油圧ディスクブレーキのキットを単体で買った場合、ホースの長さが自分の自転車にぴったり合うことはまずありません。そこでカットして長さをつめなくてはならないのですが、その時にどんな作業が発生するのか。どんな工具が必要なのか。注意点は何か。この記事で解説していきます。
専用工具を使う理由
ディスクブレーキの長すぎるホースをカットする場合、発生する作業は2つだけです。
- ホースを適切な長さで、断面を水平かつスムーズにカットする
- カットした先端に「コンプレッションインサート」と呼ばれるパーツを圧入する
専用工具があれば、ホースをきれいに、そして水平にカットできます。手では最後まで押しこめないインサートも簡単に圧入できます。
そのため専用工具を使うのがオススメですが、作業の内容を具体的にイメージできているのであれば、手持ちの工具でも作業はできるかもしれません。それは記事の最後で説明します。
TEKTRO BLEED KITを使ってみる
まずは専用工具を使って作業してみます。用意したのは「TEKTRO BLEED KIT」。これは「TEKTRO WORK SHOP SERVICE KIT」という名前でほぼ同じものが売られていたりします。TRPはテクトロの高級ブランド、ハイエンド・レーシングブランドで、会社自体はテクトロです。
さて、このキット。素晴らしいんですよ。
何が素晴らしいかって、こんなに色々入っているんです。青いのはホースカッター(しかしなぜ工具はこうも「パークツール・ブルー」に寄せようとするのか…)。オイル(フルード)を注入するシリンジが2本。ブリーディング時はパッドを外すのですが、その時に入れておくピストン・ストッパーと呼ばれるブロック。そして後述しますが、ホースを完成させるために必要な3つのスモールパーツ。
それらが全部入って、気になるお値段…たったの5,000円ですよ! 信じられますか。スモールパーツの数はちゃんと数えていないのですが、オリーブという使い捨てのパーツは自転車10台分は入っています。
あとでシマノの専用工具も紹介しますが、もうここで書いてしまいます。シマノのよりこっちのほうが俺は好きだ!
ホースのカット・オリーブの交換・インサートの挿入
さて今回上のTEKTRO BLEED KITの中で使う専用工具はこれ。ホースカッター兼インサート圧入工具です。なんかホチキスみたいな外見ですよね。画像のように、カッターが仕込まれています。これを使います。
が、その前に。まずはホースをキャリパーから外します。下の写真は、TRP Hylex RSというブレーキなのですが、これからやっていく作業は原理的には他社製品でも応用が効く一般的なものです。この製品については、ホースはキャリパー側でカットする必要があるのですが、レバー側でカットする場合も基本的な作業は一緒です。
いちばん左側のプラキャップを、まず手でホースの上方向に引っ張ります。すると8mmのナットが露出するので、オープンエンドのスパナでゆるめていきます。
するとホースが抜けます。抜けた姿はこんな感じ。ここには4つのパーツがあるのですが、それらの名称は後述します。とりあえず、ホースをあらかじめて決めておいた長さにカットしてしまいます。
なおホースの長さは、ハンドルを思いっきり左右に切った時に長さが足りなくならないように調整します。落車時にハンドルがあらぬ方向を向いてもホースが抜けないようにするためです。
カットする場所を決めたら、テクトロの専用カッターでこんなふうにはさみます。画像に写っているカッターでホースを切ることになります。
この作業で大切なのは、とにかくホースの先端を水平にカットすることです。そのためには、このホースカッター内部の溝(ガイド)にしっかりホースをのせる必要があります。
しかし、ただホースを溝にのせるだけでは完全な水平は出ません。じっくり観察しながら、最初は練習できる箇所(ワイヤーの端っこなど)で練習してみることをおすすめします。
ホースをセットしたら、あとはもうバチン、とカットするだけです。ここでひとつ注意点。ホースをカットしたら、すぐに断面を上に向けましょう。そうしないとオイル(フルード)が流れ出てしまうことがあります。またホースをカットする場所では、床にオイルが垂れても困らないよう何か敷いておくのが良いと思います。
さて、ホースを適切な長さにカットしたら、今度は必要なパーツをふたたび組み入れていきます。下の写真の「プラスチックキャップ」はブレーキ本体の付属品なのですが(機能的には最悪なくてもブレーキは動作するパーツ)、残りの3つ、「コンプレッションナット」と「オリーブ」そして「インサート」はテクトロのキットにたくさん入っています。
ここでこれらのスモールパーツの名称を整理しておきます。というのも、いろいろな別名があってややこしいからです。
- コンプレッションナット(Compression nut)=スリーブナット(Sleeve nut)=ホースリテイナー(Hose retainer)
- オリーブ(Olive)=コンプレッションフェルール(Compression ferrule)
- コンプレッションインサート(Compression insert)=バーブ(barb)
機能的にはコンプレッションナットがオリーブを押しこみ、さらにオリーブがインサートを押しこんでいく、というもの。オリーブはメーカーによって形が左右対称だったりしますが、TEKTRO/TRPの場合はこの順番です。でも理屈を理解すれば、方向は間違えないはず。なおこれらのパーツの中で、オリーブは再利用しないのが基本です(なぜかというと潰れるから)。インサートも新品を使いましょう。
で、そのコンプレッションインサート(バーブ)なのですが、これが手ではなかなか入らないのです。そこでこのホースカッターを使います。こんなふうにホースを通したあと、レバーを下側にぐっと押してホースが動かないようにします。
その状態で右側のレバーもろともギュ〜ッと握りしめます。するとこんなふうにインサートが圧入されます。小さい工具なのに、頭良いよね!
さて、これでホースのカットとスモールパーツの装着は完了です。あとはこれをキャリパーに接続して終わり。
もし作業中にオイルがほとんど漏れず、システム内部に空気も混入しなかったら、そのままでもブレーキが使えます。しかしどうも調子が悪い時は、この後に「ブリーディング」という作業が必要になります。それについては別途記事を用意したのであわせてご一読ください。
SHIMANO TL-BH62の場合
ここまでは「TEKTRO BLEED KIT」に同梱されていたホースカッター兼インサート圧入工具を使って作業してきましたが、世の中ではどうもSHIMANO TL-BH62という製品が有名らしいので、比較対象として使用感を試してみることにしました。まずはこちらがその製品。これは「収納時」の姿です。
これは2つのパーツに分かれます。合体ロボみたいな感じ、発明品の類という感じがします。右側にあるのはホースカッターで、これを写真のように本体から一度分離させた上で、違うふうにはめこんで使用します。
ホースカッターは柄の青い部分を押しこむとカッターの刃が作動する仕組みです。こんな感じで、斜めの刃が出てきます。イメージとしては、ギロチンです。ちょっと怖いね。
先に他の機能も見ていきましょう。こんなふうにコンプレッションインサートを圧入する機能もあります。ホースをセットして、本体の青いレバー部分を閉じてホースを固定して、黒いレバーを握りこむと作業完了です。
この青いレバーは、本体右下のビスをマイナスドライバーかコインで回すことで可動域を調整できます。出荷時の状態だとホースをうまく挟めないので少しゆるめたほうが良いです。
実際にはこんなふうにホースをセットします。右側の青いレバーを押しこむと、内側に黒いプレートがせせり出してきて、ホースを固定してくれます。
工具のまんなかに広々とした空間がありますね。ここにホースカッターを嵌合します。はめこみます。合体させます。
するとこんな感じになります。青いレバーを奥までグイッと押しこめば、ホースがカットされます。
カットできました。
TEKTRO BLEED KITとSHIMANO TL-BH62。どっちがいい?
この記事を書くにあたって2つのメーカーの専用工具を使ってみたのですが、はっきり書きましょう。私にとって使いやすかったのは、断然TEKTRO BLEED KIT同梱のカッターです。
というか、ホースはどちらも断面はきれいにカットできます。ただ斜めにならないよう水平にカットするには、TEKTROもSHIMANOもどちらも慣れが必要。ホースをきっちりまっすぐセットしたつもりでも、実際はセットできていないことがあります。これはどちらの工具を使っても限界はあるように感じました。
コンプレッションインサートの圧入ですが、テクトロもシマノもどちらもきれいに仕事をしてくれます。ただ同じ品質の作業をするツールとして、SHIMANO TL-BH62はちょっと仰々しいのです。物体としてはギミックがあって面白いのですが、テクトロのカッターのシンプルさ、こちらのほうが私の好み。
あと値段。テクトロのキットはブリードで使う注射器やパッドブロックやスモールパーツが山ほど入っていて大体5,000円。シマノはカッター単体で7,000円くらい。テクトロのほうがお得感があります。
あとカッターのキレ。これも意外なことにテクトロのほうが良かったです。シマノは完全にカットするのに手間取りました。もしかしたら使い方が良くなかったのかもしれないけれど、だとしても同じ条件で作業した場合、テクトロのキットのほうが簡単かつ確実に作業できたということが言えるのです。このTEKTRO BLEED KIT、すごく良い。
専用工具を使わずに作業できるか
この記事を最初からここまで読んでくださった方で、様々なメンテナンスを自分でやられている方なら、ホースカットとインサートの圧入は専用工具がなくてもできるのではないか、と思われたかもしれません。
要するに、ホースをカットする時に穴が潰れないよう真円を保つ。バリを残さない。切り口は水平にする。それが実現できれば、ツールは何だっていいのです。
インサートの圧入にしても、要するにホースが動かないように2つの物体でガッチリ固定した上で、ホースに軽く挿したインサートをラジオペンチのようなものでやさしくコンコン叩いて入れていけば良いのです。勿論、パーツを壊さずに、ですが。
しかしそれは上級者の話。こういう作業に慣れていない方は、やはり専用工具を使うのが良いと思います。
メンテナンスに関して、私は自分が熟練者だとは思っていませんが、これまでの経験を通じてひとつ言えることがあります。それは
やったことのない作業を横着してラクに・安価にやろうとすると、大体失敗する
というものです。
ホースカットとインサートの圧入は、油圧ディスクブレーキを単体で買うような人は絶対に数回使うことになると思います。バイクを新調する時もそうですが、最初のセットアップ時もホース長を微調整しながら作業する時に重宝します。
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