先月末に英BBCによる「TOKYO 2020オリンピック放送のトレイラー動画」を記事で紹介しました。「攻殻機動隊」や「AKIRA」や「初音ミク」等、主にサブカルチャー面にフォーカスした「日本愛」溢れる1分の映像作品です。
「東京っていうより大阪だろ」や「西洋人から見たステレオタイプ化された日本だ」という意見、冒頭の新体操選手がそもそも日本人ではないように見える、等々、内外での批判も多くありますが、たとえ歪(いびつ)なものであったとしても製作者による「日本愛」が伝わっているらしく、概ね高い評価を受けているのがわかります。
そしてこの動画のコメントを読むと、いかに多くの海外の人々が東京オリンピックを楽しみに待っていたのかが伝わってきます。
「コロナがなかったら最高のオリンピックになっていただろう」
動画のコメントから個人的に印象に残ったものを抜粋してみます(黄色マーカーは筆者による強調)。
- 日本はこの世界の中で、未だこんなにも素晴らしい国なのか
- 東京の豊かなエンターテイメント文化とオリンピック… それ以上言わなくていい、これは素晴らしいものになるよ!
- コロナがなかったら最高のオリンピックになっていただろう。本当に不運だ
- 2014年に「これは観に行かないといけない」と弟に言ったのを覚えている。僕達はオリンピックをこの目で見るのが夢だったこともあるし、しかも東京での開催だった。でもコロナが全てを台無しにしてしまった
- TOKYO 2020には本当に多くのポテンシャルがあった… パンデミックによってそれが台無しになったのは悲しい
- TOKYO 2020はコロナがなかったら最高の夏期オリンピックになっていただろう
- コロナのないTOKYO 2020を想像してみたらいい、なんてことだ
- まったくだ。COVIDは顔に投げつけられたパイのようなものだ
- 史上最も悲しいオリンピックだ
- パンデミックはこの荘厳な東京オリンピックにとって真の厄災になってしまった
- 全くだ、コロナがなかったらどんなオリンピックになっていたか想像するといい。世界中からのファンで埋め尽くされていただろう。パンデミック前、私は家族と一緒に日本に行くのを本当に楽しみにしていた
- 政府とビジネス界がどれだけのお金をこのイベントに投じたか、そしてどれだけ少なく回収できるかを想像してみたらいい
- COVID-19の問題があったとしても、日本は記憶に残るような、独特なオリンピック記念式典を行うだろう。とても興奮している
- パンデミック下でTOKYO 2020がこれだけ豪華なことをやるだけの完全なポテンシャルを発揮できないのは、とても悲しいことだ。開会式が美しく、穏やかで、全ての医療従事者と、COVID-19との戦いで命を失った人々へのトリビュートとなるような意義深いものになることを期待しています
「コロナがなかったら」は本当か
動画には日本の方からもコメントも多くあり、中には「これが日本・東京だと思ってやって来るとガッカリしますよ」という意見もありました。個人的にも部分的には同意しますが、たとえ「斜め上方向の愛」だったとしても、日本はこれだけ好かれていたのか、東京オリンピックはこれだけ期待されていたのか、と思うと、本当に残念な気持ちです。
それと同時に、多くの人が「コロナがなかったら東京オリンピックは最高のものになっていたはずなのに」と口にしているのを見て、ある疑念も湧きました。
東京2020オリンピックでは、これまでに様々なスキャンダルが発生してきました。振り返ってみると…
- 新国立競技場のコンペ問題(費用及びザハ・ハディド氏デザイン案の撤回)
- 公式エンブレムのロゴデザイン盗作問題(佐野研二郎氏・電通問題)
- オリンピック担当大臣・桜田義孝氏の失言による辞任
- マラソン競技開催地の東京から札幌への移動
- 森喜朗・前五輪大会組織委員会会長の女性蔑視発言
- 開閉会式演出統括・佐々木宏氏による出演予定タレントへの「体型いじり」発言
- 開催延期による時間的猶予があったのに改善されていないトライスロン会場の水質問題
- 開会式の音楽を担当予定だったコーネリアス・小山田圭吾氏による過去のいじめ自慢発覚
- 選手村での一部選手・プレス関係者への前近代的な待遇
- オリンピック観戦を強要させられる小学生問題
- オリンピック観戦を強要させられる小学生が日本コカ・コーラ社以外の製品を持ち込まないよう根回しされる問題(※その意向はコカ・コーラ社かどうかは不明)
- オリンピックは特例的にいろいろと許容されるが一般国民は行動制限を課されたりスポーツイベントなどがオリンピックよりも厳しい制限を課される問題
- トヨタやパナソニック等のオリンピック冠スポンサーが「これはヤバい」と思ってテレビCMから手を引くことにした問題
等々、すぐに思い出せるだけで両手の指では足りないほどの不祥事が起きています。
これに加えて開会式前日の今日、開会式ディレクター小林賢太郎氏によるホロコーストをテーマにした過去のジョークが大きく取り上げられています。
これらを考えると、仮に世界がコロナ禍に陥っていなかったとしてもTOKYO 2020が「海外の日本ファン」に満足してもらえるようなものになったかどうか、個人的にはかなり疑問です。
3兆円を無駄にしない方法はまだある
しかしそんな後ろ向きなことばかり話していても仕方ありません。TOKYO 2020はそれ自体、何らかの形で「多くの人が満足できる何か」を残せる可能性もあるでしょう。これは終わってみないとわかりません。選手がゲームを楽しんでくれれば、良い体験をしてパフォーマンスを発揮してくれれば全てが正当化される結果になることもありうるでしょう。
そして、仮に東京オリンピックが壮大な失敗に終わったとしても、私達が得るものはあるんじゃないでしょうか。
- 誰も責任を自分のものとせず、他人に丸投げしていること
- 「おもてなし」という美徳精神は既に日本文化から失われていること
- この国が利権体質、縁故主義体質にまみれていること
- 政治家を含む多くの国民が本当の意味でのダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括主義)を理解していないこと。そして多分、理解するつもりもないこと
- 未来の日本人のために良き何かを残すことよりも、自分たちが生き残れば後は知らない、と考えている人達であること
- そしてそれらの人々が、まさに私達の民意によって民主的な手続きを経て選ばれていること
- つまり「東京オリンピック」とは、現代日本のそのままの反映であること
等々、それらの理解です。
東京五輪の最終予算は3兆円に膨らむと言われています。最終的にはもっとかかるのかもしれません。当初はその3兆円を費やすことで、今後それ以上のリターンを得ることを目論んでいたと思います。しかし最終的には、収支的には完全な赤字に終わるでしょう。
それでも日本人が「この国マジ終わってたんだ」と徹底的に理解できて、今後の日本の未来を変えるための何らかの行動に出られるのなら、その3兆円は結構価値のある3兆円になるのではないかと思います。勉強代としては高いようにも見えますが、もしこの「勉強」によって国が変わるのなら、場合によっては安い買い物のような気もします。
今回のオリンピックが失敗に終わったとしても、何十年か後にまた東京でオリンピックがあるとしたら、その時こそは日本人も外国人も本当に楽しめる素晴らしいオリンピックに持っていけるのではないでしょうか。
その時にオリンピックというイベントがまだ存続しているかどうかはわかりませんけど!
▼ しかし一番気の毒なのはアスリートたちです。ツール・ド・フランスの完走を諦め、ワクチンの副反応と戦いながら金メダルを目指すべく一日でも早く東京に移動した自転車ロードレースのヤコブ・フグルサング。下の記事を書いている時も、彼を含むアスリート達にとって上で書いたようなスキャンダルは本当に迷惑だろう、と思いました。