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文章の誤字と交通事故の共通点:何度もチェックしたのだからこの記事に誤字はないはずだ

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人間の脳と目のちょっと厄介な仕様に関する、ミニ雑感記事です。

先日、サイクリストがクルマから「見えない」のはドライバーが不注意だからではないーー英国空軍の戦闘機パイロットが真の原因と対策法を解説という記事を書きました(紹介元記事が素晴らしくおもしろい)。

サイクリストがクルマから「見えない」のはドライバーが不注意だからではない 英国空軍の戦闘機パイロットが真の原因と対策法を解説
4000時間以上の飛行経験を持つイギリス空軍の元戦闘機パイロットで、熱心なサイクリストでもあるというJohn Sullivan氏が、2012年に「PENNANT」という軍人年金協会の雑誌に寄稿した「人間の目は交通安全のために重要なものすべて...

今回はその記事が前提の話なので是非お読みいただきたいのですが、ここであらためて要約すると「人間の目と脳は注意してモノを観察していてもすべてを見ることはできない」という内容です。脳は「目が動きを停止した際の信号」だけを映像処理し、目が移動中はその「過去の映像」や周辺視野から得られた情報を基に生成したフェイク映像で認識を補完してしまう。

走り慣れた道・読み慣れた文章

Photo by Francesco Ungaro

これは文章において誤字脱字が発生する仕組みともよく似ている、とふと気付いたのでした。

私は数年前から、このブログをほぼ毎日更新することを日課にしています(旅行中以外は大体毎日)。ブログ以外にも毎日大量の文章を書きます。そんなこともあり、文章を書くことは良い意味でも悪い意味でも「慣れて」きました。クルマのドライバーに例えると「運転時間」は相当なものだと思います。

すると不思議なことに誤字・脱字が増えてくるのです。書くのに慣れるほど増えていく。てにをはを間違える、誤変換された漢字に最後まで気付かない、IMEが変換できなかった漢字の一部を別の単語で仮に入力した後に余計な部分を削るのを忘れる、一度間違えた固有名詞を記事中で最後まで同じように間違え続ける、等々、「症状」は様々です。

記事の公開前に誤字脱字のチェックをちゃんとやれ。という声が聞こえてきそうですが、実は何度となくやっているのです。朝起きてすぐだったり、コーヒーをまだ飲んでいない時に書いた記事には誤字が特に多かったりするのですが、頭が冴えている時に書いた文章でもチェック後に誤字は必ず見つかります。記事の冒頭(下手をするとタイトル)に誤字を発見することさえあります。

この誤字チェックのプロセスは、先の記事で紹介した、クルマのドライバーが路上の他の乗り物をスポットする時に発生する「サッケード」と非常に近い現象ではないか、と思ったのでした。

文章をサーッと横に、あらためて読んでいく。しかしもともと集中力を使って、破綻なく繋がる文章になるよう書いているので、基本的には間違っていないだろう、俺はこの道をよく知っている、何度も走っているのだから、という無意識の前提があります。基本的には、間違いはないはずだ。事故は起こらないはずだ。3回、4回とチェックするほどにその思いは強くなっていく。

トム・ビドコック。それがトム・ピドコックと違っていることに気付かないことがあります(これは入力時、pとbの位置がキーボードでは離れているのであまり起こらないタイプのミスですが、例として)。目には「ビドコック」と映っていたとしても、脳は「ピドコック」という過去の記憶(映像・知識)で上書きしてしまうため、誤字チェックの際にもスルーされてしまいます。

ビドコックはピドコックであることは疑いようもない。交差点のそこにあるのは見慣れたいつもの街路樹だ。グリーンのジャージを着たサイクリストではない。同じようなものではないか。

文章の場合、いちばん良いのは自分以外の第三者に誤りを指摘してもらうことです。その人にとっては「はじめて走る道」なので「思いこみや過去の記憶による置き換え」は発生しにくいでしょう。しかしこれも完全ではなく、この人の文章はしっかりしている、という信頼・安心感があると、やはり誤字は見落としてしまいます。

これも「不注意」からではなく、文章を書く・読むことに慣れたことに由来する「チェック行為の無効化」に当てはまります。注意は払っていた、しかしその行為は無効になっていた、というものです。先の記事で紹介した英語記事には、こんな箇所がありました。

You were not being inattentive – but you were being ineffective. Additionally, if you didn’t expect there to be a cyclist your brain is more likely to automatically jump to the conclusion that the road is empty.

あなたは不注意だったのではないーーあなたには実行能力が欠如していたのです。さらに、そこにサイクリストがいることを予期していなかったなら、あなたの脳は道路が空っぽだという結論に自動的に達してしまうことが多くなります。

何度文章をチェックしても誤字が見つかるのはこれと同じでしょう。「何度かチェックしたのだから、さすがに誤字はもう残っていないだろう」と考えながら(無意識にそう考えてしまう)もう一度読んでも、ビドコックとピドコックの違いに気付かない。気付けない。

日本には有名な自転車月刊雑誌が2つあります。ここ何年も読んでいないので最近の状況は知らないのですが、A社とB社の雑誌として、私はむかしB社の雑誌にあまりにも誤字脱字が多いので辟易し、憤慨さえしていたのを覚えています。文章を書いている人に責任感がない、公正校正部はちゃんと仕事をしているのか、と。

自分も毎日大量の文章を書くようになって、かつてB社の誤字脱字を責めた自分を反省することが増えました。たぶんB社もチェックはちゃんとやっている。書き手も公正校正担当の人もきっとやっている。それでも発生するのが誤字であり、事故なのだろう。責めすぎて悪かった、と(自己弁護をしているのではありません)。

なんとこの記事でも「校正」ではなく「公正」などと誤字っていました(ご指摘ありがとうございます)。この記事だけは誤字がないようにするぞ、と意気込んでいつも以上にチェックしたのですがこの結果となり驚愕しています…

しかしA社はB社にくらべて、圧倒的に誤字が少なかったんですよね。何か良いシステムやノウハウがあるのかもしれません。

文章における誤字の発見方法として個人的に有効に感じるのは、パソコンで書いたらスマホで眺めてみる、ブラウザーのフォントサイズを変更してみる、というものがあります。レイアウトや文字の大きさが変わると発見しやすい。これはクルマのドライバーが頭を動かす・視野の中心でものを見る、といった先の記事で有効とされている対処法によく似ています。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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