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アメリカのロードバイク乗りが経験した30年前の怖い話に垣間見える現代の諸問題

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約30年ほど前の出来事ですが、アメリカのサイクリストがテキサス州の田舎で経験した異様な体験を海外掲示板Redditで共有しています。昔の話ではあっても、この出来事のベースとなっているマインド(物の考え方)は現代にも通用するところがあり、考えさせられるところが多かったのでご紹介します。

出典 The redneck cops and the road cyclists. – Reddit

元投稿には差別用語が多く含まれているため、それらの表現はカットして概要をお伝えします

56kmを走るには8時間かかるはずだ!

2015 Ford F150

2015 Ford F150 photo: Michael Rivera CC BY-SA 4.0

  • 私はむかし建設会社で働いていて、各地に出張しながらレストランチェーンを建てる仕事をしていた
  • 1990年代半ばのこと。テキサス州のディープ・イーストに同僚と出張し、地元ホテルに宿泊。とても小さい町で、相当な田舎だった。町の外には何マイルにもわたり、他の小さい町の他には何ひとつなかった
  • ある土曜日、同僚と私は70-80マイル(110〜130km)のライド計画を立て、十分明るくなってから出発した。森林と野原、農地がミックスしたような土地で、2車線の道路は舗装も良くスムーズだった。美しい日だった
  • やがて1台のピックアップ・トラックに乗った若者が速度を落とし、私達をじっと眺めてから追い抜いていった。20分後、同じトラックに乗った別のドライバーがやはり私達をじっと眺めた
  • さらに20分後、遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。パトカーは私達の前でホイールがロックしそうな勢いで急停車し、私達は危うく追突しそうになったほどだ
  • 銃に手をかけた警官がパトカーから降りてきて「自転車から離れろ! 離れろ! 今すぐにだ!」と叫んだ
  • パトカーの前方には先程のピックアップトラックが停まっていて、事の成り行きを見守っていた
  • 身分証明書の提示を求められた私達は「何が問題なのか」と聞いた
  • すると警官は「お前らはここで何をやっているんだ? お前らのクルマはどこだ?」
  • 彼は「自転車に乗った男らが道路を走っている」との通報を受けて駆けつけたのだった
  • 私達のクルマは35マイル(約56km)離れた町にあり、私達は自転車ライドに来ているのだと答えた
  • 警官「もう同じことは聞かないからな。この自転車で56km走ってきたとか、俺が信じるとでも思っているのか? お前らが道路で自転車に乗っている、という通報を受けて来たんだ。お前のクルマは何処にある!」
  • 警官は援護を要請し、郡保安官がピックアップ・トラックで駆けつけた。彼等は私達の自転車を持ち去ろうとしていたのだ。彼等は、私達が嘘をついていると主張した
  • 56kmを走るには少なくとも8時間かかるはずだ。なのにお前らは朝6時に出発した、と言う。誰に向かって嘘をついているのかわかっているのか?
  • 私達が何の法律に違反しているのか聞いたところ、回答は拒否された。「それは後で調べておく」とのことだった
  • 最終的に、もう1人の文民服を着た男(腰には銃あり)が「郡消防署」から赤いフォードF150で駆けつけたが、この男は少し話がわかるようで、私達は法律違反も犯していないし、地元コミュニティにとっても危険な存在ではないと考えたようだった
  • 最初の警官は私達に、来た道を帰れ、と怒鳴った。「俺の郡で」お前らは自転車でこれ以上遠くに行ってはならない。何故なら俺はお前らがやっていることを「知らない」し、お前らは「地元の人間ではない」からだ
  • 私達は指示に従い、1列になり、パトカーに追尾されながら走った。私達はどのくらい速く走れるか試してみた。すると彼は上がってきて「おちょくるようなことをすると刑務所にブチこむぞ」と言った
  • これは当局の人間とのやり取りの中で、最も奇妙な体験だった。自転車に乗った2人の男は「緊急事態」かつコミュニティにとっての脅威であり、彼等はパニクっていたのだ

テキサス州ではその後のランス・アームストロングの活躍もあり、スポーツ自転車への理解はだいぶ深まったようですが(高速道路では近隣の州に比べて路肩からゴミが減りパンクも減ったとか)、テキサスの地方を訪れたことのある方は「こういうことは実際にあると思う」とコメントを寄せています。

不自由な日常を維持する仕事

この投稿へのコメントで個人的にいちばん興味深かったものがこちら。問題の本質を突いていると感じました。

地方警官の役割は、地方のライフスタイルや文化的秩序を維持することにある。法律を守らせることが目的ではなく、日常を維持することが彼等の仕事なのだ。

大部分の地方警官はサイクリストが日常への脅威になるとは考えていない。そう考える警官は、法律など気にしない。彼等は地元の(キリスト教)神父や説教師の称賛を得て、その結果、職に留まっていたいだけなのだ。故にサイクリストである私達が持ち込む近代性や不確定性は、彼等のコミュニティを不安定にする力であり、放置しておけないものなのだ

つまりこの出来事の背景にあるのは「自転車で道路を走って楽しむ」という価値観が存在することを知らない・知らないが故に恐れる「無知」と、法律とは無関係に「これまでと変わらない平穏な日常を維持するのが俺たちの仕事だ」という超保守的な思想が背景にあるのかもしれません。

日本でもつい10年20年ほど前までは、さすがに警察に通報されたりはしないものの、ロードバイク用ジャージ・レーパンでコンビニに入ると視線が痛い時期はあったと思います。それも「法律違反でも何でもないが、いつもと違う客が来た。何をやっている人かわからず、何か怖い」という意識に違いなく、上のエピソードに登場する地方の警察官とほぼ同じものだったでしょう。

アメリカの地方では上のような話は現在でもありうることらしく、さらに「自転車は車道を走ってはいけない(そしてそれは法律の話ではない)」と考えているクルマのドライバーも相当数いるようなので、これに比べると日本でスポーツ自転車を楽しむのはだいぶ安全なことなのかもしれない、と思ったりしました(そんなことないよ! というエピソードがあれば是非教えて下さい)。

最後に興味深いコメントをあと3つだけご紹介。上の話に登場する警察官は「レッドネック(redneck)」と形容されているのですが、その点についての考察です(※レッドネックとはアメリカの保守的な貧困白人層を指す差別的な表現で、粗野で教養のない人、というニュアンスを含みます)。

  • なぜレッドネックの人々がサイクリストを嫌うのか、理解できない。何故なら自転車は、手に入りうる最もローテクなレッドネック・エンジニアリングだからだ。自転車は自由になるために作られているんだ。トラックを所有するために必要な山程の法律から自由になるために! レッドネックと言われる人々がもっと頻繁に自転車に乗らないのは何故だろう
  • (上の人に)何故ならタイトなウェアを着るとゲイのように見えるからだ
  • (同じく上の人に)そして自転車というものは、彼等にとっては子供のオモチャだからだ。さらに高価な自転車は、沿岸部に住むエリート層やヨーロッパ人のための高価なオモチャであり、彼等からするとそういう人は全員ゲイなんだ

最近のアメリカは性の多様性や人種問題の議論が以前にも増して活発化していますが、それらを巡る紛争のベースにあるものを考える時にもヒントになりそうなエピソードではないかと思いました。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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