TRP SPYRE(スパイア)というメカニカルディスクブレーキがあります。メカディスクの中でもデュアルピストン方式を採用しているため安定した「当たり」を得られ、パッドが片側だけ摩耗することが少ないと評判です。完成車ではエントリーグレードのロードバイクやグラベルロードで採用されていることが多いパーツです。
私はTRP Hyrexという油圧式、HY/RDという油圧・メカニカルハイブリッド式のディスクブレーキも愛用していますが、最近HY/RDを再ブリーディングするために取り外したので、このタイミングで以前から気になっていたメカディスクの最高峰、SPYRE SLCを試してみることにしました。
TRP SPYREシリーズのラインナップ
本題に入る前に、TRP SPYREにはいくつかのモデルがあるので整理してみましょう。
- SPYRE
- SPYRE-C
- SPYRE SLC
SPYREがノーマル版で、SPYRE-CがOEM版(完成車搭載版)です。SPYRE SLCはアクチュエーションアームがカーボンになっている軽量版で、本記事でレビューする製品です。
いずれもフラットマウントとポストマウントが用意されていて、メカ的な構造は同じです。また、ほぼ同じ仕様の製品でMTB用ブレーキレバー向けに引き代が最適化された「SPYKE」という製品も存在します。
SPYRE/SPYRE SLCは少なくとも2013年には存在していたので、既に7年目になるこなれた製品です。発売初期にはリコールがあったりその後何度かマイナーチェンジもあったようですが、気がつけば大ロングセラー製品になっています。愛用されている方は多いのではないでしょうか。
TRP SPYRE SLC フラットマウントの外観・特徴
私が購入したのは軽量版のSPYRE SLCです。SLCは恐らくSuper Light Carbonの略でしょうか。160mmローター2枚と各種マウント用ボルトが入ったバルク品を買ったのですが、袋を開けてみてまず驚いたのはその質感の高さとカッコ良さ。非常に高級感があって外観だけで見るとHY/RDよりも好みかもしれません。
HY/RDはポストマウント版を使っているのですが、載せているグラベルロードがフラットマウント対応なので今回はそれを使ってみることにしました。
フロント用マウントアダプターは天地を逆にすると140mmローターにも対応します(フロントで140mmを使う方は少ないとは思いますが)。
リアには160mmローター用のマウントアダプターがセットされていました。リアで140mmローターを使いたい場合はこのアダプターを撤去してフレームに直付します。このあたりはシマノのディスクブレーキと同じです。
SPYREシリーズ最大の売りはデュアルピストン方式が採用されているところ。両側から均等にローターを挟むように設定できるので、調整がきちんとしていれば少ない力で効かせることができ、パッドの片側だけ摩耗することもなくなる仕組み。安価な無名のメカディスクブレーキは大半がシングルピストンです。
実測重量は前後合わせて、マウントアダプター込みで338gでした。片側が大体170gです。
リア用の長いボルトも付属します。フラットマウントはポストマウントと違ってチェーンステイに開けられた穴の下から上にボルトを通して直接本体に固定する方式です(160mmローターの場合は一応マウントを介しはしますが)。ポストマウントよりもコンパクトになる反面、キャリパーの位置調整は少しだけ手間がかかります。
バラしてみたところ付属のパッドはセミメタルのSP10.11でした。HyrexやHY/RD付属のものと同じで、シマノM525/M515などと互換性があります。コッターピンを外して3mmのヘックスレンチでボルトを引き抜くと簡単にパッドを取り外せます。整備性はすごく良いですね。
セットアップと調整に必要な工具はT25, 3mm, 5mmヘックスレンチの3つ。ケーブルの固定にはT25を使います。トルクは2.5-3.0Nm(※SLCでないノーマル版のSPYREの指定トルクより小さいので注意)。まあこのあたりは勘で締めます。フレーム、フォークへの固定は5-7Nmです。
3mmのヘックスレンチはパッドのクリアランス調整に使います。このボルトを締めるとパッドが内側に入っていきます(左右両側にあり)。が、微調整はここをいじる前にまずはバレルアジャスターで対応したほうが良いでしょう。バレルアジャスターはケーブルを通す前に当然ながら奥までねじ込んでおきます。
さて、下のHY/RD(ポストマウント)を取り外して、かわりにSPYRE SLCを車体に取り付けます。HY/RDの実測重量は、前後ペア、マウント付き(フレームへのボルトを除く)で521gでした。
するとSPYRE SLCのフラットマウントにすると183gも軽量化されることになります。知らなかったー、これはすごい。TRP公式サイトによるとHY/RDとSPYRE SLCとではキャリパー単位で59gの違いがあるようです。フラットマウント同士でも100g以上違うんじゃないでしょうか。やはりリザーバータンクがある分、HY/RDは重さがあります。
インストールとセットアップ
というわけで早速セットアップして使ってみました。インストールは驚くほど簡単で、ほぼポン付けでOK。難しいところは何もありません。ブレーキレバーはTRP RRLと合わせましたが、SPYREのバレルアジャスターを多めに緩めるとちょうど良い引き代になりました。ただ、調整範囲はレバーによっては物足りない場合があるかもしれません。
しかし引き代の調整目的でアクチュエーションアームを少し引っ張りつつワイヤーを張る(プリロードをかける)のは、TRPのマニュアルでは「やってはいけません」と書かれてあります。恐らくそうすると引き代が短くなっても引きが重くなるからだと思います。
バレルアジャスターで調整しきれない場合、あるいは長期使用でパッドが磨り減ってきた場合などはパッドアジャストボルトを締めて対応することになります。
しかしこの3mmの調整ボルト、昔から「かなり固い」という話を聞いていました。あまりに固いため初回調整時にナメてしまった方もいるほどなので、私もドキドキしながらいじってみたのですが、するとビックリ、驚くほどユルユルなボルトで拍子抜けしました。個体差の可能性もありますが最近のロットでは改善されているんじゃないでしょうか。
が、最初はとにかく「精度の良い工具」を使って「正しい角度」で奥まで挿してから回したほうが良いでしょう。固い場合はロックタイトが原因らしいので、最初だけ回せてしまえばあとは大丈夫なはずです。
実走へ
マニュアルによるとパッドは当たりが出るまで30-40回のブレーキングが必要とありましたが、使いはじめから十分な効きで、さらにその3倍くらい使ったあたりから急激に効きが良くなったように感じられました。
まだ峠を下ったりはしていないのですが、橋を中心にそこそこ長い坂道も何度か下ってみました。初日は都内で約40kmのライド。
まだ使いはじめたばかりなのであくまで初期使用感になりますが、第一印象は
なんだこれいいじゃんwww
です。
メカニカルディスクブレーキとしてはこれまでにAVID BB7やPROTEKの無名製品などいくつか使ってきましたが、それらとは同列に語れない使いやすさです。オモチャっぽさが全く感じられません。これまでメカディスクに感じてきたガッカリ感は皆無です。
引きの軽さとしてはやはり「油圧のHyrex > 油圧・メカニカルハイブリッドのHY/RD > SPYRE SLC」の順番です。これはもう機構が違うのですから仕方ありません。
付いてきたSP10.11セミメタルパッドは、HY/RDの場合だとむしろレジンパッドのほうが好みだったのですが、SPYREでは特に違和感がなく相性は良いと感じます。
あとTRPはコンプレッションレスのアウターケーブルの使用を推奨しているのですが、とりあえず安物のアウターを使っています。それでも使用感はかなり良いです。
(その後ワイヤーをインナー・アウターともに日泉ケーブルに換装したところ、使用感はさらに素晴らしいものになりました。詳細は下の記事にて)
どんな人におすすめ?
ヒルクライムメインの方やオフロードで攻めた走りをするような方は迷わず油圧系を選んだほうが良いと思いますが、平地メインならSPYREで全く問題ないんじゃないでしょうか、というのがとりあえずの感想です。勿論リムブレーキより断然効きます。
あとはメカ的にすごくシンプルなのでメンテナンスもパッドの交換くらいで済みます。便利なHY/RDにしてもいずれオイル交換が必要になる時がきます。ブリーディングは面倒臭いなぁ、と感じている方は素直にこちらを選んでも良いと思います。
HY/RDのほうが絶対的な性能は確実に上ですが、SPYREはかなり肉薄している感じです。また重量面のメリットもあるので、こちらを積極的に選びたいという人がいてもおかしくありません。実勢価格的にもペアで2〜3,000円くらいの違いです。
逆に完成車にSPYREが付いている方で、もっと強力なブレーキが欲しい、と思った場合はフル油圧に行ったほうが良いでしょう。SPYREからメカ・油圧ハイブリッドのHY/RDへのアップグレードだと感動が少ないかもしれません。
今のところ、これだけストレスなく使えるなら峠の下りでも問題ないんじゃないかという気がしていますが、そこはあくまで推測。この夏に実走で試してみてから、リブリードの終わったHY/RDとの比較を交えつつ、また使用感を報告したいと思います。