Stravaは今年に入ってからサブスク料金の値上げを行い、かつ当初は料金体系が国やユーザーの利用様態によって異なるのではないかという推測が飛び交うなど(最終的には国ごとに同一料金になった)、ユーザーからはどちらかというと批判的な声が増えていました。さらにリストラを行いつつもアウトドアマップで人気のFatmapを買収、かつCEOで共同創業者のMichael Horvath氏が退任の意向を示すなど、このところ同社をめぐる騒動が目立っていました。
そんな中、Stravaは職業SNSのLinkedInおよびThe Strava Clubに、事態を落ち着かせることを意図したものと思われる「誤解を解きます(Setting Things Straight)」という全く同じ内容の文章を発表しました。なお正式なプレスリリースではなく、投稿へのコメントもオフにされています。
出典 Setting Things Straight | The Strava ClubさんからのStravaの投稿
私達の成長は速く、数字も正しい方向に進んでいます
以下、メッセージの抄訳です。バレットを使用した簡潔な文体です。
Stravaに関してのノイズがあります。ここで時間を取り、誤解を解きたいと思います。
- 私達はアクティブな人々のための最良のサブスクリプション・サービスを作っている最中であり、そうであり続けることに100%コミットしています。この空間の他のすべての会社と同等か、それ以上の早さで成長しています
- 最近の私達のコミュニケーションは不十分でしたが、人々は行動をもって票を投じてくれています。あなたが目にする情報とは逆に、私達の数字は正しい方向に進んでいます
- (私達は)インターネットにおける最も健全なサブスクリプション・ビジネスのひとつです。3年間利益が出ています。私達の計画は100年後もあなたのためにあり続けることです
- (私達は)ユーザーエクスペリエンスをバナーやポップアップ、ノイズで汚染することなくこれを成し遂げてきました
- チームのサイズは過去2年間で2倍になりました。成長が少し速すぎました。12月に14パーセントの人員を削減しなければなりませんでした。信じられないほど大変でしたが必要なことでした
- 創業者が14年にわたって会社を率いてきました。今でも創業者による主導です。マイケルは私達の第二章のためのリーダーを見つけるまではCEOです。マークとマイケルはボードメンバーとしてあなたのチャンピオンであり続けます
- 新しい吸収合併のおかげでStravaはアウトドア用の最良の地図を提供できるようになりました。楽しいことがいままさに始まりつつあります
- Stravaはあらゆる動く人のためのものです。2022年以降、私達は17の新しいスポーツタイプを追加しました。それらはいま、私達のコミュニティの中で最も速く成長しています
あなたには私達が付いています。道路で、トレイルで、水で、コートで、ジムで会いましょう。あなたが行くところならどこででも。私達は何処にも行きません(=いなくなりません)。
誰にむけて書かれた文章か
これを読んでいて、私自身はモヤモヤとした不思議な気持ちになりました。なぜだろう、と何度か読み返してみると、気付いたことがありました。それはこのメッセージを読んでいる読者が聞いていないであろう問いにだけ答えているということです。
現在のStravaに不満を持っている(あるいは持った)人にとって、Stravaの成長速度や加入者の増減、財務的な数字はほぼどうでも良いことではないか。Fatmapの買収は確かに今後おもしろい体験を提供してくれるかもしれないけれど、これまでのユーザーからの様々なリクエストについて沈黙したまま新機能を提案しても、手放しで歓迎されはしないのではないか。
17の新しいスポーツタイプが増えた。そこに加わる人々も増えている。しかしそれは既存ユーザーにとって安心感が得られる情報では、特にないでしょう。逆にこのメッセージは、Stravaに加入したばかりの新規ユーザーにとってはある程度の安心感を得られる内容かもしれませんが、既存ユーザーへの釈明も明らかに含まれているのでメッセージの受信者像がぼけている印象を受けます。
これならむしろ何も言わずに黙っていたほうが良かったのではないか。傷口に塩を塗る、というのはこういうことだろうか、と思ったりしました(個人の感想です。そのように読まなかった方もいると思うので、意見が違いましたらご容赦ください)。
海外ユーザーの反応
このメッセージに対する海外ユーザーの反応もご紹介します。海外掲示板Redditからいくつかピックアップしてご紹介します。
- コメントをオフにすること以上に「私達は耳を傾けています」をうまく伝える方法はないですね
- 誰も尋ねていない全ての点について説明しているところが好き
- なぜ適切な文章を書けないのだろう?
- その通りだ。だれが広報をやっているんだろう? 高校の優等生向け英語コースではCグレード(70〜79点)になってしまうだろう
- これはちょっとひどい英語だ
- レイオフされた14%の中にコピーライターも含まれていたのかもしれない
- 健全なビジネスを行ってきて3年間は黒字だったことを誇らしげに語ってから、2バレット後には14%の人員削減をなんでもないことのように述べている
- 全く何も書かなかったほうが良かっただろう。この投稿には真摯さが全く感じられない。傲慢さと自慢に満ちている。課金しているカスタマーが欲しているものを実装する計画があるのかどうかについての話がない。自分たちが欲しているものについてだけ書かれてある
- 私、私、私。ぜんぶ私と私達の成長や、規模が倍になったこと、もっと儲けたいといった話だ。「私達のカスタマー」と、彼等にベストなサービスを提供するための話はどうなっているんだ
- 収益とコスト削減について自慢している。どれも株主からの価値に関することだ。LinkedInは職業サイトだろう?
- (上の人に)私にもこの投稿は株主にアピールするためのものと感じられます。製品の消費者に対するものではないですね。この投稿で物事はもっと悪くなるでしょうし、利用者であるアスリートからどれほどズレているかが伝わってきます
私の感想と似たものをだけをピックアップしたわけではありません。もちろんStravaの無料版機能に対して感謝している人もたくさんいます(私もそのひとり)。私がこの記事で考えてみたかったのは、Stravaの経営方針が良い悪いということではなく、企業が発表するメッセージとしてこれは誰も得しない書かれ方になっているのではないか、ということです。
今回の値上げについても、伝え方次第で既存ユーザーが味方に付くこともありえたのではないかと思います。ユーザー数は増えたましたがインフレと不況でやっぱりやっていけないのです、ダークモードが欲しいのは重々承知しています、ただ少しだけ待ってください、いまは中長期的な存続を確かなものにするために値上げとレイオフとFatmapの買収が最優先事項と判断したのです、等々、言い方でいくらでも変わったのではないか、という気がします。
人は伝え方が9割!(自戒を込めつつ)