スチールやアルミといった鉄系フレームは、パーツを組み込む前にいくつかの「下ごしらえ」が必要になる場合があります。具体的には、ボトムブラケットのシェル、ヘッドパーツを圧入するヘッドチューブやディスクブレーキマウントの「整形」が代表的なものです。しかし、これは一体誰がやるべき仕事なのでしょうか?
フェイシングやタッピングって何?
road.ccが上の写真とともに、インスタに次のように投稿しています。
このボトムブラケットは工場を出る前にフェイシングされるべきだったでしょうか? 答えはイエス。
ボトムブラケット(BB)では表面が完全な平面になるよう、「フェイシング」(=「面取り」)という仕上げが必要になる場合があります。フレームの塗料がBBとの接触面にランダムに垂れていたりすると、かみ合わせが完全なものにならない場合があるからです(※個人的な経験では、ほんの少しペイントが残っている程度なら不具合が出なかったことが多いですが、本来はやるべき)。
他にもBBシェル内側のネジ山にもペイントが垂れていたり、バリがある場合は「タップ」(溝立て。タッピングとも言う)をあらためて行う必要もあります。こちらはフェイシングよりも誤魔化しが効かない部分です。程度がひどい場合、BBを手で奥までねじ込むことができません。
▼ BBのフェイシングとタッピング兼用工具。メンテナンスツールの中では最も高額な部類に入るため、個人で所有している人は多くありません。
あらためてroad.cc投稿の写真を見ると、時計の1時〜3時の位置に塗料がガッツリ残っていますね。確かにフェイシングが十分でない可能性が高いです(場合によっては塗料の部分が、面取りされた他の部分より低くなっていて問題にならないこともあります。別の意味で問題はあるにしても…)。
暗黙の分業制
さて、この投稿にはイタリアで自転車工房を営んでいる方が次のようなコメントを寄せています。
いや、それ(=フェイシング)は工場で行われなくても良い。BBシェルのフェイシングとタッピングや、ヘッドチューブのリーミング(=管の内側の再整形)とフェイシング、シートチューブのリーミングもそうだが、フレームから完成車を組み立てる人がやる作業であって、フレームメーカーの仕事ではない。
場合によってはBBシェルの表面は既に完璧で、そのエリアに薄いペイントの層があったとしてもフェイシングがほとんど不要なこともある。
これはバイクを組み立てるメカニックの仕事だ。同じことはディスクブレーキのマウントについても言える。
road.cc的には「これは品質管理が良くないよね、工場でちゃんとやっておいてほしいよね」という主張で、上の方は「違う違う、それは組み立てる人がやるもんだ」という主張です。
数十年前、メーカーの仕事は確かにフレーム製造までで、フェイシングやタッピング、リーミングはショップが自店で行うのが一般的だった(暗黙の分業体制があった)。という話を何度も聞いたことがあります。そのため上の方のコメントもよくわかります。
現在、ショップではなく一般人向けに鉄系フレームを販売しているメーカーがどのような仕上げで出荷するのか、明示していることはまずないと思いますが、個人的な感覚としては、ここはあまり文句を付けられるところではないかな、という気がします。フェイシングが不要だったらラッキー、くらいの気持ちでいたほうが良いかもしれません。通販で買うなら特にそうですね。
通販でなく路面店で買うのなら、フレームの購入代金にフェイシングやタッピング等の調整代も含まれるのかどうか確認したほうが良いでしょう(売りっぱなしのお店はまずないとは思いますが)。フォークのクラウンレースを乗せる面も、仕上げが必要なことがあります。
私の場合、ネジ穴に塗装が垂れてしまっているのも許容範囲ですが(ただし残念な気持ちにはなりますし、ブランドへの信頼度も下がる)、個々人によって受け取り方は違うでしょう。これまでに自分で組むために購入したスチールフレームでは、全てのネジ穴が完璧な状態だったものは1つもありませんでした(30万円のイタリア製でも、5万円の台湾製でも同じ)。
ちなみにカーボンフレームの場合、BBシェル面もカーボンであればフェイシングは必要ありません。もしカーボンでネジ山のあるパーツの場合、そのネジ山の精度が低かったら自分で整形はできないので、初期不良の可能性を購入店かメーカーに打診しましょう。カーボンではヘッドパーツも圧入式ではないので、ここもフェイシング・リーミングの作業は不要。
チタンフレームで無塗装の場合も、ペイントが垂れないので仕上げが不要なことも多いですね。
やらないほうが良いこと
仕上げが完璧でないBBシェル面でも、ガタが出ないかどうか実際に入れて確かめることはできますが、絶対にやらないほうが良いのは「ネジ山に塗料が垂れていてBBが入っていかない」時に、力づくで無理やりネジこんでいくこと。
この場合、無理に入れようとしてもパーツが微妙に斜めに入っていき、そのまま推し進めるとネジ山が破壊されることがあります。破壊されたネジ山はタッピングで回復できる場合もありますが、それ以前にパーツが固着して取り外せなくなる場合もあります。
これはボトムブラケットに限らず、ダウンチューブのアウターケーブル受け台座(Wレバー台座)のネジ穴、ディスクブレーキ台座のねじ穴、フェンダーやキャリア用アイレットも同じです。
ほんの少しの塗装であれば、慎重にやればなんとか入っていくパーツもありますが、細いボルトなどは固着した場合に戻そうとすると破断してしまい、取り出せなくなる場合があります。
自分で全てを組まない方でも、スチールのグラベル完成車を買った場合など、キャリア用アイレットのネジ山がきれいでない場合は、購入店に相談するか(これについては購入店がやるべき仕事だと思います)、タップと呼ばれる工具で自分で溝を整形する必要があります。
フェイシングについては、ディスクブレーキ台座の場合は精度が悪すぎるとキャリパーの固定角度が変わってしまうため、ローターが擦る原因になったりもします。スチールの完成車でディスクブレーキの調子が悪い場合はマウント部の仕上げを確認し、必要なら面取りすると改善する場合もあります。お店で買ったバイクなら、まずお店に持っていくと良いでしょう。