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よみもの

リム耐久破壊モードの研究 ~ダブルアイレットリム編~

「早起きは三文の徳だぜ」(古っ!)

1周42kmの郊外コースをガーッと走って朝6時前に帰宅した宅浪は、いい気分に浸りながらおしぼりウェッティでフレームを拭き、最後にぐるーんとホイールを回してタイヤ表面をサッと拭いた。

「あれれ?」

リアホイールが大きく振れていた。

「こんなに振れていても気が付かないのかよ?オレ」

鈍感すぎる自分に関心しつつ、リムの振れを修正しようとした宅浪は、見てしまった。

「またか・・・」

リム耐久破壊モードの研究 ~ダブルアイレットリム編~

形あるものはやがて壊れる

毎年数千km以上走るような自転車乗りにとって、ホイールを構成するパーツの一つであるリムは、消耗品として位置づけられます。繰り返し荷重による疲労で稀にスポークが破断することがありますが、同様に、ごく稀に、リムにはニップル保持部を起点とした亀裂が入ることがあります。

さらにリムブレーキであればごく稀に、度重なる雨天走行で擦り減ったブレーキ面に割れが入ることも。リム設計の現場では、使用距離と軽量化のバランスを勘案しつつ、ユーザーに分かりやすい安全な耐久破壊モードを示すような製品の実現に向けた努力がなされているはずです。

形あるものはやがて壊れます。形あるものが壊れゆくその様を、つぶさに見届ける。これは自転車の一つの愉しみでもあります。

完組ホイールと手組ホイール

廉価品から高級品まで、今ではすっかり完組ホイールが自転車ホイールの主流となっています。自転車ホイールの安全上の位置づけは、クルマでいうところの、走る、曲がる、止まるという基本動作に重大な影響を与える重要保安部品みたいなものです。

そういう意味では、メーカーがリム、スポーク、ニップル、ハブなどを総合的に最適化して 「ホイール」 として販売することで一定の安全レベルが担保されていると考えてよいでしょう。

一方で、手組ホイール。規格品であるリム、スポーク、ニップル、ハブをユーザーやプロショップが選択し、一品仕立てでユーザーやプロショップが組み立てるのが手組ホイールです。1995年頃までは、ホイールを買うと言ったらそれは大抵、手組ホイールのことだったわけです。

そんな手組ホイールのリムには、モダンな完組ホイールのリムのように肉厚分布を最適化するなどといったこととは無縁の銘柄も少なからず存在します。勢い、スポークテンションのストレスが加わるニップル保持部付近に亀裂が入るなどということも稀に起きます。

さて、今回亀裂が入った私のリムは、いわゆるダブルアイレット(両鳩目)チューブラーリムで、昔ながらの手組専用品です。しかも実はこれが同一銘柄で2例目。一体どうなってるんだ!?というわけで、本稿では、ダブルアイレットのリムの破壊モードについて、私の事例を観察し、破壊に至る道筋を推定してみた、というわけです。

ダブルアイレットのリムはチューブラーとクリンチャーの両方のリムで今でも存在し、完組ホイールでも廉価、中級品に見ることができますが、どちらかというとクリンチャー、チューブラーを問わずホイールを手組する方になじみのある話題だと思います。

かなりマイナーなネタではありますが、完組派のかたも、「では自分のお気に入り○○はなぜ逝ってしまったんだ?」とか、「オレの完組のリム、実はこんな風に割れちゃったんけど?」といった視点で、どうぞお付き合いください。

鳩目(アイレット)ってなんだ?

鳩目(アイレット)というのは、スポークとリムをつなぐニップルがリムに収まる穴の部分の構造形式のことです。衣料などでもよく使われるカシメ構造の穴補強方式で、ハトの眼に似ているので日本では鳩目と呼ばれます。英語圏ではeyeletです。

左上:Ambrosio NEMESISのダブルアイレット(表側)/ 右上:山系ウエアのアイレット 左下:Ambrosio NEMESISのダブルアイレット(裏側)/ 右下:鳩

左上:Ambrosio NEMESISのダブルアイレット(表側)/ 右上:山系ウエアのアイレット
左下:Ambrosio NEMESISのダブルアイレット(裏側)/ 右下:鳩

ニップルが収まるリムの穴部分には大きな力が加わるので、リムに穴をあけてそこにニップルをひっかけるだけ、というのは強度的に無理がありますので、様々なくふうがなされています。手組用として単品販売されているリムに限って非常に大雑把に分けると、つぎのように4通りの補強方式があります。

  1. シングルアイレットをリムおもて面に施す(下図①の赤い部材)
  2. ダブルアイレット(両鳩目)でリムを表裏から挟む(下図②の赤と緑の部材)
  3. リム専用のワッシャーを挟む(下図③の赤い部材)
  4. ニップル部の肉厚を厚くする
リム穴補強4方式 ①シングルアイレット ②ダブルアイレット ③専用ワッシャー ④ニップル部肉厚化

リム穴補強4方式 ①シングルアイレット ②ダブルアイレット ③専用ワッシャー ④ニップル部肉厚化

①②③はかなり古くから存在しています。①や②のアイレットリムを見てみると、MAVICでは、ロード、MTBともにダブル、シングルアイレットがあります。AMBROSIOはクリンチャーとチューブラーの両方でダブルアイレット、MTBではシングルアイレットがあります。DT SWISSはクリンチャーリムで昔からダブルアイレットがありますが、近年の同社は専用ワッシャを使ったアイレットなし形式が主流のようです。ただしMTBリムでは一部、ダブルアイレット品も持っています。ALEXRIMSのロードクリンチャーはニップル部が厚肉となったアイレットなしが主流、MTBリムはシングルアイレットも多くラインアップされています。

一方、完組ホイール。

リム、ニップル、スポーク、ハブまで専用設計で、メーカー独自の最適解を見出そうというのが完組ホイールの究極の世界。ニップル勘合部を肉厚にして、それ以外は各部位に応じた大胆な切削や造形を施すのが当たり前。

ただし、廉価、中級の完組ホイールでは、ダブルアイレット、シングルアイレットを採用した製品も多く見ることができます。

徐々に少なくなり、廉価・中級品が中心になっていますが、現代の単品リム、完組ホイールのリムでもダブルアイレット、シングルアイレットともにまだまだ健在です。あなたのリムに鳩目はついていますか?

Ambrosio CRONO F20に亀裂を発見

さて、ここからが本題です。

スチールロードで使っていたAmbrosioの軽量チューブラーリム CRONO F20 のアイレット(鳩目)付近に亀裂を発見しました。リヤのフリー側です。走行距離は約14900km。

実は、CRONOの亀裂事件は私にとってコレが2例目。1例目は5年前の2015年。別のスチールロードで使っていたリアのCRONOで同じようにアイレット付近から亀裂が入っています。こちらの走行距離は約11300km。

CRONOの重量は370グラム程度で、軽量チューブラーリムということになっています。しかし、ロード用リムの選択肢がチューブラーリムしかなかった時代の軽量リムと比べれば特に軽い部類には入りませんし、今どきは40年前よりは多少、モダンなラインで製造しているのだろうと勝手に思い込んでいる私は、壊れるなどというトラブルは、リヤホイールを片面ラジアルとか、36穴リムに24本スポークで組むといった、手組としてはイレギュラーな組み方で組んだりしない限り、ないだろうと思っていました。

32穴6本組(3 クロス組)・・・平凡すぎる組み方のAmbrosio CRONO F20ホイール(使用前)

210kgfという、今となっては全く夢のような(笑)背筋力を誇った若いころ、CRONOよりも軽量なMAVICのRECORD DU MONDEやORO10といったリムで思いっきり踏み倒していましたが、亀裂が入るなどということはなかったので、21世紀に入って2度の事例に遭遇というのは、ちょっと意外です。なお、組み方は当時も今も32穴イタリアン6本組(3クロス組)です。

どんなふうに亀裂が入っているのか

実は、リムに亀裂が走っただけではなく、なぜかアイレットも割れていました。CHRONOのアイレットは、チューブラーリムでは定番のダブルアイレット(両鳩目)形式。

これをご覧ください。

これは2015年に発生した1例目。左画像が亀裂が入った部位で、アイレットを撤去したあとの様子、右画像は正常なアイレット部の様子、です。御覧の通り、左画像ではリム本体がアイレットの穴から裂けています。

1例目(2015年)のリム亀裂(左)と正常なアイレット(右)・・・走行11300km

1例目(2015年)のリム亀裂(左)と正常なアイレット(右)・・・走行11300km

次の画像は今回発生した2例目の事例。アイレットも割れており裏側からポロリと抜け落ちましたが、表側はカシメが効いていて、容易に取り除くことができませんでした。それにしても亀裂の様子は1例目とよく似ています。リムがバキッと割れてバラバラになるわけではないので、危険は感じませんが、1万km少々しか走っていないんだけどなあ、という感慨は湧いてきます。

2例目(2020年)のリム亀裂の様子・・・走行14900km

2例目(2020年)のリム亀裂の様子・・・走行14900km

そもそもダブルアイレットの構造とは

チューブラーリムのダブルアイレットの構造を確認してみます。

図のように表側(スポーク側)の小アイレットと裏側の大アイレットの2ピース(両鳩目:double-eyeletted)から成り立っています。図からわかるように、表側の小ピースで、 裏側から伸びている大ピースの上端絞り部と表側のリムをカシメる ことで強固に固定しています。そして 大ピースの下端は折り返されてリムの裏面にも緊縛力を与えます。

ダブルアイレットの構造

ダブルアイレットの構造

リムに亀裂が入っただけでなく、アイレットも円環状に切れているのですが、では、アイレットは一体、どこで切れているのか?それは、おおよそ、次の図の赤線と青線の部分です。赤線が小ピース側、青線が大ピース側の破断ラインです。

ダブルアイレットは赤青線付近で破断していた

ダブルアイレットは赤青線付近で破断していた

次の図のように、スポークのニップルは、表側のアイレットを引っ張るのですが、この表ピースがリムと裏ピースをカシメているため、ニップルを介してスポークで引っ張られている表ピースが、裏ピースも引っ張ります。結局、スポークテンションは、大きい裏ピースと小さい表ピースを介して、リムの表側の面と裏側の面の2面で分担して受け持たれることになります。

ダブルアイレットとスポークニップルの位置関係

ダブルアイレットとスポークニップルの位置関係

ダブルアイレット方式はリムへのスポーク荷重を2面で分散するため、強度的に有利になります。しかし、カシメるときの条件によっては、裏ピースを介して大半のスポークテンションがリム裏面に加わってしまったり、逆に、表側のリム面が大半のスポークテンションを受け持つ場合もあるはずです。ダブルアイレットというのは、製造管理が意外と難しい構造なのかもしれません。

それにしてもなぜ、2カ所で切れるのでしょうか。ちょっと不思議です。

アイレットはどうなってしまったのか

アイレットが先ほどの図の赤青線部付近で破断したと申し上げましたが、実際にどうなっているのか?

次の画像は2015年の1例目。

2015年の1例目で破断したダブルアイレット

2015年の1例目で破断したダブルアイレット

迂闊にも裏アイレットの上端絞り部を回収しなかったのですが、表アイレットの細い首が円環状に切れて、大きいほうの裏アイレットも円環状に切れていました。つまり、先ほどの赤青線で示したあたりで、2カ所で破断しています。

上の画像のようにアイレットがパカッと割れてしまう前に、なにか前段階があるだろう、と思ってしまいますよねぇ。というわけで、健全そうに見えるアイレットを裏側からじっくり観察してみると・・・

いました。奥に亀裂が見えます。小ピースのカシメ部分に円弧状の亀裂が走っています。これは2015年の1例目のリムですが、まだ健全と思われたアイレットの小ピース側に微小な亀裂が2件、発見されました。

2015年の1例目リムの健全そうなアイレットをよく見ると、円弧状の小亀裂を2件発見!

2015年の1例目リムの健全そうなアイレットをよく見ると、円弧状の小亀裂を2件発見!

2020年の2例目のリムでも、同じような微小亀裂が2件ほど発見されました。兆候らしきキレツって、あるんですねぇ。

リム亀裂の兆候はあるのか

最初に示したアイレット穴からの派手なリム亀裂は、一目見ればそれとわかります。しかし、いきなりあんな風にパカッと割れるとは考えられません。最初は微小なキレツから始まっているに違いないのですが、今回、2例目を経験して、改めて眼鏡をかけて目を凝らしてじっくり見てみると、意外にも簡単に微小キレツを発見することができました。コレです。

2020年の2例目で発見されたリムの微小亀裂

2020年の2例目で発見されたリムの微小亀裂

これは2020年の2例目のリムですが、キレツの線が3本入っているのがわかります。画像で見るとかなりはっきり存在しているように感じられますが、普段何気なく見ているだけでは、老眼が始まっている鈍感なオッサンの私が気づくことは、残念ながら、ありません。

2015年の1例目も、よ~く見ると、亀裂が入っていた2つアイレットに対応するリム表目に非常に軽微なキレツが発見されました。この類の亀裂の話はまれに聞くので、経験された方もいらっしゃるはず。いずれにしても時々、よ~く観察した方がよさそうではあります。

スポークテンションはどうだったのか

さて、2015年の1例目。ホイール組上げ時のスポークテンションを確認してみます。

リムに亀裂がパカッと入って、対応するアイレットも切れていました。また、他にも2つのアイレットに予兆的キレツが入っていました。これら3件のアイレットに対応するスポークの組上げテンションが気になる、というわけです。もしかしてこの3本が突出して高テンションだったのではないか?という疑念が湧いてくる、というわけです。

し・か・し・・・

これが、そうでもないんです。次の図は、ホイールを組んだ時のテンション。右のレーダーチャートがリアホイールで、外円が、フリー側のスポークのテンションを示していて、1000から1300N(ニュートン)程度のテンションで組んでいます。円周方向にスポークごとに記した数字1から16のうち、これの1番がリム亀裂が発生したところ、5番と15番がアイレットに予兆的亀裂が入っていたところに対応します。テンションが他と比べて高いというわけでもなく、ごく平凡な値でしかありません。2020年の2例目も実は、同じ傾向です。

2015年の1例目のホイールを組んだ時のスポークテンション数値(2011年)

2015年の1例目のホイールを組んだ時のスポークテンション数値(2011年)

不思議です。

というわけで結局5年前と同様、少々強力なクラシックリムのAmbrosio NEMESISで新たにリアを組みなおしてしまいました。これで2台のスチールロードは期せずしてどちらも、前CRONO/後NEMESIS と相成りました。

上表で”Evaluation”という欄がありますが、これはスポークのテンションばらつきの標準偏差を平均テンションで除した値です。フレが小さく、かつこの数値が小さいほど精度の高いリムということが言えます。手組リムの、大変重要な評価指標です。

つまり何が最初なのか

ホイールが一回転するたびに、スポークテンションは、ある値を境に大テンションと小テンションの間を行き来します。乗り手の体重が主な原因ですが、これにより繰り返し荷重がリムにかかります。

仮に、ダブルアイレットのうち、大径の裏ピースのカシメ緊縛力が大きく、その結果リムの裏側がスポークテンションの大半を受けているとすると、大径の裏ピースに大きなストレスが繰り返しかかり、やがて裏ピースと表ピースがカシメられている絞り部あたりから裏ピースが円環状に切れた、としましょう。

すると、裏ピースのおかげで楽をしていた小さい表ピース側のリム面に、いきなり全荷重が加わることになります。裏ピースとリムの接触面は広いのですが、表ピースとリムの接触面は狭いので、リムに作用する応力は大きく、その大きな繰り返し荷重でまずは表アイレットのカシメ部がやられて切れ始めます。

すると、ニップルの接触面応力分布が不均一になり、あたかも表リムをえぐるような力がかかってしまい、やがてリムに入っていた微細な亀裂がパカッと成長して、スポークテンションが解放され一気にリムが振れ始める。

・・・と考えてみました。つまり、

裏アイレットの破断が最初である

みなさんはどのように考えますか?

まとめ

ダブルアイレットリムに関して考察してみましたが、ノンアイレットリムや、様々なくふうが施された完組ホイールのリムはどのような壊れ方をするのでしょうか?

MAVICのKSYRIUM ELITEのようなリムねじ込み式ニップルなどは、リムのスレッドを根こそぎ引き抜いてしまったりしないのだろうか?などと余計なことを考えてしまいます。

あらゆるモノはいつか壊れますが、どんなふうに壊れるのか? そこには実に興味深く、奥深い世界が拡がっています。

  • ダブルアイレットの破壊モードを推定し、裏アイレットが最初に破断すると結論付けた(真相は如何に?)
  • アイレットではないリムや様々なくふうが施された完組のリムはどのような壊れ方をするのだろうか?実に興味深い
  • 時々よく観察して、リムに微細な亀裂が走っていないかどうか確かめよう!
  • 形あるものが壊れゆく様をつぶさに観察することは、自転車の一つの愉しみである
著者
GlennGould

単なる市井の自転車乗り。2020年はスレスレで年間走行距離10000kmを上回り、最近10年間の総走行距離は109500kmほど。早朝4時から7時前(冬は真っ暗)に走ることが多く、日焼けはかなり控えめ。ここ数年はMTB走行が多め。おかげで自転車の操縦が少しだけ上達したような気がする(というのは完全に思い込み)。 そういえばサイスポ歴は立ち読みも含めて45年。 なお、山歩き歴も長いですが、そちらは永遠の初心者。

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