Tips & How-toツール・メンテナンス

自分でやる自転車メンテナンス そのメリット・必要な工具と心得を紹介します

皆様こんにちは。いつの間にかDIY系レビュアーという印象が定着しつつある(らしい)CBNレビュアーのkazaneです。

私は元々が自動車工学出身で今は機械整備で飯を食っている人間なので、機械いじりは浅く広い感じで一通り出来ます。

しかし、自転車いじりとなると自動車工学と機械整備の知識の流用。自転車店に勤めた事は無いので専門職の方の高度なノウハウは持ち合わせていません。そこの所は多分皆様と一緒です(苦笑) 

自分でやる自転車メンテナンス そのメリット・必要な工具と心得を紹介します

自転車と機械整備は構造や分解組付け手順が似ている要素も多いので一応何とかなっているだけな気がします。

本記事は趣味として自転車に乗り始めようとしている方、自分で愛車の整備を始めたい方が安全に作業を始めるための近道になればと思い、メンテナンス本には書いていない自転車いじりを含む機械いじりの基礎的な注意点や作業のコツといった情報について書いてみました。

自分で自転車をメンテナンスするメリットとは

自転車を自分でメンテナンスすると2つのシンプルかつ大きなメリットが得られます。

  • コストダウン
  • 単純に楽しみが増える

シンプルですが威力は絶大です。もっと細かく見ると更に沢山のメリットがあります。

思い当たるメリットについて書き出してみました。皆様が強く惹かれる項目、他に思いついた新たなメリットはありますでしょうか。

その数が多ければ多いほど、自転車いじりにハマってくはずです。

店に預ける時間が減ればその分自転車に乗れる時間が増える

店に預ける時間が減ればその分自転車に乗れる時間が増える

休日の時間を割いてショップに自転車を預けに行く時間、受け取りに行く時間を自分でメンテする時間に当てれば、その分走る時間が増えます。お世話になっているショップが込み合っていて、メンテの順番待ちで納期がぁぁ...なんてことも避けられます。

平日に自分でメンテや微調整を済ませておけば休日の朝イチにはメンテが完了した愛車が用意されている。あとは着替えてタイヤの空気圧をチェックして走り出すだけで良い。

これ、最高じゃないですか。

平日に纏まった時間が取れなくても大丈夫。作業は大抵小分けに出来ます。例えば今日は30分で分解して明日30分でパーツを掃除して明後日30分で組み立てるとか。これなら何とかなりそうです。

トラブル原因の発見力/解決力が身に付く

自分で愛車をメンテする過程で、自転車の仕組み、構造、各パーツの動き、それらが正常に動作する様子を何度も目にすることになります。すると、いざトラブルが発生した時に普段とは違う箇所を探すことでトラブルの原因が発見出来ます。

構造を知っていれば、手探り状態の作業になったとしても応急処置して復帰出来る可能性が出てきます。その経験値を積み重ねていけば自分の愛車がいじれるようになる。機械いじりの勉強にもなる。

もし、トラブルの対処が自分で出来ない内容だったとしても、ショップのメカニックさんにトラブル原因を的確に伝えられれば対応も違ってくるかと思います。そのまま仲良くなればどんどん知識が増え、自転車オタク街道まっしぐらです!!

私が直面したトラブルで印象深かったのはスライドクランクのパーツが変形して勝手にスライドした件と、変速不調に陥ったフロントディレイラーをよく見たらクラック(ひび)が入って曲がっていたという件。どちらも割とすぐに発見し自分で対処出来ました。


 

自分好みのチューニングを最短時間で

自転車いじりの作業項目の中で最も作業頻度が高いのはポジションの微調整。

自分好みのチューニングを最短時間で

ベテラン勢の皆様ならその場で調整を済ませてしまうかもしれませんが、初心者の方で全く機械いじりが出来ないという場合、違和感を感じたまま自宅又はショップまで走る事になってしまいます。場合によってはそのうち痛くなってきて自分の体を壊すことになりかねません。

ポジション以外にも、変速系とブレーキ系の微調整、ベアリングの玉当たり、バーテープの厚み、ビンディングペダルの硬さ(以下略) などなど自分好みに合わせるべきポイントが沢山あります。

それをいちいちショップに行って症状とニュアンスをメカニックさんに伝えて調整して貰って思ってたのと違ったらまたショップに行って(無限ループ) ...という方法だと結局時間を浪費する事になるので、簡単な調整レベルであれば間違いなく自分で出来た方が良いと思います。

自転車やパーツの目利きが身に付く

実際に自転車をいじり始めパーツ交換もするようになってくると、パーツの良し悪しや相性が分かってきます。

「このパーツは前付いてたやつよりボルト締めた時にカッチリするなー。」
「ここの組付け、パーツ同士が若干引っ掛かるなー。」
「ここは妙にガタが大きいなー。」
「このパーツ摩耗してきたな。」
「このパーツ、何かボルト回しにくくね?加工も雑な気がする…。」
「あ、ここ変形してね?」

などなど。

そういった経験値を積めば、次に買うパーツを手にとった際、

  • どのような素材を使って作られ
  • どの部分を丁寧に作り
  • どの部分で手を抜いてコストを下げ
  • 衝撃を受けた際に最初に壊れるのはここで
  • おおよその性能と耐久性はこのくらいで
  • 総合的に見て自分の用途と好みに合っているかいないのか

といった要点が分かるようになってきます。規格も自然と覚えられます。

新製品や中古パーツを吟味する際に、盲目的に高い(軽い)パーツを買ったりとか、安いパーツを買ったけどすぐ壊れて結局損したりといった事が減ります。そういった目利きの力は普段のメンテからも養えると思います。

ショップに払っていた工賃でショップにあるパーツが買える

学生時代の私です。(笑)

浮いた分でちょっといいグレードのパーツ買うとか工具を増やすとかいった事ができます。あんまりアレコレ言うと全日本のショップの方を敵に回してしまうので、

工賃の利益がパーツの売上利益に変わる

ってことで勘弁してください(^^;

ユーザー側も自転車を買ったショップで引き続きパーツを購入し続けていれば、ショップの方に分からない事を尋ねたり、カスタムの方向性について相談に乗ってもらったり、いざとなったら作業をお願いしたりといった相談もしやすくなるかと思います。

私も内容によっては普通に依頼しています。

ちなみにですが、浮いた工賃で貧乏学生時代の私が中古で買った中で最も印象深いパーツがこちらのRD-7800-SS。今現在も現役ですが壊れる気配なし。良い買い物をしました。

cbn SHIMANO DURA-ACE RD-7800-SS

ざっと思い付くのはこんなもんです。

あと、これは個人的な感覚なのですが、自分で愛車をいじって自分のオリジナル要素が組み込まれて初めて自分の真の愛車になった気がして愛着が増します。

自転車店のメカニックさんが丹精込めて組んで下さったマシンの素晴らしさは疑いようの無いものですが、それだと自分の愛車はまだメカニックさんのものな気がするのです。

クルマでも同じで、純正のままだと自分の物になった気がしません。あちこちを自分の感覚に合わせて調律またはパーツを交換してカスタムしてやっと自分のものな気がします。

組んで頂いた方には失礼な話ですがそう感じてしまうのだ。

自転車を買ったらまず買うべき工具

初心者の方が、自身最初のスポーツバイクを買った後最初にいじる事になるのは、

  • ポジション変更
  • 各部の清掃と注油
  • 出来ればワイヤ系の調整

とりあえずこの3つが出来れば割とストレスなく自転車生活を続けられるのではないでしょうか。ベテラン勢の方々も普段いじる場所と頻度はおおよそ同じだと思います。

この3か所の整備は六角レンチとドライバの使用頻度が圧倒的に高いというかほぼそれしか使わないため、この2つの工具はしっかり投資しておいた方が安物買いの銭失いにならなくて済みます。

私は幸運にも大学入学時に学部生全員が購入させられたKTCの工具セット(自動車整備実習用)があったので、ここに六角レンチ等の必要な工具を追加する形で工具を揃えてきました。

KTCの工具セット
 
KTCの工具セット

KTCが好きなので勝手に広告。

KTCは戦前から旧日本海軍に工具を納めていた京都機械をルーツとし、自動車産業(豊田自動車の車載工具など)向けの工具の製造販売で発展してきた会社です。零式艦上戦闘機や軍用艦を整備した工具の子孫に当たる浪漫溢れる工具で愛車を整備するとかもうそれだけで燃えてきますw

モータースポーツファンの方なら○○のチームと同じ工具だぜw 等と妄想する事もできます。有名どころだと、TOYOTAのF1チームが使っていた工具はKTCのネプロス、TOYOTA が現在参戦中のWRCでもKTCのネプロスが使われています。

高校から自動車工学を学んでいた私にはKTCの社歴を授業のネタ話として聞いて知っていたので、KTCブランドは馴染み易かった。また、高校時代に私が所属していた自動車部の工具箱に入っていたのもKTCで、実習で使っていたのもKTC。最初に手に取った本格的工具という事もあり手に馴染みきっていた。

あと、KTC本社工場が地元。京都府八幡市と久御山町の間に架かるあの有名な流れ橋の近くにあります。

流れ橋

流れ橋は流された後復旧するまでの間、仲間内で「ながれたばし」と呼ばれている(笑)

CBN [名所名物] 流れ橋(上津屋橋)

そんな理由で私は多少KTC贔屓なのだが、他の工具も公平にジャッジして揃えてきたつもりです。

後で出てくる工具の使用感は、仕事とプライベートと学生時代の学校の備品を使い倒して感じてきたもので、個人的趣味趣向が存分に反映されています。(笑) 会社や自宅にある工具で実際に並べたり使い比べ出来るものは実際に比較した感想を書いてみました。

機械いじりは仕事で試してプライベートで本気出すのがモットーです!!←ダメな社会人

では、少々長くなりますが、工具について私の思う事をアレコレ書いてみたと思います。今から購入される方の参考になれば幸いです。

六角レンチ

六角レンチといっても色々なメーカーの色々なタイプがありますが、まずはオーソドックスなボールポイント付きのセット販売品のものをお勧めします。規格はミリ系とインチ系がありますが自転車は基本的にミリ系のみでOKです。

私の思う初心者でも分かる良いレンチの見分け方ですが、まずは

  • セット販売以外にバラ売りの販売形態がある工具
  • 工具をボルトに挿した時に目に入る位置に、メーカーのロゴと型番が刻印された工具

この2つを満たしているものは比較的メーカーが品質に気を配りつつ気合を入れて製造した工具が多いように思います。

「あんたの工具、壊れたのか? じゃあそこだけウチの工具と差し替えて使ってみな。今度は壊れねぇから。もし気に入ったら今度はセットで買ってくれると嬉しいよ。」
「その工具、使い心地はどうだ? その工具を作ったのは○○だ。次もよろしく。」
「なんだこのクソ工具速攻壊れたじゃねーか。ふーん○○の工具か。次は絶対買わねぇ。」

つまりそういう事です(笑)

自転車パーツに例えるなら、SAPIM CX-Rayの刻印が他社製スポークと違う場所にあるのは首が飛ばない自信の表れ(と言われている)と同じです。

CBN SAPIM CX-RAY

少し話は脱線しますが、工具の表面の仕上げは

  • 鏡面(自分の顔が見える)
  • 梨地(細かい凹凸がある渋い銀色)
  • 黒塗り(つや消しブラックな感じ)
  • 荒めのメッキ(若干ザラザラな普通のメッキ)
  • 素地(ザ・金属って感じ)

といったものがあり、この箇条書きの上に行く程高価な事が多いですが、梨地と鏡面は価格差はあれど性能差は殆ど無いと言われています。

見た目重視なら断然鏡面仕上げ。ハイエンドモデルは大抵鏡面仕上げとなっています。鏡面だと汚れが付きにくく拭き掃除が楽というのも利点です。弱点は大量の油が付くと綺麗な油膜が形成されてよく滑る事。

梨地は表面の細かい凹凸にある程度油が溜まるので油が付いていても滑りにくく、グリップ感が良い。私個人はオイルが大量に付着する事も多い車いじりもやるので梨地派。実用性重視です。梨地の弱点は若干汚れが落ちにくい事。特筆するほど酷くはないですが、鏡面と比べると若干…ってやつです。

なお、下3つは安価な工具に多い仕様。黒塗りと素地は錆びやすく、ユニクロムメッキはパリパリと剥がれます。どれもあまり長持ちはしません。

これは六角レンチ以外の工具もおおよその傾向は同じです。

細かいところを見る前にこれらの情報からおおよそ絞り込めるかと思います。

悪いレンチの特徴は上の見分け方以外に、

  • 曲げ加工部が奇麗に曲がっておらず潰れている
  • 真っ直ぐなはずの部分が微妙に曲がっている
  • 表面が荒れている
  • 角がギザギザ

といったモノ。

例えば、本棚とかを買った時に付いてくるような工具。

こういったものは買わない方はいいです。断面が正六角形ですらない物も多いので。(←サラッと怖い事言ってますが事実です。) 

逆にこの最低ラインをクリアしていれば割と何を買っても大丈夫です。

折角なので悪いレンチを見つけてきましたw

悪いレンチ

下の2本が私が愛用しているまともな工具。今年で10年目。若干摩耗気味。上2本がダメ工具。使用履歴は棚を1~2個組んだかな程度。

ダメな方をボロクソにダメ出ししてみます。

  • 上2本共、曲げの形状が雑で肌荒れが酷い。
  • 上2本共、切断面が斜めってる。
  • 上2本共、切断面の面取りをしてないから角で手を切りそう。
  • 一番上の工具、曲げ加工時にクランプでシャフトを潰してますね。
  • 変なところにスジが入ってる。つまり断面が六角形ですらない。
  • 一番上、曲げ角度がおかしい。揃ってない。写真では分からないけど捻じれてる。
  • 一番上、画像左上のとこに巨大なバリがある。
  • 上から2番目、工具が舐めてますね。

棚組んだぐらいで舐めるか普通? 材質名が刻印されてた気がするけど本当にその材質か?焼入れされてなくね? こんな工具でマトモな棚が組める訳ねぇ。棚の購入者ナメてんの?

あ、実際舐めたわ。(笑)

柔らかいアルミボルトにこんな工具を掛けたら壊れます。論外です。

こういった工具をせっせと集めてる方がもし居られましたら即刻捨てて金物屋さんや工具屋さんへ向かって下さい。今から工具を購入される方は、こういった点があてはまらない工具の中から用途に合っていて気に入ったものを購入してください。

ではちゃんとした工具についてタイプ別にみていきましょう。

個人的にはシンプルなオーソドックス型、もしくはオーソドックスでサイズ毎に色分けされたカラフルなものがお勧めです。

オーソドックス型

私の工具はこのタイプ。

短い方は普通の形状。長い方にボールポイントが付いているもの。ボールポイントがあれば工具の差し込み角が若干斜めになってもボルトが回せます。ただし、ボールポイントは固いボルトを回すのは禁止です。工具とボルトが痛みます。(※大パワーで回せると謳っているモデルもあります。)

奥まった場所にあるボルトを大パワーで回せるよう、長い側にボールポイントが付いていないタイプもありますが、自転車整備では使いにくいだけなのでボールポイント付きがお勧めです。

私が使った事がある中で個人的にお勧めのメーカーは、シグネット、TONE、KTC。

シグネットはお手頃な割に加工精度や品質が高い。感触は硬め。

TONEはKTCの倍程の高値ですが私の職場で最も人気が高いハードユース志向の工具。私も実際かなり丈夫に感じています。相当無茶をしてもなかなか壊れません。メッキも強くて磨耗に強い。面取り加工も非常に丁寧で美しい仕上がり。感触は硬めです。

KTCは逆にバネ感というか粘りが強い柔らかめの工具で、固着したボルトの脱着等のハードな使い方は若干苦手な印象がありますが、どれぐらい締めたかを目と手の両方で掴めるので締め過ぎにくいという利点があります。

値段はスタンダードモデルならシグネットよりちょびっと高いぐらいでほとんど変わりません。面取り加工等は割と荒めですが、よく見ると要所の精度はしっかり確保してコストダウン出来る所は敢えて荒くして価格に反映している印象。

他のKTCの工具にも言えますが、使い込むとアタリが出て何とも言えない良い感触になる。欧州車(自動車の方)のドアみたい。TONEと同じぐらいの値段のハイグレードタイプもあるよ。

工具の固い柔らかいの好みは自転車のフレームと似たようなもので作業者との相性があります。でも精度さえしっかり出てればどのメーカーの工具を選んで貰ってもOKだと思います。

他にも高品質なレンチを製造販売する有名メーカーはいろいろありますので、カタログ等を見て製品コンセプトを読んで納得してから決めるのも全然アリだと思います。

コンパクト型

長い側のシャフトがわざと短く作られているタイプ。

狭い場所の作業用のものですが、自転車いじりではあまり出番がなく、私も持っていません。てこの原理的に長い方が作業しやすいと思います。

短い側が更に短いタイプもあり、これは狭いところと工具にカッチリ感が欲しい時に使用します。自転車に使うと短過ぎて周りのパーツに当たって回しにくい事が多いです。例えばボトルケージみたいに少し奥の方にボルトの頭があると工具が掛からず回せません。自転車は案外こういうところが多い。

これらの工具は工具自体が悪いわけじゃなく、自転車いじりという作業に若干向いてないだけです。

幾つかの工具がアーミーナイフのように纏まったBoxタイプもありますが、こちらは携帯工具向き。出先での調整はこちらが良いでしょう。私が貧乏学生時代使ってたのはこのタイプ。実は今も持ってます。

幾つかの工具がアーミーナイフのように纏まったBoxタイプ

メーカーはロゴが消えてて識別不能(^^;

メッキがパリパリと剥がれまくっていますのでお世辞にも良い工具とは言えません。良い工具はどちらかというとメッキが剝がれる事なく摩耗していく傾向があります。

分かっちゃいたのだがあの頃は本当に金がなかったのだ(^^;

カラフル型

サイズが一目で分かるよう色分けされているタイプです。スタンダードモデルに更に手を加えたタイプが多いので製造の手間が増える分少し値は張りますが、こちらの方が使いやすいという方はアリだと思います。工具箱の中が華やかになりますしねw

私はというと、長年機械をいじっているせいで身に付いてしまった、工具やネジ類のサイズを目測で見分けられる能力(職業病)が仇になって膨張色や色付きグリップを被せてあるタイプとかだとかえってサイズを見誤るため使用していません。

特殊形状型

ちょっと変わった断面形状(※ボールポイントは除く)になっている六角レンチでドイツのヴェラ社が有名。角がボルトに食い込むような形状になっていて、いつも通りの力加減でも強い力でボルトを回せます。固着しかけ、舐めかけのボルトにも喰い付きます。本当に凄いですよこれ。

ただし、締め過ぎには要注意です。仕事でヴェラの六角レンチを時々使いますが、コイツでいつも通りキュッと締めたつもりのボルトを普通の六角レンチで緩めるのは一苦労。

momochi_gyugund先生のように、

「デヤァァァーーーッ!!」

と気合を入れなければならない。(いや、ホントマジで。)

1本だけとかならネタで済みますが仕事で何十本何百本とか緩めるのは本当にしんどい。

こういった工具は固着しかけのボルトを緩めるのには強い味方ですが、うっかり普通の六角レンチの力加減で締めてしまいそうなのでカーボンパーツには絶対使いたくない工具です。

まぁ使い慣れれば大丈夫ですけどね。多分。

私のメインの六角レンチは、

CBN SIGNET 35228 9PC ロングボールヘックスレンチセット

です。1.5㎜のとこだけ紛失してしまってTONEが代わりに入ってます(笑)

SIGNET 35228 9PC ロングボールヘックスレンチセット

シグネット社はカナダの会社。自社工場を持たないファブレス企業ですが、北米大陸に何百とある一流工具メーカーの中から工具の種別毎にOEM先を厳選しているため、比較的品質の高い工具を取り揃えています。

日本でも普通に流通しており、アストロプロダクツとかで普通に売ってます。このレンチセットは購入当時1,700円でした。選定理由は当時仕事で使ってた工具と同じモデルだったからです。

ハイエンドモデルの工具が最良の工具とは限りません。精度や耐久性といった最低限の性能さえ満たしていればどれを手に取っても自由。それならば、より触れている時間が長く手に馴染んでいる工具がベストと判断しました。

ちなみに今仕事で使ってるのはTONEとKTCが半々ぐらいなので買い換えるとしたらそのどちらかにするつもりです。

トルクレンチ

さてトルクレンチですが、近年はカーボンフレームが主流となりつつあるため必須度が高まってきています。しかし、無いと全くいじれないという訳でもないし値段も結構高いので必須にはしませんでした。

でも、自転車いじりを初めてすぐは力加減が分からないと思うので、保険として買っておいても損はないと思います。微妙な立ち位置です。

という私はというと、アストロプロダクツで投げ売りされていたアストロプロダクツブランドの安いモデルです。

アストロプロダクツのトルクレンチ

モデル名は忘れましたが、CBN本館に同じ外観の工具がチラホラあるので多分これもどこかのOEM品だろう。

購入当時私はクロモリフレームしか持っていませんでしたので実はトルクレンチ自体あまり必要ありませんでした。

しかし、ある時チェーンリングのボルトの締付けトルクがバラついてチェーンリングが歪むという現象に悩まされ、そのトルクを揃えるためにトルクレンチを購入。締付けトルクが揃っていればいいので数値の精度は余り気にしていなかった訳です。(笑) 実はこういった使い方も出来ます。

後でカーボンフレームな自転車を買い足したり、パーツのボルトにトルク指定値の指示が増えたりとなんだかんだ本来のトルク管理にも使う様になりましたが特に問題もなく使えてます。

私のはあまりいい例ではありませんが安いのでも構わないので、保険として持っといた方が良いです。

あんまり参考にならなくて申し訳ない(^^;

トルクレンチを選ぶ時のポイントは、

  • ラチェット機構式
  • ソケット交換式
  • プレセット型(コクンッって曲がるやつです)
  • トルク値0~15[N・m]ぐらいまで計れるやつ

ぐらいのスペックの工具が1本あれば殆どカバーできるかと思います。

学生時代の実習や仕事では、株式会社中村製作所のKANONブランドの工具をよく使ってました。(ます。) デジタル式も良いですが、個人で使う場合は使用頻度が少ないので電池切れの心配のないアナログ式の方がオススメです。

ちなみにスプロケのロックリングやBB等の大トルク(確か40~50[N・m]ぐらいだっけ?)が必要な場所はモンキーレンチと専用工具類を使用しています。いわゆる手ルクレンチです。けど初心者の方がいきなりいじる場所でもないので今回は割愛で。

トルクスレンチ

それとたまーに出くわすトルクスネジ。

発見して必要に迫られたときは仕方がないのでミリ規格のトルクスレンチも買ってください。

トルクスレンチ

個人的お勧めメーカーは六角レンチと同じメーカーです。メーカーを揃えておくと同じ感覚で使いやすいです。トルクスねじを多用する方はこの方法がベストだと思います。

ソケットタイプのトルクレンチをお持ちの方はソケットだけ買ってくれば経済的にお安く解決出来てしまったりするのでお安く済ませたい方はそちらの方法もお勧めします。

私はまたまた登場のアストロプロダクツ製トルクスレンチで緩めて六角穴付ボルトに差し替えるという非道な技を使うので緩められたらいいやってときはアストロで、ちゃんとしたい時はソケットレンチ&トルクレンチで対応してます。

ドライバ

ドライバにはサイズがあって正しいサイズを都度選択する必要があるのですが、

コンポ回りでしたら、

  • プラスドライバは2番
  • マイナスドライバは4~5.5mm幅

のサイズになるかと思います。

自転車本体(コンポ類含む)をいじるだけならプラスドライバはほぼこれ1本でいけます。マイナスドライバは多少サイズが前後しても使えてしまうのでプラスドライバと同じサイズ感で上記の幅ぐらいのサイズが使いやすいかと思います。

サイコンや灯火類用に精密ドライバのセットが必要ならこれもあった方が良いでしょう。

ドライバ類も六角レンチ同様数多のメーカーから数多のモデルが出ていますが、押さえておいた方が良いなと思う機能は、

  • 先端がマグネットタイプ
  • 出来れば貫通ドライバ

この2点です。

先端がマグネットだと、パーツの奥の方にボルトを差し入れたり、ボルトとかベアリングの玉とか拾う時に便利なのでお勧め。貫通ドライバを勧める理由は固着したボルトや舐めかけたボルトの頭に衝撃を加えながら回せるためです。スポーツバイクでは滅多にやりませんがママチャリとかをいじる時たまにやります。

良いドライバの見分け方はネジを差し込んでみるのが一番。寸分のガタなくスッとはまり、真横に向けてもネジがドライバに吸い付いたかのように真っ直ぐになれば、それは良いドライバです。

良いドライバ

ちなみに磁石機能付でもステンレスネジを挿せば磁石は関係無くなるのですぐバレますよw 上の写真もステンレスねじです。奥にコップも置いときました。間違いなく水平です。

この見分け方はドライバの摩耗具合を調べる時にも使えます。摩耗したら新しいドライバに更新してください。

個人的お勧めは…というかドライバ探しで最初にチェックして頂きたいメーカーがあります。

そのメーカーとは、日本のVESSEL。ドライバ製造から始まった会社なので圧倒的バリエーションで色々なタイプが選べるうえ、比較的低価格で流通量もトップシェア。そこら辺のホムセンでもちゃんとした工具屋さんや金物屋さんでも大抵置いてます。

グリップは木とかゴムとかプラスチックとか丸とか四角とか五角とか六角とか八角とか色々な形状がありますが、私は丸断面の木柄とVESSELが得意とするボールグリップ型が好みです。

KTCの工具セットによく付いてくる四角断面グリップは力は入りやすいのですが、ディレイラーの可動範囲調整ボルトみたいに回転角の微調整を必要とする作業では四角断面だと持ち方が制限されて回しにくく感じたり急激に回ったりするように感じたりするので使ってません。

しかし、KTCのボールグリップはVESSELより細身なので微調整用として気に入っています。(※借り物) 私がお世話になっている工房でも良く見かけます。

私が使っているのは大学の工具セットに入っていたKTCの木柄ドライバ貫通タイプ(±)と樹脂柄スタッビドライバ(±)と樹脂柄細軸ドライバ(-)が未だ現役w 

KTCの木柄ドライバ貫通タイプ(±)と樹脂柄スタッビドライバ(±)と樹脂柄細軸ドライバ(-)

特にマイナスドライバはボルトを回すより、グリスをすくってパーツの隙間に押込んだり、ウエスを巻き付けて穴に突っ込んだり、何か剥がしたり、固着したパーツの隙間にハンマーでカチ込んだりと本来の使用目的外での活躍が非常に目立ちますが、なかなか丈夫です。(良い子はなるべく真似しない。)

基本的に軸が長い程軸の角度がブレにくくネジ山を傷めにくいので作業スペースの許す範囲内で長めのドライバを使用する事をお勧めしますがどうしてもスペースがない時はスタッビドライバという短いやつを使います。スタッビは回す時の軸の振れ角が大きくなりがちでネジの頭を痛めやすいのでなるべく使わないようにしていますがたまーに出番があります。

精密ドライバはENGINEERやSK11辺りのセットが入手しやすくお手頃でそこそこ質も高いのでお勧めです。

あと、ラジコンやプラモ好きの方が高確率で持っているであろうTAMIYAブランドの精密ドライバも高品質。私も釣り具メンテ用として小学生の時から使っているタミヤブランドの精密ドライバが未だに現役です。

プライヤ

ワイヤを張る時にあると便利なのが先の細いプライヤ。普通のペンチやラジオペンチや釣りとかのレジャーで使うプライヤでもOKですが、切断機能は正直要らないです。自転車のワイヤを切る時は「専用のワイヤカッタ」を使った方が良いです。なので挟んで引っ張る作業にしか使いません。そういえばニッパもタイラップ(結束バンド)を切る時ぐらいしか使わないかも。

プライヤ

プライヤはワイヤ張る時の他、固着してネジ山が潰れかけた時あの開く機能でパワーアップして挑むとクリアできる事とかあるのでお守りにもなります。

ラジオペンチであれば100均工具でも行けそうな気がしますが、合わせ面が水平じゃなかったりちょっとひねったら捻じれてワイヤを取りこぼしたり、合わせ面が反ったり等、なかなかストレスフルなので1本良いやつを買う事をお勧めします。長年使えますし。

個人的お勧めメーカーはプライヤがKTCで、ラジオペンチは比較的手に入りやすい東大阪の専業メーカーフジ矢さんと、少し重いですが剛性感があって力技を繰り出しやすいクニペックスさん。あと、何気にKTCのペンチニッパ類がカッチリしてる割に動作が軽くて長持ちなので好きです。

自転車専用工具でお馴染みのホーザンさんのプラスチックニッパもスパスパ切れて楽しいのでお勧めです。

ケミカル類(グリス・オイル・パーツクリーナ・ウエス)

ふははは!! いきなりだが、深淵なるケミカル底無し沼へようこそ!!

ケミカル類(グリス・オイル・パーツクリーナ・ウエス)

ケミカル類は使用目的によって使い分けたり樹脂への攻撃性を考慮したり、ベースオイルだ添加剤だ粘度だちょう度だってやり出すとキリが無いぞ!!

まずはこの分厚い専門書を読んで勉強するがいい...。ドゴォーン!!

…ってな事になって収拾がつかないので、まずは下記のものから始めることをお勧めします。

  • グリス:シマノプレミアムグリース(旧名:デュラグリース)
  • オイル:ワコーズメンテルーブ

超ド定番です。大手メーカーの純正とその業界のド定番は何処に行っても偉大です。

まずはこれを使ってみて、不満があれば自転車用ケミカルを順番に試していくのが良いと思います。ワコーズが高いなと思った方には最近CBNで流行りのエーゼットもお勧めです。

これらを勧める理由は、まずプレミアムグリースは耐久性。パーツに詰めた状態で平気で数年持ちます。またパーツにまとわりつく様な粘り気があるので油膜切れしにくい。単純に良い潤滑剤だと思うからオススメです。

メンテルーブはしっかり潤滑してすぐ汚れるからです。 ...エ、ナニイッテンダコイツ。

というのも、オイルが汚れるのはパーツについた汚れをオイルが洗浄して溶かし込んだ結果黒くなるので悪い事とは限らないのです。そしてサッと落ちる。メンテの習慣を今から付けようという方にはこういうオイルがオススメです。こまめにメンテする人向けとも言えます。

ワコーズ製品といえば、クルマ用のエンジンオイルもすぐ汚れるんですよねー。洗浄力が凄すぎて。

オイル(潤滑剤)としてももちろん優秀。更にオイルによるパーツの洗浄。更に更に汚れたオイルの洗浄と新しいオイルの注油。必要であればそこまで考えて製品作って出してくるのがワコーズ。私が思うにワコーズってそんなメーカー。

エーゼットはとにかく安価で高性能。本当大阪発の庶民の味方って感じ。

そうそう。有名なKUREの5-56ですが、アレは成分の7割が有機溶剤で残り3割が鉱物油で出来ています。有機溶剤は自転車の樹脂パーツや塗装に悪影響が出る上、有機溶剤の浸透力によりパーツの奥底に入り込んでグリスを分解するので自転車の潤滑用途には向いていません。

固着したボルトを緩めるのには便利ですがそれ以外の使い方で自転車に使うのは危険なので注意しましょう。

若干脱線しましたが続きです。

パーツクリーナはホムセンの一番安いやつでOK。 ブレーキクリーナも似たような用途に使用するもので、駆動系などの洗浄であれば基本的にどっちでもかまいませんが、ディスクブレーキに使用する場合はブレーキクリーナにしましょう。モノによってはブレーキが効きにくくなります。

ウエスというのは、言葉に馴染みのない方に説明しておくと汚れを拭くための布の事です。タオル地とかメリヤス地とか紙タイプとか色々あります。基本的に使い捨てです。

購入する場合は作業服屋さんやホームセンターに○kg○円みたいな感じで売ってます。中身は衣服を製造する際に出た切れ端やNG判定になった製品の再利用など多種多様。質感も多種多様(笑) どんなのが入っているかは開けてからのお楽しみ。

しっかりした物が欲しい方は日本クレシアさんが製造販売しているキムタオル(ワイプオール)がオススメ。値段は高いですが糸くずが出にくく液体の吸収力も高いため作業性は優秀。

安上がりに済ませたい場合は自宅の古タオルやTシャツでも構いません。私は古タオルか古Tシャツをハサミで切って使ってます。

100均活用・自作工具・便利グッズの類

100均で売ってるお勧めグッズ

100均で売ってるお勧めグッズ

  • 樹脂トレー(分解したパーツを入れる)
  • 樹脂ボール(分解したパーツの洗浄用)
  • バターナイフ(グリスを塗る時に便利)
  • 小さいカップ(グリス調合用)
  • スポンジ、ブラシ、亀の子たわし、ゴム手袋などなど。

台所コーナーは便利グッズの山です。是非活用しましょう。自作工具はステンレスワイヤを曲げて作ったベアリングのシール剥がしキット(釣具のチューニング用を流用)やポジション出しに使う重りに糸結んだだけのアレとかぐらいかな。そんなに多くは無いです。

あと、便利グッズ…というかケミカルなのですが、フィニッシュラインのファイバーグリップ。自転車屋さんで手に入ります。

CBN FINISHLINE FIBER GRIP

ステムとシートポストに塗っておくとずれにくくなる超便利グッズです。一応カーボンパーツ用ですが、金属でも有能ですよ。

最初に揃えておく工具のまとめ

長くなったのでまとめると、自転車いじりで最初に揃えておくものは、

  • こだわりの六角レンチセット
  • 0~15[N・m]ぐらいのスペックのトルクレンチ(保険として持っておきたい方用)
  • こだわりの2番プラスドライバ
  • こだわりの4~5.5mm幅のマイナスドライバ
  • 精密ドライバセット(後で買っても可)
  • こだわりのプライヤ(ラジオペンチ)
  • シマノプレミアムグリース
  • ワコーズメンテルーブ
  • ホムセンの安いパーツクリーナ又はブレーキクリーナ
  • ウエス
  • 100均のトレーとパーツ洗浄用台所用品

ぐらい揃えておけばしばらくは比較的ストレスなく自転車をいじれるかと思います。あとは実際にいじってみて、必要が出てきた工具から順番に揃えていけばいいかと思います。

最後に工具を買いに行く場所ですが、ホームセンターは実は本格的工具は少なくて、本当に軽くDIYする人向けの工具が大半です。しっかりとした工具を手に入れたければ、金物屋さん、工具専門店、道具屋さんといった割とガチな所に行く方がちゃんとした工具を色々見比べて選ぶことが出来ると思います。

ホムセンの一番本気な工具コーナーの一角や一番高い値札が貼ってある工具(大抵TONE、KTC、VESSEL、フジ矢のスタンダードモデルが多い)がガチな店の標準レベルラインぐらい。ガチな店のガラスケースの中にあるのがプレミアム級ハイエンド工具。品質ランクが1~2段階上がりますよ。

自転車いじり(機械いじり)の心得

さて、工具も揃ったので早速いじっていきます。

書店で買ってきた自転車のメンテナンス本を開くと「ああしろこうしろ」と作業指示が載っていて、基本的にはその通りに作業を進めれば自転車いじりは出来ます。

しかし、それをやる理由が抜けていたりして、イマイチ内容に納得できず不安なまま作業を進めなければならない場合もあります。工具の安全かつスマートな正しい取り扱い方法に至っては大抵何処にも載っていません。

ネットでも検索してみましたが、昔ながらの職人系の人たちのやり方は全く出てこなくて愕然としました。

私が今から紹介するのはその技なのですが…。大丈夫か日本の製造業。

この章では私が作業中特に気を付けている、機械いじりの要点について記していきたいと思います。機械いじりと書いたのは自転車だから作業中に特別な行動を取る必要は無く基本は全く同じだからです。

内容的には堅苦しい学問的なものではなく、作業しながら頭に思い描くイメージ図みたいなものやちょっとしたコツとかです。なので専門用語や数字はなるべく使わないようにしてみました。

金属はちょっと固めな粘土またはコンニャクのようなもの

金属は固いから人力程度じゃびくともしないから少々ラフに扱っても大丈夫。と思われる方が世の中の大多数かと思いますが、工具を使ってボルト類を締めるという行為はボルトで締めた個所に大きな力を発生させるため、金属は簡単にたわんだり反ったりひずんだりします。ボルトの周りに光を反射させるとうねうねと曲がっているのが肉眼でも見えると思います。

ではその力がどれぐらいのものかと言うと、例えばよくステムとかに付いてるM5ボルト(ネジ部の直径がΦ5[mm]のボルト)1本を3[N・m]に設定したトルクレンチで優しく締めたらざっくり200[kg]弱の推力(ボルトが部品に潜り込もうとする力)が出ます。 手締めでテキトーにキュッ!ってやったらもっと大きな推力が出ますよ♪(にこっ☆)

凄いでしょ? ちょっと締めただけで直径5[mm]の円に200[kg]ですよ!! ※詳しく知りたい方は『ボルト 推力』でググってみてください。

とまぁちょっとビビったところで作業を開始しましょう。ビビる事はいいことです。パーツを壊す確率が減るので。

部品の変形を考慮する作業の分かりやすい例が、複数のボルトでパーツを固定する作業。自転車だと、チェーンリング、ブレーキディスク、ステムなどです。

こういったパーツは下記の手順で締め付けます。

  1. 先に全てのネジ穴にボルトを差し込んでおく。(まだ締めない。)
  2. 全てのネジを手または工具を使って軽い力で回せるところまで、またはボルトの頭がパーツと接触する少し手前までボルトを回す。
  3. 目標締付けトルクの半分ぐらいの力で対角に締める。
  4. 目標トルクで対角に締める。
  5. 目標トルクでもう1回対角に締める。
  6. 工程5をボルトが動かなくなるまで何度でも繰り返す。
  7. 完了。

手順自体は一応メンテナンス本にも載ってますが、その理由はあまり載ってないのではないでしょうか。

先にボルトを差し込んでおく理由については、最初の1本を強く締めてから次のネジ穴にボルトを差し込もうとすると、もし穴の位置がずれていた場合差し込む事さえ出来ず困るからです。無理矢理突っ込めたとしてもネジ山を傷めます。すんなり入ったらそれは単に運が良かっただけ。基本的に全てのボルトを差し込むまではパーツにガタがある状態で作業しましょう。

対角締めをする理由と、対角締めを何度も繰り返す理由については、下の図をご覧頂ければイメージが湧くかと思います。

対角締めをする理由と、対角締めを何度も繰り返す理由

※敢えてイメージしやすいように長方形のパーツで描きました。
※不要な線はややこしいのでなるべく消してます。本職のエンジニアの皆様、中心線が抜けてるとか断面図の描き方がなってねぇとかそこら辺は許してくださいね?

なぜこんな事をするかというと、例え歪みのないパーツ同士でもボルトで締めると歪むので、その歪みを取りながら(分散させながら)締めるためです。この歪みを分散させる締め方を円盤状のパーツでやるのが対角締めです。

何回も締める理由を下の図の通り。

何回も締める理由

となるから。この絵では分かりやすいように金属より柔らかいパッキンを挟んでいます。パッキンの潰れ量を均一にしつつパーツの歪みを分散させつつ目標トルクで締めようとすると、段階的に締付けトルクを増やしつつ何度もトルクレンチで締める必要があると分かって頂けると思います。

パッキン無しで単に金属部品を固定するだけでも金属が変形して同じ現象が起こりますので同じ方法で締める必要があります。

緩める時は締める時の逆で、なるべく外側から順に開放していきます。

ちょっと難しかったですが、こんな感じで常に金属の変形をイメージ映像として想像しながら作業しましょう。

繰り返しになりますがボルトが発生する力は案外強力で、金属は案外柔らかいのです。本当に穴の開いたコンニャクにボルトを挿して締めているような大げさなイメージを頭に思い浮かべながら作業をすると上手くいくと思いますよ。

カーボンは薄い竹みたいなもの

竹の筒に金属の棒を突っ込んで水道に使うホースバンドで竹を割らないように締め付けて固定してくださいと言われたら誰だって慎重にやるかと思います。カーボンフレームにシートピラーを固定したりカーボンフォークにステムを取付けてボルトを締めるのはまさにそんな感じです。

カーボンは薄い竹みたいなもの

カーボン樹脂(CFRP)は竹と同じで、ミシミシとかパキッいう音が聞こえた瞬間にはどこかでカーボン繊維が切れるか剥離して手遅れになります。見た目は大丈夫でも内部でトラブってます。気付いた瞬間が手遅れです。そしてボルトの発生する力は強力。ボルトの指定トルクは絶対に守りましょう。

また、竹の筒に金属棒を突っ込んだ時に砂粒等が入れば、それは楔(クサビ)の様に機能してそこから一気に割れます。傷が入った場合も同じでそこに一気に応力が集中して割れます。後で方法について詳しく出てきますが、カーボンに限らずパーツの組み付けは清掃してからが基本。特にカーボンパーツは慎重に。

私は自転車ではやらかしたことないですが、釣竿は何本も折ってきました。高弾性カーボン繊維を使った軽くて値段がお高いモノほどあっさり逝きます。竿の継ぎ目に砂が入ったりしたらもう最悪です。

自転車がそこまで弱いとは思いません(思いたくないです)が素材は同じカーボン樹脂なのでシートクランプとかベアリング圧入は怖いです。もし異物噛んだらあの時の竿みたいに...。

カーボンパーツの個人的な取り扱いイメージはそんな感じ。もうとにかくしっかり清掃して慎重に力を掛けてってやっていくしかありません。想像するだけでも心臓に悪い話ですね(^^;

工具を掛けた後、力を入れる前に探りを入れる

ボルトの頭などを舐めないようにするためです。

工具を掛けた後、力を入れる前に探りを入れる

  1. 軽い力で工具を掛け
  2. 軽い力でカチャカチャ動かす等して収まりの良い場所を探りつつ工具を奥まで差し込む。
  3. 場所が決まったらずれないように手を添えて
  4. 力を掛けるべき方向に真っ直ぐ力を加える

この手順を守っていればまず大丈夫です。

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

骨で押す。どっかで聞いた言葉ですね。某ペダリング教本とか。

CBN 日東書院 宮澤崇史の理論でカラダを速くするプロのロードバイクトレーニング

骨を押すという言葉を言い換えるとなるべく体の末端の筋力(腕の筋肉)を使わないで、工具や体の重さや体幹といったより大きなエネルギーを持った部位を使って力を掛けるというもの。疲れにくく、怪我もしにくい力の掛け方。本質はこちらのペダリング教本の内容も工具の扱い方も全く同じものです。

これが一例。

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

こちらが作業者(私)目線から見た良いフォーム。

  • 腕が一直線の突っ張り棒状態
  • 腕と工具は直角
  • 工具の端を持つ

この状態で突っ張り棒状態の腕に体重を掛ければボルトが回ります。腕の筋肉は使ってないので疲れ知らず。体重を支えている大きい筋肉は力に余裕があるのでコントロールが効き、急にボルトが緩んだ際に止められるため安全でもある。

工具を引く時もフォームは同じ。上半身を起こすか胴体をねじるかして腕を巻き上げるイメージで工具を引くと体幹の筋肉を使えます。私は押す方が楽なんで基本的に押してばかりですが、人間は引く方がパワーが出せる(確かそうだったはず)ので本気出す時は引きます。

これが一番多用する基本のやり方です。

大トルク低速度が理想的です。

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

悪いフォーム。さっきの逆で、腕の筋肉のみで工具を回そうとしています。急にボルトが緩んだり工具が外れたりすると自分の腕を急には止められず何処かにぶつける可能性が高いです。

ここでちょっとトリビア。

スタンダードサイズの工具の長さはその工具を正しい持ち方と正しい手順で「普通の力加減で締めた時」にざっくり適性締付けトルクになるように考えられて作られています。パイプ等で工具を延長する場合はボルトや工具を破壊しないようにご注意ください。

ドライバも基本的には同じ要領。体の使い方は同じですが、ネジが舐めないようにすることに重点を置く点が異なります。

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

  • 右腕とドライバの軸を一直線にしてネジの真上から体重を乗せ
  • 左手で軸がブレないように支えつつ
  • 右手をねじる

ドライバとネジは構造上捩じると浮き上がるので浮き上がる力に負けないよう真上からしっかり押さえてください。ドライバは腕の力で回すので何本もボルトを扱うとレンチでボルトを回すより腕が疲れます(^^; それで普通です。

他に初心者の方はあまり積極的にいじる箇所ではないですが、ハブ軸のダブルナット等同軸に2本工具を掛けるような場合は、

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

という風に握力を使うのも安全に作業するいい方法です。工具1本でも近くに支点に出来そうな棒があれば一緒に握るのもありです。

次にプライヤやペンチはこう。

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

骨で押し、肉で感じる(工具への力のかけ方)

私自身は無意識にこの二つの握り方を切り替えるので普段どっちで作業してるか自分でもよく分かっていませんが、片手のみで開けるように握るのがミソ。自由自在な開閉や微妙な力加減が出来るよう、内側に指を掛ける癖をつけましょう。美容師さんのハサミの持ち方を参考にするといいかもしれません。

要点を纏めます。

  • なるべく体重移動や体幹の大きい筋肉を使う
  • 末端の小さい筋肉(腕など)はなるべく使わない
  • 工具が手の肉に食い込む感覚に神経を集中
  • 握力を利用する方法もアリ

作業したい場所によってはこれらの方法で作業出来ない時もありますし、危険が伴う場合は自分がすぐ逃げれる方向へ工具を操作する事もあるので状況に応じて使い分けます。なので、常にこれをせよという訳ではありません。安全優先です。詳しくは次の章へ。

力の掛かる先に要注意。(安全対策)

自転車いじりにおいて最も危険と個人的に考えている、チェーンリングの脱着作業をします。

チェーンリングは刃物です。どのくらい危険かって、クランクに取付けた状態で自宅のあちこちに飾っておけばいざという時に強力な防衛武器となります。

それ故にチェーンリングボルトを取り扱う際は細心の注意が必要です。軍手等の手のカバーはもちろん必要ですし、チェーンリングにウエスを掛けてカバーするといった対策も有効です。それでもチェーンリングの歯はバリアを突破してきますけどね…。

具体的対策は工具を掛けて力を入れる前に、

「この状態で力を入れてもし突然ボルトが緩んだらどうなるだろう」

と一度立ち止まり自分の手の位置の未来予想をしてから力を掛ける。これしかありません。これはチェーンリング以外の場所のボルトでも常に心に留めておいてください。大怪我しますので。

ダメな例。

力の掛かる先に要注意。(安全対策)

この状態から急にボルトが緩む(反時計回しに回す)とボルトが緩んだ瞬間拳の先端がインナー側チェーンリングの歯(刃)に刺さります。

良い例。チェーンリングのボルトを緩めるならこの向きが望ましいでしょう。

力の掛かる先に要注意。(安全対策)

これなら怪我はしません。写真はイメージ優先なのでやってませんが、本来であればパーツは何かに固定した状態でやるのが理想です。そして、心得4の『骨で押す』が出来ていれば緩んだ瞬間に工具を止められるのでより安全です。

パーツをバラすと同時に即席3D組図を作る

実際の作業では怪我も心配ですが、

「パーツを分解してもし戻せなくなったらどうしよう」

という心配もつきもの。機械いじりの作業に入る前に誰しも思う事です。

ぶっちゃけ取扱説明書やメンテナンスマニュアルやメンテナンス本を見れば大抵大丈夫なんですが、作業中に油の付いた手でページをめくって…って面倒ですよね。そこで先程工具の項で書いた100均トレー登場。ここに分解してパーツ並べとけばもう何も怖くない。イメージ図はこれ。

パーツをバラすと同時に即席3D組図を作る

画像はシマノさんのWebマニュアルより借用。この図を実物のパーツを並べて作ればいいのです。

トレーに置く際のパーツの裏表は、「自分ルール」を決めて対応してください。例えば自転車の進行方向右側の面を上にして置くとか組図のパーツを○方向に将棋倒しした時のイメージで並べるとかそんな感じで。慣れてきたら各パーツの摩耗痕で裏表を見分けられるようにもなりますよ。私は初見のパーツでも取説無しで、この方法で分解組立してます。

なお、トレーでは小さ過ぎるという場合は、キッチンペーパーを机などの上に敷いてパーツを並べたり、工具箱の蓋の裏に並べたりもします。

洗浄と注油

パーツをばらして再組付けする時は、例えボルト1本でも必ず洗浄(汚れの拭き取りでもOK)し、グリス又は焼付き防止剤(チタンパーツの場合)を塗布してから組付けましょう。

ネジ山にゴミが付着しているとそれ自体が抵抗を生むのでトルクレンチを使って規定トルクで締めても実際にはトルクの一部が抵抗に食われてしっかり締まりません。

「ジャリッ」

という感触がしたらやり直し。

柔らかめの布(私はタオル地ウエスが好み)とパーツクリーナを使ってしっかり洗いましょう。私はこの方法で汚れを拭き、この方法でグリスを塗ります。

洗浄と注油

ウエスでボルトをつまんで工具で緩める(締める)ように回します。タオル地ウエスでやるとネジの谷の底まで簡単に綺麗にできます。

洗浄と注油

いーとーまきまき いーとーまきまき ひぃーてひぃーて とんとんとん♪

という歌がありますが、ボルトの片一方でグリスをすくい、ネジ山同士を噛み合せた状態でその巻き巻きの動きをやれば手を汚さずにボルト2本を同時にグリスアップできます。

焼付きの話は実際焼いてみないと分からないものですが、試してみたい方は太めのステンレスボルトとステンレスナットを強めに締めたり緩めたりを繰り返せば簡単に焼け付きますよ。

熱伝導が悪い、つまり熱の伝わりが遅い金属ほど焼けやすい金属と覚えておくといいと思います。ステンレス以外だとチタンが危険。

悩んだら無理せず自転車屋さんへ

うっはwこれ無理ww

と思ったら無理せず自転車屋さんへ行きましょう。無理して壊してから自転車屋さんに持って行っても手遅れになるパターンもあり得ますし、高価な専用工具を買う必要がある箇所とかなら大人しくお願いする方が結果的に安く確実に出来ます。

自分で作業できるようになりたい箇所については一旦は作業をお願いしてメカニックさんに教えて貰うのもOKです。

でも…。(次の心得に続く)

自転車屋さんの作業は最高のお手本

と考え、メカニックさんの手元を凝視しつつ、可能そうであれば質問してみたりしましょう。私はこの方法でホイール組めるようになりましたよ。6年掛かったけど(笑)

また、メカニックさんが使っている工具は大抵それなりの理由やこだわりがあって選ばれた有名工具メーカーのものばかり。工具を買う時に大変参考になるのでこれもよく見ておきましょう。逆に変な工具使ってるショップは怪しいぞ?w 幸いにも遭遇したことないけど。

私の自転車専用工具は大阪の某ショップのメカニックさんが普段使用し、オススメ又はベタ褒めしていた工具を選んでいるパターンが数多くあります。

メーカーマニュアルや、マニュアル本の活用

ここまでの記事の中ではなるべくマニュアル本に載っていないもの、読む前に知っておく方が良いと思ったことを中心に書かせて頂きました。なぜなら、細かい調整値や組付順序や完成体のイメージ写真は私がここで長文を書くよりマニュアルを参考にした方が確実だからです。

ネット上から情報を得てもいいですし、YouTubeでもOK。

調整箇所や調整方法はコンポや年代によって全然違うし、ワイヤのルーティングなんてフレーム毎に違うし、ワイヤの曲げとか末端処理とかバーテープ巻き(下処理含む)とかディレイラーの可動範囲とか完璧な玉当たりの感触とか(もはや職人技の領域)$%&#…。

そういった高みへの追求は各々流派とか個性とかあった方が趣味として面白いと思いますし、私のその領域となるとまだまだなので凄く気になるところではあります。

私の考える機械いじりをオススメする理由と安全面でお伝えしたいことは以上です。

最後に。愛車の整備が終わったら工具のメンテナンスもお忘れなく。

CBN 工具(主にハンドツール)のメンテナンス術

いい工具は末永く使って手に馴染んでこそ本当のいい工具になれるんですよ。

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著者
kazane

自転車の他、クルマと釣りを主な趣味とする技術職サラリーマン。自動車系学科で学んだ経験を自転車趣味にも流用し、ツーリングやレースを楽しみつつ機材の実験も並行して楽しむ、何でも自分で触りたいねん系サイクリスト。機械いじりは仕事で練習して趣味で本気出すのがモットー。関西人だけど訳あって熊本在住。

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