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運動中に食べたマフィンから得られたあのエネルギーはどこに消えていくのでしょうか? 【熱力学・頭の体操】

熱力学・理系の話題に興味のある方向けのよみもの記事です

自転車に乗っているとき、熱力学のことをよく考えるようになりました。寝袋のなかで背中や足が冷たいときも、ディスクブレーキの異音についての議論を読むときも、チューブレスの是非について読むときも、科学の限界について考えるときも、熱力学のことを考えます。そんなとき、数か月前に海外掲示板でこんなスレッドを見かけて保存していました。

squirrel photo by Skyler Ewing

小学4年生にエネルギーについて教えています。エネルギーは生成も破壊もできないことは知っているのですが、完全なサイクルを想像できないでいます。

例えば、レースの前にマフィンを1個食べるとします。マフィンから得られるエネルギーは、走るあいだ私の身体の燃料となり、走るあいだ私はそのエネルギーを使って自分の身体を動かします。そのエネルギーは、どこに行くのでしょうか? その後、そのエネルギーはどこからどこに行って、最終的に(理屈の上では)別のマフィンになるのでしょうか?

出典 Where does energy go after it is used?(エネルギーは使われたあとどこに行くのですか?)

以下、スレ主さんに寄せられたコメントからいくつか抄訳。運動についてのたとえは、サイクリングに置き換えて考えても通じると思います。

  • エネルギーの一部はマフィンに残り、あなたの身体に行き渡ります。残りはランニングと関係付けられる運動エネルギー(kinetic energy)や、傾斜を登るために必要な位置エネルギー(potential energy)を生むために使われ、いくぶんかは恒常性(homeostasis)の維持のために使われ、それらすべてはエネルギー変換の非効率性から一定量の熱も生み、あなたの身体はその熱を放射し、発汗で取り去ります。運動エネルギーと位置エネルギーは空気抵抗(air resistance)や、歩みから地面に伝わる振動エネルギー(vibrational energy)や、身体・ウェア・歩みにおける摩擦(friction)の中に失われていき、それら全ては最終的にやはり熱となり、すべての熱は究極的に宇宙へと放射されます。
    マフィンからのエネルギーは、究極的には太陽からやってきたものです。これは太陽から植物へ、そしてマフィンへ、そしてあなたへ、そして宇宙へとエネルギーが流れる開放系(open system)です。エネルギーは、あなたが排出したものをコンポストに入れて原材料を作ったり(またはランの後の体熱を使用して種子が凍らないようにしたり)する時だけマフィンに戻るといえるでしょう。呼吸で生まれる二酸化炭素と水素は糖類に戻せるかもしれませんが、植物はそれを行うためにエネルギーを追加する必要があります(549いいね)
  • 熱は宇宙にいったあとどうなるのですか? 失われる(lost)のではありませんか?
  • (上の人へ誰かが回答)そのエネルギーを地球に戻せる見込みはないという意味では「失われ」ます。しかし破壊されるわけではありません。最終的に、宇宙のすべてのエネルギーはこのような意味で「失われ」はしますが破壊はされません。これは不可避の「宇宙の熱的死」と呼ばれます(157いいね)
  • 一滴のインクを広大な海に落とした時のように放散することに近いのでは? インクは消え去りませんが、機能的には使いものにならなく(useless)なります(33いいね)
  • スレ主さんへ簡単な参考情報です。あなたの投稿の最初のパラグラフは、熱力学第一法則と呼ばれます。エネルギーは保存される – 特殊な条件(エネルギーが物質に変換されたり、あるいはその逆)を除いて、エネルギーは決して生成も破壊もされず、ある形態から別の形態に変化するだけです。マフィンから得られる化学エネルギーは仕事へと変換することができ、それは熱に変換することができ、その熱は赤外線放射として宇宙に送られうるものです。これは「サイクル」というよりも普遍的な帳尻合わせのようなものです。ふたつめのパラグラフは、熱力学第二法則と呼ばれます。すべての過程がエントロピー増大に向かう傾向があります。今回の文脈では、整頓されたエネルギーの堆積がより分散してしまう傾向、と単純化できます。ゆるい(loose)エネルギーを集めてリソースに集約することは、常にそのリソースが最終的に生み出すエネルギーより多くのエネルギーを必要とします。私達はこのようにエネルギーを常に「失い」続けているため、宇宙は最終的に何もかもが均一に配置され、意味のあるものが何も(nothing significant)もう二度と起こらない状態に達するという理論があります(37いいね)
  • そのエネルギーはどこかに行ってしまうというよりも、ただ使うのが難しいものになるのです。例えばあなたが走るとき、マフィンからのエネルギーは脚を動かしたり、空気を動かしたり、筋肉を熱するために使われます。これらはすべて本質的には大気へと移動し、そこではそれがどこに「消えた(gone)」のかを見るのがとても難しいのです。エネルギーは創られも壊されもせず、単に、人間が使用するにはより難しい同量のエネルギーへと劣化するだけなのです(73いいね)

(スレ主さん)ここで学んだことを9歳でもわかるようにまとめてみました。

太陽からのエネルギーは植物にわたり、植物は動物に食べられ、動物はそのエネルギーを使って動物に必要なことを行い、そのエネルギーの大部分は熱として放出され、空気のなかに入っていき、存在はし続けていますが、使いものになりません(useless)。物質と似たようなものです、おならをするとガスの泡が外に逃げますが、ガスはまだ存在しています、しかし私達のまわりの空間・周囲にあまりに溶けこんでしまうので、使いものにならなくなり、その存在に気づかなくなります。エネルギーは、物質が創られも壊されもしないのと同じ意味で創られも壊されもしないものです

熱力学は、文系出身の筆者にはとても難しいのですが、世の中のかなり多くのことが、というか、ほぼ全てがこの学問と関係があるのではないかと思い、数年前から高校物理の勉強をやりなおしはじめました。わからないなりに面白い世界だなとは思います。腹巻きから宇宙までカバーする不思議な学問だな、とinバーを食べながら考えたりします。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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