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MTBコミュニティは排他的? Pinkbikeがインスタに微妙なミームを投稿してボヤ騒ぎに

北米最大の、というか世界最大のMTB情報サイトPinkbikeがInstagramにミームを投稿していました(6月26日)。それを見て「あー、これは…燃えるかも」と思ったのですが、今のところ炎上というよりはボヤ騒ぎ程度にとどまっています。

歯医者ネタはもう飽きた

問題のミームがこれ。題して「歯医者スターターパック」。バイクの何もかもがカーボンパーツで… 最新のバイクで… 最新の装備で… ライドのスキルは並! という内容です。

日本と違い、欧米(特にアメリカ)では医者・弁護士・博士はお金持ちの象徴です。

その流れで自転車の世界でも、例えばサーベロは歯医者用のバイクだ、とか、ライトウェイトは歯医者向けのホイールだ、などと揶揄されることがあります。

医者の中でも歯医者はさらに高給取りというイメージがあるらしく、審美歯科医はそのさらに上です。

上のPinkbikeの投稿も、スキルはないのにとにかく高価なもので身を固めるMTB乗り、ということで歯医者さんを取り上げている(からかっている・もしくは笑い者にしている)わけです。

これを見て、あくまで私の感覚なのですが、これはもう古い。もう飽きた。と、正直思いました。

歯医者=金持ち、という紋切り型はもはやネタとして全然面白くないですし、世界最大のMTB情報サイト・Pinkbikeにしてはずいぶん陳腐なミームだな、と思ったのでした。

それに、もしMTBが大好きな歯科医の方がこのミームを見たらどんな気持ちになるでしょうか。

たぶん、いい気持ちにはならないと思うんですよね。そして彼がPinkbikeの読者だとしたら、もうオメーのサイトなんか見るもんか、となるんじゃないでしょうか。

MTBコミュニティは排他的?

そんなことを考えながら、上のミームのコメント欄を読んでいきました。するとやはり、こんな反応がありました。

こういうミームは、自転車産業やアウトドア・レクリエーション全体に資するところが皆無だと感じる人はいませんか?(@connerkuhnsphotoさん)

私がこの記事を書いている6月26日金曜日夜10時の時点で、Pinkbikeの件の投稿には1,197件ものコメントが寄せられているのですが、上のコメントには現時点で287件の最多の「いいね!」が付いています。

他にどんなコメントがあるか、読んでいきましょう。

  • 僕はTrek関連の仕事をしているんだけど、「(恐らくコロナで)歯医者が閉まってたら、うちの会社は破産しちゃうんじゃないか?」って始終、部署中で冗談を言っていたよ。楽しい雰囲気でそういうことを言っているわけで、誰かを傷付けているわけではないと思うよ
  • (@Pinkbikeから@connerkuhnsphotoさんへ)楽しい投稿をしようと思ったんです、誰でも好きなバイクに乗ればいいと思います、楽しんでいる限りは
  • これはミームだろ。何かの産業とかコミュニティの利益になることを意図したミームといったものがあるなら1つでもいいから教えてくれ
  • これは釣りのコミュニティでも同じだ。トップラインのあらゆる機材を買うけれど何も釣れない人たちがいる
  • (@connerkuhnsphotoさんへ)確かにこれは非常にネガティブな内容だ
  • おもしろネタを投稿をしようとしただけじゃないか
  • (@pinkbikeへ)これが冗談だっていうのは全く解せない、世界中で平等意識を高めようという現在の機運の中では少し皮肉なものに思える
  • お金があるならベストなものを買えばいいじゃないか、そうしない人はいないだろう

ここで@connerkuhnsphotoさんが再び長文で登場します。

私が言いたいのは、スキルよりもお金のほうをより多く持っているという理由で誰かをバカにするのは誰の得にもならないし、なるべきでないということです。肝心なのは自転車に乗るのを楽しむことでしょう、違いますか? スキルレベルとは関係なくトップエンドのバイクを買えるお金を持っているなら、それはすごいことじゃないですか、そういうお客さんを必要とする良質なショップはたくさんあります。スキルよりもお金がある富める人たちをからかって良いことは何もないし、逆に彼らからこういうローカルショップを贔屓にしようという気持ちを削いでしまうだけです。お金を使う場所なんか他にいくらでもあるのに、自分が欲しい素敵な自転車を買いたいという気持ちをくじくようなメッセージを発信するのはなぜですか?

これに対していくつかの返信を紹介すると…

  • 同意する… @pinkbikeさん、あなたは楽しい投稿をしようと思ったと言ったが、この投稿が伝えている内容は全然楽しくない
  • なんだよ お前ら繊細すぎだろ
  • 僕も同意する、これはすごくインクルージブ(=inclusive, 統合的。「排他的」の反対)とは言えない内容だ。それに、思うに1人か2人はキレッキレの走りをする歯医者もいると思うぞ
  • インクルージブである必要はない、冗談なんだから
  • こんな愚かなクレームは見たことないよ
  • オーケーブーマー(訳注:北米を中心に若者が保守的な年長者を蔑視する表現)
  • 歯医者を発見しました
  • はぁ? これは冗談ミームだし何かの役に立つ必要なんかない、それにこれはものすごく正確な内容だろ、トレイルの入り口でクルマを停めるといつも35歳以上の年寄りライダーのグループがいて6000ドル以上するバイクの隣でライドするより長い時間お喋りしてる、でも奴らはドロップを飛べないんだぜ
  • トレイルで$4000のバイクを修理する能力もない
  • ディレイラーのインデックス調整が必要かな? 新しいバイクを買うタイミングだね

嫉妬・劣等感・スノビズム

ここで別の方からいい一発が入ります。

ジェラシー・スターターパック(嫉妬入門セット)だね
– いいね!177件

これはなかなかいいボディブローでした。このミームを楽しんでいる人は嫉妬してるだけじゃないか、というコメントです。このあとコメントの流れがちょっとシーンとして面白い。

とはいえ、最初は「これ炎上するんじゃないかな」と思ったのですが、意外というか、この冗談わからないのか、うぜぇオッサン(boomer)だなぁ、という感じのPinkbike擁護派のコメントも決して少なくなく、最初に書いたように「火事というよりはボヤ」程度に落ちついてはいます。

どうもPinkbikeの今回の投稿については、エリート主義・精鋭主義(elitism, =一部のスキルの高い人間だけが参加資格がある)を助長するとか、MTBコミュニティをより閉鎖的・排他的にするものだ、という声があり、私も今回のミームの根底にはそういう選民意識・差別感情に近い「無意識的な何か」があるように感じてはいます。

あと「冗談なんだから力抜けよ」という意見についても、このミームを目にしたMTB大好き歯医者おじさんはどう考えたってちょっとは嫌な気持ちになっているはずで、それって結局イジメみたいなものだと思います。小学校のクラスの中で、体力はないけれどお金持ちの家の子供をみんなで揶揄う、みたいな構図に近くはないでしょうか。

最後に個人的に共感したコメントを2つご紹介。

現在のMTBコミュニティには不健康なレベルのヘイトや気取り・傲慢さ(pretentiousness)があると感じています。正直なところ、私はエンデューロ仲間よりもむしろ歯医者さんとライドに行くことを選ぶでしょう(@connerkuhnsphotoさん)

なんて愚かでスノッブな投稿だ。どんな人でもバイクに乗りはじめるっていうのはグレートなことだと俺は思う。何かを批判しなければならないとしたら、それは人間性であって装備のことではないだろう。スキルは磨かないといけないのは事実だとしても(@desmojamesさん)

ちなみに、上で「スノッブ」という言葉が出てきました。

スノビスムとは、自分を立派に見せたり、自分のプライドを保つために自分より下に誰かや何かを位置づけて、それに対してマウントを取る行為と言えます。

Wikipediaにはこんな説明があります。

スノッブ(snob)は、一般に俗物、またスノビズム(snobbism)は俗物根性と訳される。

多くの場合「知識・教養をひけらかす見栄張りの気取り屋」「上位の者に取り入り、下の者を見下す嫌味な人物」「紳士気取りの俗物」といった意味で使われる。

上の「知識・教養」を「スキル」と読み替えましょう。

こういうスノビズムの根底にあるのは、嫉妬や劣等感(コンプレックス)だと思うのですが、本当にスキルレベルが高いMTBライダーなら他人のお金とか職業とかバイクなんか気にしないんじゃないでしょうか。

ダニー・マカスキルもファビオ・ヴィブマーも6000ドルするMTBに乗っている初心者の歯医者さんをバカにしたりしないんじゃないでしょうか。いや、会ったことないから想像なんですけど、たぶん楽しく一緒に遊んでくれそうな気がするんですけどね。

あと、こういうスノビズムに毒された人々の集団に近付きたいと、普通、思うでしょうか。

まぁ、思わなくとも、そういうコミュニティがすぐそばに、身近にあると知らないうちに自分もそういう人間になってしまっていることは珍しくはないんですけれどもね。

すると楽しいはずのMTBでも、売れなくなっちゃうよね…

こんなこと書いてたら”OK Boomer”(はいはいオッサン)とか言われそうですね

Pinkbikeのミームスキルは並以下

それにしても、自転車ミームと言えば@feedozonenews@cat3memes@thegruppettoは別格の面白さです。誰かを傷つけたり、誰かをバカにすることなくお笑いネタを投下していて、そのスキルレベルからするとPinkbikeの今回のミームこそ並以下、という感じがします。全然キレがなく、クリエイティビティもゼロで、覇王Pinkbikeらしくない投稿です。まぁたぶん、ネタ切れで手が滑ったのかもしれないですねw

嫉妬や劣等感から自由になることも、長い人生において身に付けなければいけないスキルです。ドロップを飛ぶよりこっちのほうがずっと大事なことではないでしょうか。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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