世界で最も人気のある(と呼んでも過言ではない)オフロード系YouTubeチャンネルのBerm Peak(旧Seth’s Bike Hacks)が、昨年発表されてやや物議を醸したCanyonの「ハンドルセルフセンタリング」的なシステム「K.I.S.(=Keep It Stable)」を実際に使ってみた感想をアップしています。動画ならではのわかりやすさで、興味のある方にはおすすめです。
▼ K.I.S.については2022年10月にこの記事で紹介しています
Seth氏の動画の概要としては、K.I.S.は細かいところまで観察し、実際に使ってみてはじめてその真価がわかるもの。
自転車のハンドルはそもそもフォークオフセットとヘッドアングルによって勝手にセンターに戻ってくるようになっているが、K.I.S.にはバイクのジオメトリー自体に手を加えることなく、そのセンタリング効果を増強する働きがある。
製品発表時は多くの人がK.I.S.とステアリングダンパーとの類似点を指摘したものの、高周波振動をカットする機能はなく、ハンドルをただ真っ直ぐにしてくれるだけであり、ダンパーではない。
スプリング強度は調整可能で、「ミドル」くらいにするといい感じ。しかし最強設定にするとバイクが扱いづらくなり、Seth氏は「慣れの問題かどうかはわからないが、最強設定は好きじゃない」とのこと。
ゴツゴツのダウンヒルセクションで特に安定感は出るものの、平地のライドで使った場合はちょっとうざったい(特にバネを強くした時)。エンデューロやダウンヒルレースでない限り、ミドル設定で使う人が多くなるのではないか。ミドルの少しだけ上、60%くらいがSeth氏にとっては好みのセッティング。するとペダリング中はK.I.S.の存在に気付かないが、ダウンヒル中には効いているのがわかる。ハンドルを曲げる時には抵抗感があるから、もちろんK.I.S.の存在は感じられる。
面白いのは、普通のバイクではハンドルを切ってもリアの挙動には大きく影響しない。しかしK.I.S.ではバイクのフロントとリアがスプリングで接続されているので、ハンドルを切るとそれに合わせてリアもスイングするところ。その結果ターン・位置取りがしやすくなるという人が多く、Canyonのエンジニア曰くそれがK.I.S.の主な恩恵。これはステアリングの安定性よりもはるかに大きいメリットだ、とSeth氏は語ります。
▼ 動画の5:06からこの点について解説があります
K.I.S.はSyntaceがもともと開発したシステムと同じで、Canyonのエンジニアがそれに気付いてSyntaceからライセンスを取得してCanyonバージョンを作った。1年以内には他社もこのシステムをライセンスできるようになるため、他ブランドのバイクにも搭載される可能性がある(K.I.S.という名前にはならないとしても)。
クラッシュした場合にハンドルのアライメントが狂うことがある。その時は小さいポートからカムリングにアクセスしてボルトを回すと調整可能。しかしハンドルを(トップチューブ上の)ラインと完全に平行になるまで回して離すと工具なしでも元通りになるのでこれはいい、とのこと。
フロントホイールがまっすぐ前を向いたままになるから、長身でないSeth氏でもバイクのリアだけ持って壁のラックにひっかけるのも簡単だそうです。ルーフラックに乗せやすくなりそうだな、というジョークを見たが冗談ではなく本当にそうだ。
重量増になる、メンテナンスの必要が出てくる、壊れるパーツがまたひとつ増えただけだ。という批判の声があるのは知っている。問題はメリットがデメリットを上回るかどうかだろう。システムの実測重量は実際のところ98gで、この世の終わりだという重さではないし、Canyonによれば一応メンテナンスフリーということになっている。実際は若干のメンテナンスが発生するのかもしれないし、何か壊れる可能性もなくはないが、メリットは大きいと思う、とSeth氏。
いま自分の持っているトレイルバイクを捨ててK.I.S.搭載のCanyonバイクに乗り換えるかというと、そこまでは思わないが、クールだと思う。バッテリーのないイノベーションだから多くのブランドのバイクに搭載されるかもしれない。2年後にこれが静かに消えているのか、トレイルバイクで普及しているのかが見物だ。他社が追随するかどうかはまだわからない。
動画の全体的なトーンとしては、大絶賛しているわけではないものの、これ全然要らない子じゃん、というものでもなく、見ていてバイクのリアの挙動に大きい影響を与えているところが個人的には「へぇ〜、面白そう!」と思いました。
普及するのかどうかはやはり待ってみないとわかりませんが、K.I.S.自体が壊れてもバイクが操作不能になるわけではないので、ドロッパーポストほどの定番にはならないとしても、アドオン・オプション的なデバイスとして流行る気がしないでもないですね。