュージアムには各世代のブロンプトンがずらっと並んでいたが、見比べるとどれも似たような形で実に代わり映えしない。裏を返せば、初期の頃に基本的な設計が完成されていた証拠。

アンドリュー・リッチー氏が1975年に製作したプロトタイプを見ても、フレームやハンドルの形こそ異なるが、車体を3分割して折りたたむアイディアはすでに確立されている。しかも、折りたたんだサイズは現行モデルと大差ないという。ちなみに、ブロンプトンという名前は、リッチー氏の自宅から見えたブロンプトン礼拝堂に由来する。

1975年頃のプロトタイプ。ハンドルは鳥が羽を広げるように折りたたまれる。

ロンドン市内の民家で生まれた折りたたみ自転車はその機能性が高く評価され、出資金を集めたリッチー氏は工場を立ち上げる。そして、本格的な販売に乗り出す前に製造されたのが1981年のプリプロダクションモデル。小径ゆえの振動を逃すため「ひ」の字になったMハンドルやラバーサスペンション、折りたたみ時に転がすコロなど、ブロンプトンのスタイルはこの頃すでに完成していた。

翌年、ほぼ同じ形状で通称Mark1と呼ばれる初代モデルが発売され、改良が重ねられながら現在に至っている。

1981年のプリプロダクションモデル。50台作られたうちのフレームナンバー16。

ミュージアムの一角には、創始者アンドリュー・リッチー氏の部屋をイメージしたスペースがあり、氏の描いた図面や、製造用の治具が展示されている。

手描きの図面を眺めると、無駄のない折りたたみ機構を実現するために細部に至るまで工夫されていることがわかる。

40年前に3DCADで設計なんてできるはずもなく、各部材の長さやヒンジの取り付け角度など、トライアンドエラーの末に絶妙な設計がなされたことは想像に難くない。

畳んだときに後輪を逃がすための「へ」の字に曲がったメインフレームは少々無骨だが、スムーズな弧を描く現行品よりむしろ温かみを感じる。

ミュージアムの一角には、創始者アンドリュー・リッチー氏の部屋をイメージしたスペースがあり、氏の描いた図面や、製造用の治具が展示されている

ブロンプトン・ファクトリー

ミュージアムを出て、フレームカラーに塗り分けられた階段を登るとレクリエーションスペースに出る。

Which is yours?

椅子やテーブルの他、卓球台やバーカウンターまであって、ちょっとした懇親会もここで行うらしい。ところで、椅子やカウンターをよく見ると、何やら見覚えのある形が…?

ブロンプトン・ファクトリー

ブロンプトン・ファクトリー

レクリエーションスペースからは工場内が一望できる。2016年に建設された工場は、明るく清潔で、想像していたよりもずっと近代的だった。溶接、部品組み立て、塗装など、作業内容によって区画が分けられ、作業ミスが発生しないようにわかりやすく整頓されている。これは国内の大手機械メーカーの工場と同じ水準で、こういうところでブロンプトンの高い品質を保っているんだなぁ、と納得した。

作業ブースごとに扇風機がついていて、オフィスよりよほど涼しい

いよいよ実際の作業工程の見学に移る。

まずは溶接。フレームの出来を左右するボトムブラケット付近を精度良く溶接するには高い技術が必要で、数年のトレーニングを積んだ職人が作業にあたる。

ブロンプトンの心臓部たるボトムブラケット~シートチューブ

彼らの仕事の責任を表す意味で、フレームには溶接者のイニシャルが刻印されている。また、検査室には三次元測定機があり、きっちり精度も管理されている。

歪みのない溶接をする熟練ウェルダーの仕事

次は塗装工程。鉄のフレームは錆びるので、美観だけではなく自転車を長持ちさせるためにも塗装は必要不可欠。ブロンプトンの美点の一つに、丈夫な粉体塗装がある。昔は外注に出していたものの最近自社で塗装設備を揃えたそうで、品質を管理しやすくなったうえ、納期も短くできたという。

塗装済みのフレーム部材

こうして用意されたパーツは組立工程に集められる。ハンドルやホイールなどはある程度アッセンブリーされた状態で並べられており、組み立てブースで自転車の形に組み上げられる。

ブロンプトンの象徴的なMハンドルと、スポーティーなSハンドル

ブロンプトン・バイシクル社が販売する自転車は「ブロンプトン」1車種だが、ハンドル形状や荷台の有無、変速段数などで多くの組み合わせが存在する。各フレームにはラベルが貼り付けられ、仕様違いのミスをしないように管理されていた。

こうして完成したブロンプトンはロンドンから出荷され、世界中を走り回ることになる。

仕様は各フレームに貼られたラベルで管理

「5S」についてツッコミを入れたところ、トヨタ式の生産システムを参考にしたと聞いて合点がいった。

ブロンプトン・ファクトリー

ブロントン・ファクトリーの5S

1. 整理する

障害物を除去することにより作業しやすくすること。使っていないパーツやツールを除去する。不要なものは捨てる。使用中の材料を除き、作業フロアに余計なものを置かない

2. 順序よく配置する

必要なアイテムすべてを簡単に選べるよう配置する。部品を見つけやすく・取り出しやすくする

3. 磨く

クリーニングを検査工程として活用する。作業空間を安全かつ作業しやすいものにしておく。作業空間を清潔で気持ちよく働ける場所に保つ

4. 標準化する

作業空間の整理整頓における高い標準を常時維持する。すべてのものを所定の位置に置く。どの工程にも標準がある

5. このサイクルを維持する

見学を終えて

ブロンプトンの歴史と最新のものづくり、そして遊び心に触れられたブロンプトン工場見学。

愛車の「里帰り」も果たし、ブロンプトン乗りとしてもとても良い体験ができた。

ブロンプトンの基本構造は40年変わっていないが、ただ伝統を守っているのではない。むしろ見学を通して感じたのは、製品も工場も、常により良くカイゼンしていこうという姿勢だった。

10年後も20年後も、ブロンプトンはきっとこの形で、でも確実に進歩してるんだろうと思った。

ところで、ブロンプトン社は一般向けに工場見学を受け付けている(有料・要予約)ので、今回紹介したような内容を実際に見ることもできる。

とはいえいかんせん遠いので「ちょっとそこまでは…」という方は記事を通して「部屋の隅で畳まれているブロンプトンはここで造られたのかぁ」なんて思っていただければと思う。

おまけ:フォルクスワーゲン トランスポーター
VW製のでかいハイエース的なやつ。きっとブロンプトンが山ほど積める。


寄稿者:すくみずさん @skmzmw, flare (cbn)
プロフィール:年間を通じてMTBとシクロクロスに参戦し、泥汚れと生傷が絶えないオフロードレーサー。自転車は転ぶからこそ面白い。

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