海外の超人気自転車YouTubeチャンネルBerm Peakにおもしろい動画がアップされていたのでご紹介します。自転車プロショップにおける「接客」にフォーカスしたいわゆる「ドッキリ」企画なのですが、単なるエンターテイメントを超えて「どのような接客が理想的なのか」や「人と接するとはどういうことなのか」を考えさせてくれる内容になっています。
最終的には誰も傷付かない内容になっていますが、このようなドッキリやサプライズ企画が苦手な方もいるかもしれないので、その場合はご視聴をお控え下さい。
8000円のMTBに14万円のパーツ
“Fake customer wants INSANE upgrades on his $60 mountain bike”(客を装った男が60ドルのマウンテンバイクに異常なアップグレードを依頼する)と題された上の動画は、英語のみ(字幕あり)ですが下の概要を頭に入れた上で見ればストーリーを無理なく理解できると思います。
- Berm PeakチャンネルのSeth氏はこの企画のために30年前のMTBを購入した
- 日本では「MTBルック車」と呼ばれるタイプで(アメリカでは「ウォルマート・バイク」と呼ばれることが多い)、1994年製「Rockpoint Motiv」という名前
- 中古だが状態は良く、Facebookマーケットプレイスで60ドル(約8000円)で購入した
- もう存在すらしていないパーツが使用されている旧規格のMTBである
- Seth氏は俳優に依頼し、ショップにこのMTBを持っていき「SRAM AXS GX」(持ち込みパーツ)を移植してほしいという演技を行わせる
- SRAM AXS GXはリアディレイラーだけで400ドルする。チェーンだけでも95ドルだ
- カセットはそのままでは付かないので、Seth氏は事前にWheels Manufacturing社に相談。同社はそのMTBで使えるリアホイールを制作し、さらにワンオフの専用アクスルも製造した。アクスルは自社のパッケージに入れ、あたかも立派な市販品であるかのように見せた
- 俳優の男性はそのホイールとSRAM AXS GX一式(酒屋の紙袋に乱雑に放りこんである)、MTBを持ってショップを訪れる
- この企画はショップオーナーと事前に話が付いており、店内各所にはGoProカメラが設置され、俳優男性も状況を撮影。アップグレードの相談を受けるメカニックの店員さんがどのような反応を見せるか・どのような接客をするかにフォーカスする
- メカニック店員氏はもちろんこれがドッキリ企画だとは知らない
- 俳優(ニセ客)からの相談を受けたメカニック氏は「まずはハブの長さを計ろう。このホイールがこのMTBに入るかどうか、それがカギだ。調べてみてもし移植できることがわかったら、その時に費用を見積もって電話をするよ」と告げる
- 数時間後ショップに戻った俳優にメカニック氏は「ちゃんと動くよ、このハブは誰かがカスタムで作ってくれたのかい?」
- 満足した俳優は最後にさらに驚きの依頼を行う。「実はもう1つお願いがありまして、フロントホイールのスポークとリアホイールのスポーク、前後入れ替えてもらいたいたんです」
- このタイミングでSeth氏がネタ明かしに割って入る
という内容です。
店員の対応に「プロフェッショナルだ」と称賛の声
この動画の背景にある考え方は「プロショップなら当然のようにウォルマート・バイクを軽視するだろうし、8000円の自転車に14万円相当のパーツを取り付けるという考えには反対するだろうし、ぱっと見でこれは規格が同じでないからそもそも取り付けできない、と判断するに違いない」というものだと思います。
しかし実際のところ、アメリカ・ノースカロライナ州にあるこのSquatch Bikes & Brewsというショップのメカニック・Patさんは、戸惑いながらも嫌な顔はせず、自転車や顧客(俳優)の価値観に疑問を呈することなく、まずは技術的にその作業が可能かどうかを検証する、という姿勢で応じました。店長との会話でも「意外にクールかもしれない作業依頼が来た」と話しています。
このPat氏の接客の様子は非常にプロフェッショナルで、尊敬できる、という声がコメント欄では多く見られます。もちろん考え方は色々あって良いでしょうし、このような作業依頼は受けたくない・受けないというショップがあっても、それはそれで独立した価値観として尊重すべきものではあるでしょう。
しかし仮にこの俳優が実在する顧客だった場合、顧客は要望を満たしてもらえてハッピーになれる。ショップも作業により収益を上げられる。と、基本的には両者にとってwin-winな状況ではあると思います。
「そんな自転車にそんなパーツ付けるなんてバカじゃないのか」や「俺はそんな作業はしたくない」という価値観や感情を持つのは、それはそれで自由だとは思うのですが「何はともあれ、これ技術的にやれんのかな?」からスタートしたこの店員さん、個人的にも「すげっ、プロだなぁ」とやはり好感を持ったのでありました。
先月に「どんなショップなら自転車やスポーツ用品を買いたくなる? 海外の事例から」という記事で「カスタマーが望んでいる方向において最適解を提供する」や「assumeではなくassessを意識する」といった話題を取り上げましたが、それを思い出しました。こちらもご興味のある方はよろしければ併せてお読み下さい。