数ヶ月前から英国に「The Bicycle Company UK」なるオンラインショップが現れ、激安価格で完成車を販売していたらしいのですが、注文した人には一向に商品が届かない。会社情報やFacebookページを見る限り、実店舗も存在するまともなショップに見える。どうしたんだろう…
このThe Bicycle Company UKは「実在しているが実在していない」不思議な詐欺ショップ・詐欺サイトらしいです。Singletrackworldが注意喚起しています。
出典 Is the Bicycle Company UK Britain’s Biggest Cycling Scam? – Singletrack World
休眠中の会社と実在する会社を悪用
以下が記事の概要です。少し複雑ですが、詐欺グループの巧妙な手口を理解するために是非お読み下さい。
- The Bicycle Company UKというショップが何処からともなく現れ、過去数ヶ月にわたり、他のどのショップも在庫を持っていない状態なのに、完成車を割引価格で提供する、という詐欺を行っていた(商品は発送されない)
- 彼らのオンラインショップは「Bicycle Richmond」と「PGR Construction」という2つの実在する会社の住所を悪用している
- 彼らはウェブサイトを作り、企業登記局に他の人が登録した企業情報を自社のものとして流用し、オンライン上でのプロフィール作成も始めた
- The Bicycle Company UKのウェブサイトは2021年5月頃に現れたらしく、彼らのFacebookページには5月20日に最初の写真が投稿されている
- 登記されている彼らの企業情報は、ある休眠会社のものだった
- その休眠会社の実際の経営陣はSteve及びDavid WilcockとRory Canningで、彼らは自転車ショップを本当に始めようとしていたものの実際の起業には至らなかった
- 詐欺グループはこれを利用し、Steve Wilcock氏をThe Bicycle Companyのディレクターに(勝手に)据え、Facebookにそのプロフィールをアップした(このプロフィール情報はネパールを発信源としている可能性がある)
- 同社のサイトに掲載されている2つの住所は、それぞれPGR ConstructionとBicycle Richmondのものだ。また会社番号を英国の企業登記局で検索すると、Bicycle Richmondの親会社であるBicycle LTDがヒットする
- PGR Constructionは敷地をある会計士と共有していることが判明した。この会計士のクライアントの多くが、その住所で企業登記局に申請しており、2018年に法人化された「The Bicycle Company (UK) LTD」も合法的なものだという
- しかしその会社のディレクターは本当にビジネスを始めようとしてはいたものの実現せず、会社は休眠状態となった。詐欺グループはこれを利用した
- The Bicycle Company (UK) LTDは6月6日に登記抹消手続きを申請している
- PGR Constructionは英国でホスティングされていた詐欺サイトを一時的に停止できたが、その後サイトは米国サーバーへと移行したために対応できなくなった
- Bike Richmondは警察等に被害届を出している
- 被害を受けたドイツ在住のSingletrackworldの読者の一人は、娘のために注文した完成車が届かなかった
- 彼女は比較的早く警察に相談し、銀行からチャージバックしてもらえた
- しかし彼女はこのショップからメールを受け取る。数日前に「配達済み」となっていた彼女の注文は「キャンセル」へとステータスが変更され、「返金処理はするが新しい注文を行ってほしい、2回目の支払いをお願いしたい」という内容だった
- 8月6日にはこのサイトは姿を消しているが、永久に消えたのかどうかはわからない
- この会社はその後も、過去に注文した人に対して、2回目の注文(決済処理)を行うよう連絡してくるようだ
本記事の作成時点(2021年8月8日)では、www.thebicyclecompanyuk.com というサイトにはアクセスできません。しかし今後復活する可能性もあり、また同じグループによる同様の手口の詐欺が発生する可能性もあるでしょう。
「返金するから、その処理代のために一定金額を振り込んで下さい」や「キャンセルするためにもう一度決済して下さい」というオンライン詐欺は多いと聞くので、もし被害に合ってしまった方は絶対に応じないようにしましょう。
Facebookページにはよく見ると怪しい写真も
ところで冒頭で紹介した画像(下に再掲)は、本記事時点でもまだ存在する詐欺サイトのFacebookページから引用したものです。この写真について、Singletrackworldがナイスな探偵仕事を見せてくれています。
これを下の写真と見比べてみて下さい。Google Mapのストリートビューからの切り出しです。空の雲のかたち、駐車されているクルマの数と種類、影の位置。2枚の写真は、どう見ても同じ時間帯に同じ角度から撮影されたものです。
つまりFacebookページ掲載の店舗写真は、フォトショップ等で加工されたコラージュなのです。「P.G.R. Group」という文字を覆い隠すように「TBC The Bicycle Company (UK) LTD SPECIALIST BIKE SHOP」という看板が重ねられています。あとは店の前に自転車がいっぱい停まっていますね。ぱっと見は怪しい店だとは思わないのではないでしょうか。
さらに彼らのFacebookページには「店内の様子」と思われる写真が多数投稿されています。展示されている完成車(下の写真)のプライスタグには「TBC」という文字が読めて「このリアルショップはリアルなんだろうな」と思ってしまいます。
しかし次の写真を見ると… 「TBC」のロゴの仕事が雑ww 拡大すると、照明を反射していない文字の黒さが不自然です。でもまぁ、普通は騙されるんじゃないでしょうか。
下は「店内」の様子。たった2ヶ所に「TBC」のショップロゴが挿入されているだけですが、これだけで説得力があります(しかし素材となったこのショップ、本当は何処にあるんだろう…)。
というわけで「The Bicycle Company UK」を利用してはいけないのは勿論ですが、同じような手口で別のショップが出現する可能性もあるでしょうから、くれぐれもご注意下さい。