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ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

こんにちは、すくみずさんです。今回はいつものレビューとは少し趣向を変えて、2018年7月、イギリス・ロンドンで開催されたブロンプトン世界選手権(BWC London: Brompton World Championships)に、日本代表として出場してきた話について書かせていただこうと思います。

ロンドンには1週間ほど滞在し、大学の学生寮を拠点としながらブロンプトンで走り回り、ときには輪行し、現地の生活に触れてきました。レース参戦に至るまでの経緯とレースの模様を、ロンドンで自転車を取り巻く文化とともに紹介します。

ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

私とブロンプトン、そして世界選手権出場までのいきさつ

まずは、なぜ私がBWC Londonに出場することになったのか、ということに触れようと思う。私はオフロードのレースを中心に自転車を楽しんでいて、ここ数年は夏場にMTB、冬場にシクロクロス、練習でたまにロードバイクに乗る、という生活を続けている。

そんな私がブロンプトンを買った理由だが

  1. 旅先に持っていって現地で乗り回すため
  2. ロンドンで開催される世界選手権に出場するため
  3. なんでもいいから自転車が欲しかったが、置き場所が無かったため

といったところ。もちろん、半分くらいは1番目の理由なのだが、数多あるフォールディングバイクの中からブロンプトンを選んだ決め手は、やはりBWCの存在だった。

そうして購入したブロンプトンは他のバイクとはだいぶ毛色が異なっていたが、コミューターとして十分な走行性能、コンパクトで収まりの良い折りたたみ機構、バッグシステム、どれをとっても非常に完成度が高かった。まぁ、この辺の話はまた別の機会に…

さて、ロンドンで行われるBWC Londonは(一般参加も可能ではあるが)世界各国で行われる大会の決勝戦という位置づけであり、各国大会の男女の優勝者は代表選手として招待される。私が狙うのはもちろん、日本大会のBWC Japanで優勝し、日本代表として参加すること。

そういうわけで、まずはBWC Japanで勝つことが最初の目標となった。

BWCのレース形式はクリテリウムに近いのだが一風変わったスタイルで、ドレスコードとしてジャケットおよびネクタイ着用が義務付けられ、レーサーパンツは禁止(インナーとしての着用は可)。スタートはルマン24時間レースに則った形式で、一列に並んだ参加者は合図とともに折りたたんだブロンプトンに駆け寄り、組み立てて漕ぎ出す、というもの。

1年目はレースの雰囲気が掴めず4位だったが、2回目の出場で優勝。イギリス行きの切符を手に入れた。

渡英とロンドンでの暮らし

晴れて日本代表となったもののヨーロッパ行きは初体験。時差ボケ対策や現地での滞在先、そしてブロンプトンの飛行機輪行など、不安は尽きない。

7月下旬に渡英したが、結論からいうと大きなトラブルもなく、これらの懸念は杞憂に終わった。時差ボケは機内の睡眠時間で調整し、スッキリと現地入り。

滞在先は大学の学生寮にした。洗面・トイレ・シャワーがある個室で、朝食付き、それでいて割安なのが決め手になった。

最大の心配事だった飛行機輪行は、プラダンを使った自作輪行箱で無事クリア。

IKEAのDIMPAという、ブロンプトンにぴったりな袋を使い、これにフィットする箱をプラダンで製作。ブロンプトンをプラダンで囲み、DIMPAで覆う、という作戦。

車体のほうは、壊れると致命的なヒンジ部分の部品を取り外し、突起物を緩衝材で養生。

この状態で関空→羽田トランジット→ヒースローと移動し、箱は擦れたり凹んだりしたもののブロンプトンに損傷は全くなかった。

ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

渡英翌日からは、ブロンプトンに乗って観光がてら走りに行っていた。博物館を見たり街並みを楽しんだり、あるいは信号の少ない郊外まで足を伸ばして思い切り飛ばしたり。

渡英した時期は記録的な暑さで、日中は35度に達する猛暑。とはいえ湿度が低いぶん日本よりだいぶ快適で、水分さえしっかり摂れば問題なく走れる程度だった。

ところでイギリスはもともと寒冷な気候で、通常は真夏の日中でも30度を上回らないそうだ。そのため宿にはエアコンがついていないうえ風通しも非常に悪く、朝8時頃をまわると部屋が蒸し風呂に。屋内より外のほうがだいぶ快適なので、毎日同じメニューの朝食を食べたらすぐに走りに出発していた。

全体的に茶色くて彩りに欠けるが、外食が高いので貴重なエネルギー源である。

食事について、普通のレストランで普通に夕飯を食べると3000~4000円くらいして、腹は膨れるが懐に悪い。

そこで、食べ放題の宿の朝食を腹いっぱい食べて、昼と夜は軽食で済ませる、というスタイルで凌いでいた。

イギリスの軽食といえば定番はフィッシュアンドチップス。

カリッと揚がったポテトと白身魚のフライは、素材本来の味わいが楽しめる。

…途中まで食べて気づいたが、塩とケチャップ、マヨネーズ、バルサミコ酢などがテーブルに備え付けられており、好みに味付けして食べるようだ。発汗で失われた塩分を補うため、塩をガンガン掛けて完食。

コーラ込で800円だったか1000円だったか…

せっかくなのでイギリス名物料理(不名誉な意味で)も食べておきたいと思い、ウナギのゼリー寄せにも挑戦。

ぶつ切りにしたうなぎを煮たらゼラチンが煮汁に染み出して固まっただけ、という料理。

テムズ川に生息していたウナギは貴重なタンパク源で、労働者階級を中心に親しまれていたようだが、今や英国人にすら不人気なのか、売っている場所が極端に少ない。

ロンドン最大の食品市場、1000年の歴史を誇るバラ・マーケットで売っていることを突き止めさっそく店に走ったものの見当たらず。諦めきれずに翌日出直してようやくありついた。

一口食べると意外と普通だと思ったが、小骨どころか背骨が刺さって痛いし、皮の生臭さがしっかりとした後味を残す。

塩やタバスコ、バルサミコ酢で臭みを隠蔽するのが完食するコツ。記念に食べたが、ゲテモノ好きでもなければ眺めるだけで十分だと思う。

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これらを食べてふと思ったが、イギリス料理は不味いのではなく、提供された段階では未完成。そう、段ボールでやってくる7部組の完成車なのだ。

各所をグリスアップして組み直し、ホイールのフレを取り、ブレーキや変速を調整してやって初めて料理になるのだ。もっとも、シートチューブのリーマー通しやBBのタッピング、ディレイラーハンガーの修正、といった下処理を怠っているようにも感じたが。

ロンドンで美味しい食事をとりたいなら、イタリア人が働いているイタリア料理店や、中国人が働いている中華料理店をお勧めする。

ところで、日本と違ってロンドンでは、中心部ですら自販機やコンビニがほとんど見当たらない。走りに行ったときの補給は小さなスーパーマーケットで行っていたが、そう都合よく店があるわけでもないので、携行する水や食料には余裕を持ったほうが良さそうだ。

飲み物で非常に残念だったのが、サイクリストの命たるコーラが妙に高いこと。スーパーでも1.5Lペットボトルが300円くらいした。その反面、エナジードリンクは日本より安い上に種類も豊富だったので、黄色人種のカフェイン耐性を見せつけるがごとく、毎日2Lくらいガバガバ飲んでいた。

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内容量もたいてい500ml以上。飲みごたえ十分。

毎日だいたい40km前後走って宿付近に戻ってきていたが、宿の部屋は蒸し風呂なので、日没までは公園や街のベンチで涼むのが日課になっていた。公園と言っても端から端まで2~3kmという巨大な敷地で、遊歩道をゆっくり流して、気に入った場所にブロンプトンを停めて一息。読書でもすれば絵になるんだろうが、スマホで一日分のネットサーフィンを楽しむ時間となっていた。

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夜8時前だと昼間のような明るさ

7月末のロンドンは日が長く、サマータイムも相まって夜9時過ぎでも明るい。夕方を過ぎると、仕事を終えた後に余暇を楽しむ人が街に溢れていて羨ましい限りだったが、その一方で冬場は日の出も遅いうえに4時頃には暗くなるらしく、サイクリストにとって厳しい季節になりそうだ。

ロンドン自転車事情

さて、ロンドン市内は交通網が整備されており、特徴的な2階建てバスと地下鉄を駆使すればたいていどこにでも行ける。ただ、バスは遅れるし地下鉄は高いので、快適に、そして楽しく移動したいならやはり自転車がベストだろう。

街中には自転車が溢れている。クロスバイクやロードバイク、シェアバイク、そしてブロンプトン。特にブロンプトンの多さは驚くほどで、信号待ちで3~4台見かけることもザラ。どれも生活の道具としてよく使い込まれている。

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自転車のための道路整備も十分で、交差点には自動車の停止線より前に自転車用の待機スペースが設けられ、自転車用信号が備えられている。

自転車レーンは、車道から完全に独立したものや路側帯を拡張したものが整備されていて、安全かつ快適に移動できる。もっとも、自転車レーンが無い道路でも自動車の幅寄せ等は一切なかったが。ロンドンでは自転車は徒歩の延長ではなく、乗り物として認識されていた。日本ではちょうど原付バイクくらいの立ち位置だろうか。

多少の信号無視も見受けられたが、我が物顔で歩道を走ったり、逆走する人は皆無だった。

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ところで、ロンドンはクルマも自転車もスタートダッシュが鋭い。

こちらの信号は「赤」→「黄と青が同時点灯」→「青」と切り替わるのだが、黄+青でスタート準備、青信号になった瞬間にクルマもロードバイクのサイクリストも、シェアバイクに乗ったお姉さんまでもダンシングで加速していく。そういう国民性なのだろうか。

駐輪スペースは、たいていの場所に用意されていて自転車の置き場所に困ることは少ない。

店舗や施設の前にはU字型の車止めがいくつも並んでいて、そこに地球ロックするのが基本の駐輪スタイル。

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滞在中に自転車にイタズラされたり…ということは幸いにして無かったが、ホイールだけ取り残されている悲しい光景も目にしたので、しっかり鍵をかけ、盗難に十分注意したほうが良さそう。

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電車には自転車を持ち込める車両が設定されており、ホイールを外す必要もなければ輪行袋も不要。駅構内でも、自転車を押して歩く人をよく見かける。

駅の入り口でブロンプトンをサッと畳んで、コロコロ転がしてホームまで行って、電車に乗り込む。輪行袋が不要というのは想像以上に快適だった。

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混雑しがちなロンドン地下鉄については、持ち込める区間や時間帯の制限がある。ただし、折りたたみ自転車は適用外。そんなわけで、街中でもブロンプトンを非常によく見かけたというわけだ。ブロンプトンは日々の生活の道具としてロンドンの街に根付いており、ここはブロンプトン世界選手権に最もふさわしい場所なんだと実感。

毎日通勤通学や買い物に使っている道がレースコースになり、そこを毎日通勤通学や買い物に使っている自転車で走るという非日常。俄然、楽しみになってきた。

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BWC LONDON

さて、今回の主目的であるBWC Londonは、ロンドン中心部、バッキンガム宮殿前を通る2.2kmの周回コースを8周で行われる。

先にも触れたが、BWCではドレスコードとして襟付きシャツとジャケット、ネクタイの着用が義務付けられている。周囲を見ると、男性参加者はワイシャツにジャケット、下にハーフパンツ~七分丈パンツ、というスタイルが多いようだ。

今年のレースは、各国の代表選手と一般参加者を合わせて313名が同時にスタートする。スタートグリッドはゼッケン順なので番号が若いほうが有利だが、招待された各国チャンピオンは前方に固められている。日本代表の僕はゼッケン13番。微妙に縁起が悪い数字なのが、らしいというかなんというか。

スタートはルマン式。バッキンガム宮殿に続く直線道路 ザ・マルの道路脇に300人のサイクリストが並ぶ。そして道の反対側には、300台余りのブロンプトンが。

19時10分の号砲とともにコース対岸まで走って、畳んだ状態のブロンプトンを組み立てて走り出す。

普段通りに急がず焦らず、しかし素早くフレームを展開する。自転車の形になったらヒンジのネジを締め切る前に走り出し、走りながらステムとフレームのクランプを固定する。

ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

これがうまくいき、スタートは5番手くらいだったが、直後に予想外のアクシデント。

なんと、レースが始まったにもかかわらず交通規制の柵が撤去されておらず、1コーナーが行き止まりに。進路を塞がれて一旦ストップしたが、柵をこじ開けて先に進む選手がいて、これに1人2人と続き、ほどなく先頭集団が形成される。

1周目のペースは意外と遅かったので1周目の最終コーナーで軽くアタック。先頭でコントロールラインを通過し、目立って2周目へ。

ローテーションがうまく機能してないが、うまく立ち回れば常に上位10名以内に陣取れる。先頭集団にいる女子選手が速い上に上手いので、後ろに位置取りする(あとで知ったが、個人TTで北京五輪2位や世界戦優勝の経歴を持つエマ・プーリー選手だった)。

ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

落車に巻き込まれにくく、アタックにも反応しやすい位置をキープして脚を溜め、いよいよレースは勝負どころのラスト2周回へ。にわかに集団の動きが活性化し始めて選手の間隔も詰まるし、周回遅れの参加者とは結構な速度差があるのでかなり怖い状況だった。

最終周回になっても先頭集団に大きな動きはなく、ゴールスプリントが濃厚に。着に絡むなら5番手以内にいたいので、前の選手の動きを見て脚のありそうな選手についていく。ブロンプトンは車体の前後長が短いので、ロードバイクよりもずっと近づける。

そして最終コーナー、中切れ気味に開いた隙間にうまく滑り込み、3~4番手でゴール前のストレートへ。視界が開け、両脇に英国旗が掲げられたザ・マルの彼方にバッキンガム宮殿が見える。

ロングスプリントを掛けた選手に反応して飛び出し、50km/hオーバーで踏み倒す。このままいけるかと思ったが、コントロールラインまで後少しというところで後ろから来た選手に差されて、惜しくも3位フィニッシュ。ゴールした直後は順位に確信が持てなかったが、表彰式で名前を呼ばれてようやく実感が湧いた。

ロンドン滞在を終えて

レースを中心とした8日間の滞在だったが、自転車をとりまく環境や文化などに触れることができた。もちろん前情報でどんな感じなのかは知っていたつもりだが、実際に街中を走ってみて、公道に自転車の居場所がきちんとあることや、ロンドンでのブロンプトンの存在感を実感できた。

BWC Londonのほうも、初参加で、しかも初の海外レースとしてはまずまずの成果が得られたし、何より楽しかった。

1位まで手が届きそうだったので悔しい思いもあるが、それは次回の目標にしよう。

現在地と目的地を線で結ぶ自転車は、移動中も街並みの雰囲気を楽しんだり、気になったところに寄り道することもできる。それでいて徒歩より圧倒的に行動範囲が広い。加えて簡単に輪行できるとなれば、旅先で大活躍間違いなし。

今回はブロンプトン1台でツーリングも、ポタリングも、そしてレースも楽しめた。普段は玄関の隅に折り畳まれていて決して出番は多くないが、これは手放せそうにない。

ブロンプトン世界選手権とロンドン自転車事情

著者
すくみずさん

年間を通じてMTBとシクロクロスに参戦し、泥汚れと生傷が絶えないオフロードレーサー。自転車は転ぶからこそ面白い。

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