ピストからトラックバイクへ、そしてシングルスピードの復権へ

最近シングルスピードデビューしました。この自転車がめっちゃ面白い。楽しい。そして、思うんですが、これはもっと流行る。シングルスピードの時代が来る。

えっ、とっくに来てるだろって? そのあたりの事情はよく知らないのですが、でももっともっと来るような気がする。

その前に、言葉の定義。シングルスピードバイクって何? という話。ピスト、トラックバイク、シングルスピード、といろいろな呼び名があるけれど、それらは同じなのか。違うとしたら、どう違うのか。そのあたりを整理。

ピスト・トラック・シングルスピードの違い

ピストバイクとは

15〜10年前くらいだったでしょうか。ピストバイクと呼ばれるものが日本のストリートで大流行しました。これは一言でいうと、「ケイリン」で使用されるタイプの自転車でした。ぱっと見ると、ロードレーサーのようなシルエット。ドロップハンドル。フレーム素材は、鉄が多かった。クロモリ。

ブレーキがない

でも、前後にブレーキがないものが大半でした。そして、エクストリームスポーツの一種としてこの自転車を楽しむ人々や、一部のメッセンジャーたちには、この「ノーブレーキ」を美徳とする風潮がありました。

そこに「ブレーキなし。問題なし。」というナイキ社の広告が渋谷パルコの壁に登場したりして、大きい社会問題にまで発展しました(2007年の出来事)。「ピストバイクの人たち」は一般の自転車愛好家と、平和を愛する健全な市民からは「世紀末ヒャッハー集団」のようなものとして恐れられ、憎まれるようにもなりました。

下は2011年の映画ですが、こういう文化は米国のニューヨークやサンフランスシスコから輸入されたものだったように思います。

さてピストバイクには、もともとブレーキがないこと以外にも、大きい特徴が2つあります。

変速機がない

まず、前後に変速機がないこと。フロントのギア板は1枚で、リアのギア板も1枚。言ってみれば、ドライブトレインまわりはママチャリ、と呼ばれる軽快車と近いものがあります。

固定ギアである

もうひとつは、固定ギアであること。これはピストの最大の特徴といっていいと思います。固定ギアとは、スプロケット(ギアの歯車)がホイールのハブ軸に固定されているため、脚の動きを止めるとホイールの動きも止まります。

逆もまた然りで、脚の動きを止めれば、ホイールの動きも止まります。

別の言い方をすると、脚の動作(クランクの操作)が、ブレーキングの役割も果たしている自転車です。競輪場(ベロドローム)のレースで走っている自転車は、ほとんどこれです。

ピストからトラックバイクへ、そしてシングルスピードの復権へ

ピストバイクは、フランス語ではヴェロ・ドゥ・ピスト(Vélo de piste)といい、英語ではトラック・バイク(Track bike)といいます。「ピスト」は英語の「トラック」に対応します。

トラックバイクとは

故に「トラックバイク」とは「ピストバイク」と同義です。同じタイプの自転車を意味します。

しかし、最近は「ピストバイク」という言葉よりも「トラックバイク」という言葉のほうをより多く耳にするような気がします。なぜか。

これは私の推測ですが、過去の「ピストバイク」が一般の自転車愛好家や交通社会に与えたネガティブな印象を払拭するためではないか。「ピスト」という言葉に拒否反応を示す人があまりにも増えたために、「トラックバイク」という言葉での置き換えが発生しつつあるのではないか、と思います。

真相は定かではありませんが、「ピストバイク」=「トラックバイク」です。

そして街の自転車屋さんで手に入るピストバイク、トラックバイクは、いずれも現在では前後ブレーキが標準装備です。前後ブレーキがない自転車は、日本の公道を走ることが認められていないからです。

シングルスピードバイクとは

ここで「シングルスピードバイク」のお話。文字面だけ見るのなら、これは「単速自転車」ということになります。速度が1つしかない、つまり変速機がない自転車、という意味。

フロントギア1枚。リア1枚。えっ、でもそれってピストバイクと同じでしょ、という疑問が湧くと思います。

ただ、シングルスピードバイクは、変速機はないけれど、必ずしも固定ギアではない、というところが大きい違い。脚を止めても車輪が回転をし続ける「フリーギア」を搭載しているものが多いのです。

リアホイールには、ハブの両側にスプロケットを取り付けられるタイプのものもあり、片側には固定ギア、片側にはフリーギアを装着できたりします。

シングルスピード用フリーギア

すると、「シングルスピードバイクだけどホイールをひっくり返して固定ギア側で使って、ピスト・トラックバイクのように使う」ということができたりします(こういうタイプのホイールを”flip-flop”と呼んだりします)。

一方、トラックバイクに、フリーギアだけのホイールを装着した場合、その自転車はあまり積極的には「トラックバイク」とは呼ばれない傾向があります。それは、どちらかというと「シングルスピードの自転車」と呼ばれることになるでしょう。

少しややこしいですが、まとめると、「シングルスピードバイク」とは、フリーギアだけのものもあれば、フリーギアと固定ギアの両方を楽しめるホイールを搭載したものがある、と言えるでしょう。

シングルスピードの不思議な軽さ

最初にも書きましたが、個人的にシングルスピードの自転車を手に入れて、乗るようになったのですが、これ、気持ちいい自転車です。

何が気持ち良いかというと、すごく軽いんです。車体の重さは、完成車で9kg台だったかな。そういえば計るの忘れて改造してしまったw

はぁ、9kg台? 重いじゃん! という声が聞こえてきそうです。はい、重量だけならちょっといいカーボンロードのほうがはるかに軽量です。

しかし私がシングルスピードに感じる「軽さ」は、重量の話ではなく、「軽快感」なのです。定量的な話ではなく、定性的なお話なのです。

この軽快感はどこからやってくるのだろう。それを思い巡らすと、まだ印象にすぎないのですが、部品も少ないし、チェーンも多段ギアのロードに比べると短いから、まずフリクションが少ないせいじゃないか、と思ったりします。

車体の右側がディレイラーやカセットの重心で偏ってないせいもあるのかな、と考えたりもします。

あとは、厚歯。チェーンリングも、リアのスプロケットも、歯の厚みは11スピードのそれよりも厚くて丈夫。チェーンも幅広です。これは踏んだ時の剛性感に寄与しているんじゃないか。パワーロスが少ない感じ、ダイレクト感は、不思議な軽快感にもつながるような気がしています。

このあたりは定量的に数字で分析してみても、すごく面白い話になりそうです。他にフレームのジオメトリーも関係しています。BBハンガーとか。ただこれはメーカー・モデルによって様々なので一概には言えません。

でもドライブトレインまわりのシンプルさは、シングルスピードの軽快感と密接な関係があるのは間違いないでしょう。

ピストからトラックバイクへ、そしてシングルスピードの復権へ

やんちゃなストリートカルチャーと密接な関係を持っていたピストバイクが、前後ブレーキを装着し、社会の中で人権…じゃなかった、「輪権」を持つようになり、「ちゃんとした自転車」として認められるようになった。その時に(街乗りの)「トラックバイク」という新しい名前が、動きはじめた。

そして思うのですが、そのピスト・トラックバイクの良き遺産、カルチャーは、いま「シングルスピード」というジャンルの中で花開こうとしているんじゃないか、とふと思います。

固定ギアって、なんか面白そうだ。でもいきなり固定はちょっと怖い、という人がほとんど。なら反対側にフリーギアをつけてみようか。それに慣れたら、固定ギアでも遊んでみてね。

と、そういう感じの自転車が、すごく増えてきているような気がするんですよ。

さらに、「シングルスピード」は必ずしも「トラックバイク」のような外観ではありません。シングルスピードのグラベルロード、MTB、ツーリングバイク、いろいろあります。

有名なメーカーだと、サーリー(Surly)などにはこのジャンルで魅力的な自転車がたくさんありますね。

そう、たとえばこんな自転車が。これはdingle_speedさんがCBNに投稿してくださったものです。Surly Steamrollerというモデルです(本当を言うとこれはディングルスピードという特殊な機構を搭載しているのですが、話がこじれるためこの記事では省略w)。めちゃめちゃかっこいいよね。

同じくAKIRAさんがCBNに投稿してくださったこの写真は、CHARGE BIKES PLUG 1 DISC 2017。こうやってディスクブレーキとの組み合わせだって、勿論ありなわけです。これはイケてんな〜、と一目惚れしました。

こんなふうに、シングルスピードの自転車の世界は、かなり自由。そして様々なカスタマイズを経たとしても、中心にある価値観は「シンプルさ」。これだけはずっと残る。このシンプルな自転車は、これからもっと流行ってくるんじゃないかという気がします。

まあ流行るかどうかは個人的にどうでもいいのですが、とにかく楽しいものなので、乗ったことがない方は一度試してみてはどうでしょうか。ロードもMTBもミニベロもそれぞれ最高だけど、シングルスピードも面白い!

「ピスト」という名前で忌避されてきた自転車が持つこのシンプルさ。これ自体はやっぱりすごく面白いものだと思います。