現在筆者が所有している何台目かのブロンプトンですが、3年を経過してはじめてヘッドセットから異音が発生しました。というわけでヘッドセットの分解・清掃・再調整をするついでに写真を撮ったので、自分でもやってみたいという方のためにステップ・バイ・ステップでメンテナンス手順を紹介します。
↑ヘッドセットを外から見るとラバーパーツが切れていました。これは「ステアリング・ベアリング・ロックナット」と呼ばれるパーツが知らないあいだにゆるんでしまった結果、圧迫されてこうなったのでしょうか。
各パーツの名称
最初に各パーツの名称を覚えておきましょう。
- ステアリング・ベアリング・ロックナット(Steering bearing locknut)
- 回転防止ワッシャー(Anti-rotation washer)
- ステアリング・ベアリング・レース(Steering bearing race)
- エキスパンダー・コーン・ボルト(Expander cone bolt)
- コーン(Cone)
- 上ベアリングカップ+ベアリング(Bearing cup/bearings)
- 下ベアリングカップ+ベアリング
- シール(Seal)
- フィクスド・ベアリング(Fixed bearing)
「ステアリング・ベアリング・ロックナット」(1)は単に「ステアリング・ロックナット」と呼ばれることもあります。「フィクスド・ベアリング」(9)は一般的なスチールバイクでは「クラウンレース」と呼ばれているものです。
なお本記事ではベアリングは取り出しますが、ベアリングカップ(6と7)とフィクスド・ベアリングは外しません。
必要なツール
今回の作業に必要な基本工具は、
- 6mmヘックスレンチ
- 36mm以上をクランプできるモンキーレンチまたは36mmヘッドスパナ(後者がおすすめ)
- ハンマー(鉄がおすすめ)
- グリス
などです。ワークスタンドは、あれば便利ですがなくても作業できます。
ステアリング・ベアリング・ロックナットをゆるめる
まず最初に「ステアリング・ベアリング・ロックナット」をゆるめます。ブロンプトン社のマニュアルによるとこれは「約1回転」ゆるめることになっています。反時計方向に回します。写真ではモンキーレンチを使っていますが36mmのヘッドスパナでもOKです(後述しますがヘッドスパナは最後の玉当たり調整で必要になります)。
エキスパンダー・コーン・ボルトをゆるめる
次に「エキスパンダー・コーン・ボルト」をゆるめます。ブロンプトンのヘッドセットはスチールバイクの1インチスレッドステムとほぼ同じ構造で(※但しコラムは1-1/8インチオーバーサイズ)、このボルトが内部のコーン(臼)をグリグリと引っ張り上げることでステムをフォークコラムに固定させる仕組みになっています。
クイルステムを使ったことのある方にはお馴染みのシステムです(コーンのかわりにウェッジが使われていることが多いですが)。
コーンを落とす時、このボルトはブロンプトン社のマニュアルでは「4回転戻してから叩く」とされています。
ボルトがコーンから完全に抜けないように、またボルトを叩く時にネジ山がコーンの溝に十分に入っている必要があります。その目安が、フルに締めてある状態からの4回転戻し、ということです。必要なツールは6mmのヘックスレンチ。
ボルトを叩いてコーン(臼)を落とす
次にゆるめたボルトを叩いてコーンを落とします。ここが最大の難関で、このコーン(臼)が固着してなかなか落ちてくれないことがあります。今回、まずボルトに差し込んだヘックスレンチの頭を重いショックレスハンマーで叩いてみましたが、やはり全然動いてくれません。
ヘックスレンチのかわりに六角ビットをあてがって叩いてみましたがやはりダメでした。
こうなるとこのボルトを引っこ抜いて、かわりに頭付きの長いボルトを入れてそれを叩く、というのが簡単そうですが、手元にちょうど良いボルトがなかったのでカンパニョーロのクランク工具を応用しました。細いほうの先端をボルトの「面」に平行に当て(※写真は説明のためにツールが斜めになっていますが、この角度で叩いてはいけません)、ショックレスハンマーではなく鉄のハンマーで叩きました。すると一発で取れました。
ここはボルトの中に何かビットを入れてそれを叩くよりも、ボルトの上面全体を面で叩いたほうがパワー伝達が良いと思います。最初に使ったショックレスハンマーはかなり重いものなのでうまくいくだろうと思ったのですが、意外に力が分散してしまうようです。鉄のハンマーのほうがインパクト時にトルクを集中させられる感じがしました。
ステム・アッセンブリーを引き抜く
ここまで来たらあとは簡単。フォークを片手で押さえつつ、「ステム・アッセンブリー」と呼ばれるハンドルが付いているユニットを引っこ抜きます(ケーブル類がひっかからないように注意)。う〜ん、すると破れたラバーが出現…
ちなみにこのラバーは本来下に見えている「ステアリング・ベアリング・ロックナット」に接着されているもので、単体のパーツではありません。私のはすっかり剥がれてしまっていました。このパーツ、なくてもヘッドセットの動作には影響はないのですが、防水・防塵の機能を果たしています。接着剤でなおるかな…
さて、外したステム・アッセンブリーからボルトを引き抜いてみました。すると内部はこんな感じです。
ボルトを抜いたので、コーン(臼)はフォークコラムの中にストンと落ちました。長いアーレンキーをコーンの穴に差し込んでそろそろと救出します。うまくやれば引っ張り上げられます。なおボルトとコーンを洗浄・グリスアップする必要がなければボルトは抜く必要は特にありません。
取り出したコーンがこちら。古いですが、グリスはまだたっぷり残っています。ボルトと一緒に後で洗浄して新しいグリスを塗ることにします。
回転防止ワッシャーとステアリング・ベアリング・レースを外す
次は銀色の薄いリング(回転防止ワッシャー)と、その下にある「ステアリング・ベアリング・レース」を外します。レースのほうを外すとワッシャーも一緒に上がってきますが、先に手で取ったほうが良いかも。レースは大きいモンキーレンチまたは36mmスパナで軽くゆるめた後は、手でクルクルと回していけば取れます。
取り外したワッシャーとステアリング・ベアリング・レースがこちら。ワッシャーには爪があります。
ベアリングをリテイナーごと取り出す
次にベアリングを取り出します。リテイナーを小さいマイナスドライバーなどで持ち上げると簡単に外れます。ぱっと見たところグリスもまだ残っていて、ベアリングにも痛みはないようです。今回はこのまま掃除してグリスを塗っていきます。
ここでこれまでバラしたパーツを再確認しておきます。右側から1がステアリング・ベアリング・ロックナット(本当は黒いゴムの部分と一体です)、2と3がボルトとコーン、4が回転防止ワッシャー、5がステアリング・ベアリング・レース、という順番です。
今度は下のベアリングを外します。フォークを引き抜くとこんな感じ。もしベアリングがヘッドチューブの下にくっついているようであれば、手で落とします。この写真は洗浄してグリスアップしたあとのものです。ベアリングの下にはシールがあり、その下にはクラウンレースに相当する「フィクスド・ベアリング」があります。
左がフォーク側の下ベアリングとシール(黒いリング)。なおシールの上下はベアリングをあてがってみれば正解は自然とわかります。右が上側のベアリング。両方取り出して洗浄し、グリスアップします。
パーツを戻していく
今度はパーツを戻していくわけですが、ステアリング・ベアリング・ロックナットの裏側やシール、スレッド(ネジ山)等の主要な回転部・嵌合部にはグリスを塗っておきます。グリスには防錆・潤滑・ネジの嵌合時のトルクの最適化といった役割があります。
ステアリング・ベアリング・レースは根本までキッチリ締めます(但しぎゅうぎゅう力一杯に締めてはいけません。最後に微調整します)。次にフォークコラムの切り欠きに合わせて回転防止ワッシャーを入れます。このあたりは直感的にわかるので特に悩む必要はありません。パーツの順番だけ忘れなければOK。
その後ステアリング・ベアリング・ロックナットを入れていきますが、これは根本まで締めた後、1回転だけ戻しておきます(※ブロンプトンのマニュアルによる手順)。
ハンドルアラインメントの調整とコーンボルトの本締め
次にステム・アッセンブリーをセットし、事前にセットしておいたエキスパンダー・コーン・ボルトを軽く締めてコーンを引き上げます。この時はまだコーンは完全に引き上げません。ハンドルのアラインメント(センタリング)をする必要があるからです。
このアラインメントはわりと簡単で、ステムを折りたたんでフォークのハンドルバーキャッチにハメておいた状態だとほぼセンターが出ます(このあたりがブロンプトンらしくて素晴らしい)。この状態でもう少しだけコーンを引き上げて、車体を組み立ててハンドル位置を再確認。
バッチリセンターが出ているようなら、エキスパンダー・コーン・ボルトを本締めします(ブロンプトンによる指定トルクは20Nm)。
最後にステアリング・ベアリング・ロックナットを回転防止ワッシャーと密着するまで締めます。
玉当たりを調整する
あとは玉当たり調整だけです。この状態でベアリングがガタついたり、ハンドルを回してみて硬すぎたりゴリゴリするようなら、ステアリング・ベアリング・ロックナットをゆるめ、ステアリング・ベアリング・レースを少し戻します(ガタがあるなら逆に少し締めます)。このあたりは数値化不能な職人的暗黒技術が要求されるのでいちばん難しいところかもしれません。
この玉当たり調整時、36mmのヘッドスパナがあると便利です。というかモンキーレンチだと幅広すぎてステアリング・ベアリング・ロックナットを締める時にステアリング・ベアリング・レースも一緒に動いてしまいますし、レースだけを動かすこともできません。ヘッドスパナはあったほうが作業性は良いでしょう。
私が使っているのはグランジの厚み6mmのヘッドスパナですが、これはロックナットもレースも単独で回すことができます。今回の作業がハードルが高いと感じた方は、とりあえずこのヘッドスパナでレースとナットをいじってみるのもありでしょう。
さて、以上がブロンプトン・ヘッドセットのメンテナンス手順でした。仕組み的には、「ステアリング・ベアリング・レース」が玉当たり(ベアリングをどのくらいの力で押さえつけるか)を担当し、それが決まったら「回転防止ワッシャー」がレースを動かさない役目を果たし、最後に「ステアリング・ベアリング・ロックナット」が玉当たり調整作業を確定させる、というイメージです。
丸暗記するよりも、それぞれのパーツがどのような役割を担っているかを考えながら作業すると、締め加減で失敗が少ないと思います。
ヘッドセットそのものを交換したい場合について
最後にヘッドセットそのものを他社製品に交換したい場合について。1-1/8スレッド式の製品がいくつか存在します。いちばん有名なのはChris King GripNut (1-1/8)でしょう。
なおヘッドワンまで脱着したい場合は別途ヘッドワンポンチとヘッドワン圧入工具などが必要です。あとグリスがない方はこちらも忘れずに!