英語圏では「旅する自転車の装備」が「バイシクルツーリング(bicycle touring)」と「バイクパッキング(bikepacking)」という呼称で、なんとなく区別されています。厳密で明確な基準などは勿論ないのですが、最大の違いは「バイシクルツーリング派」はパニアバッグを使う(傾向がある)。「バイクパッキング派」はあまり使わない。というところかと思います。
それはグラデーションを持つ両極のようなもので、バイシクルツーリングともバイクパッキングとも呼べない感じの折衷案的な装備で走っている人も、もちろんたくさんいます(私もそうかもしれません)。
しかし「これから自転車旅行のようなものをやりたい」と夢想している方にとっては、どちらのスタイルがより自分に適しているのか、わかりにくいと思います。自分にとっての正解を得るには実際に旅を重ねていく他はなく、得られた正解も永遠に正解であり続けるわけではないのですが、この記事では「走る道のタイプ」が何らかの手がかりにならないかどうか、プチ考察してみます。
たとえば下のような砂利のダブルトラック。こうした道はどんな装備でも走れるわけです。パニアバッグ(バイシクルツーリング派の主要バッグ)でも、大型シートパック・フォークパック・ハンドルバーバッグというバイクパッキング系装備でも問題なし。ある程度のスピードで快走したければ、空気抵抗が少ないセットアップのほうが疲労が少なく気持ちが良いかもしれませんね。
上のような道だけをあらかじめ走る計画であれば、パニアバッグでも全然問題ありません。しかし道に迷ってしまったりとか、あえて迷い込んでみたりすることもあると思います。そんな時に下の写真のようなシングルトラック・徒歩道に入り込むと、パニアバッグを積んだ自転車だと雲行きが少し怪しくなってきます。
倒木や岩などで道が塞がれていたりすると、迂回路を探したり、迂回できない時はバイクを担いでクリアするわけですが、これはパニアバッグでもバイクパッキング系装備でも問題になるのはほぼ重さだけで、どちらが得意ということはあまりないかなという気はします(ただしフレームバッグがあると前三角に腕を入れて担げないので若干不利なことがあります)。
パニアバッグがいよいよ不利になってくるのは、下の写真のような笹薮や、木の新芽や草が生い茂っているところです。これはまるで向かい風が物質化したような感じの抵抗感があり、パニアバッグだとなかなか前に進めません(バイクを押し歩くという話です。走行はこうなると論外)。この程度ならフォークパック程度の厚みであればもう少し前進を続けられることがあります。
しかし下の写真のレベルの藪になると、もはやパニアバッグは限界です。横への張り出しが少ないバイクパッキング系装備であれば、もう少し冒険を続けようか、という気持ちになれますが、バイシクルツーリング系装備であればこのあたりが限界かなと感じます。
ハンドルバーバッグ・フレームバッグ・シートパックといったバイクパッキング系装備は、空気抵抗の少なさ以外にも障害物をクリアしやすいという大きい長所があると思います。海外掲示板を眺めているとバイクパッキング志向の人々に「なぜパニアバッグという便利なものを使わないのかね」と苦言を呈する方を見かけるのですが、これらの装備にはやはり独自の長所があるのです。
フォークパックも小ぶりなフロントパニアバッグに比べるとだいぶ「藪こぎ」しやすいと思います。
しかしこれらの道を頻繁に、あるいは積極的に走る機会が少ないのであれば、パニアバッグはやはりモノを入れたり取り出したりするのが圧倒的に簡単で、容量面でも圧勝です(パッキングに要する時間も短くて済む)。テントや寝具や調理器具も、まあま雑に入れてすぐ出発、といったことが可能です。
最初に紹介した下のような道を走るのが全行程の90%であれば、たぶんパニアバッグのほうが快適でしょう。しかしスポーティなライドの気持ち良さを優先させるのなら、ミニマル装備のバイクパッキングのほうが楽しいと感じる人も多いでしょう。
旅先や道のタイプによって適切な装備が変わってくるわけですから「俺は絶対にパニアバッグしか使わん!」とか「俺は永遠にバイクパッキング派だ!」といった主張や思想は、的外れだろうと感じます。私達は最終的に、大型のパニアバッグも小ぶりなグラベルパックもフォークパックも大型シートパックもハンドルバーバッグも、全て買い揃えなければならない宿命なのです。
おわかりいただけたでしょうか。