MTBerの方にとってはごく常識的な話題かもしれませんが、近年はグラベルバイクなどでオフロード走行をはじめた方も増えてきていると思うので、トレイル(山間部での非舗装路)でハイカーに遭遇した時はどのように振る舞うのが正解なのか、についてあらためて考えてみたいと思います。
この記事では米国における考え方をご紹介しますが、基本的な考え方は日本でも同じと言えるでしょう。欧米では馬・騎乗者(equestrians)によるトレイル利用も珍しくないため、序列的には「馬 > ハイカー > サイクリスト」となるのですが、サイクリストが最も低層に位置し、他者に対して最も配慮を払うべき存在であるという点は同じです。
バイカーはハイカーに道を譲るのが大原則
米国における権威的な情報を2つご紹介します。1つめはアウトドア用品店のREI(Recreational Equipment, Inc.)のサイトに記載されているものです。
出典 Trail Etiquette: Who Has the Right of Way? – Uncommon Path – An REI Co-op Publication
- マウンテンバイカーはハイカーの脚よりも機動性がより高いと考えられるため、バイカーは一般的にトレイル上ではハイカーに道を譲ることが求められます
- しかしこのようなマウンテンバイカーはしばしば、ハイカーの脚よりもはるかに速く動くため、ハイカーが道を譲るほうが普通は簡単です。特にマウンテンバイカーがきつい傾斜をゼーゼー言いながら登っている時はそうです
- しかしバイカーのほうは、ハイカーが道を譲ってくれると期待しては絶対にいけません
- マウンテンバイカーのほうが速いため、ハイカーは共有トレイル上での周囲の状況にも注意を払う必要があります。良心的なマウンテンバイカーは、険しい道を下ってくる時やブラインド・スイッチバックでは大きく声をかけ、他のバイカーが後続しているかどうかもハイカーに知らせるべきです
道の優先権(the right of way)があるのは自転車乗りではなくハイカー、というのがまず大原則(馬がいたら馬。なぜならいちばん驚かせてしまいやすいから)。その上で、ここには書かれていませんが一般的には「登ってくる人」に道の優先権があるという考え方が基本です(理由は、登ってくるほうが一度止まると運動再開が難しい、という意見が多いため)。
しかし「バイカー vs. ハイカー」の場合、仮に自分が登っている側であってもハイカーを優先すべきである、という原則を知っておくのが大事ですね。たまたま歩行者である相手のほうが立ち止まってくれたとしても、それは決して「当たり前」のことではないので「ありがとうございます」と感謝すべきだろう、とは私も思います。
過剰なまでにフレンドリーにし、言葉は多く
2つめは”trailetiquette.org”というワーキンググループによる「マウンテンバイカーはどんな事態を予期すべきか」という項目から。これらはいずれも海外掲示板では、「トレイル上の基本的なエチケット」を説明する際によく言及されるページです。
出典 Trail Etiquette – A users guide to non-motorized trails.
- トレイルの利用者を驚かせないようにしましょう。速く動くバイクは他人を驚かせます。特にブラインド・ターンや背後からの接近時に相手をびっくりさせます
- マウンテンバイカーはハイカー、馬、そして坂を登ってくるサイクリストに対して道を譲るべきです。他のトレイル利用者のまわりでは速度を落とし、ブラインド・ターンでは人間やその他の動物がいないかどうか予測します。他の人を驚かせないよう、ベルを使うことを考えましょう。過剰なまでに友好的にふるまい、過剰なまでのコミュニケーションを取りましょう。広めのトレイルや防火道路では右に寄りましょう(※筆者注:アメリカなので右となっています)。常にコントロールを維持できるライドをし、スキッド(タイヤのスライド)は避けましょう。他人は絶対にリスクにさらしてはいけません
- ハイカーのそばを通る時は、友好的に「こんにちは」や「おはようございます」と挨拶しましょう
- ハイカーと同じ速度まで減速しましょう
- 追い抜く時はゆっくり、必要なら停車する用意をします。他人にとっての安全感覚や、丁寧なスピードというものはあなたの基準とは違う場合があります。もし相手があなたに道を譲ってくれたら、感謝を伝えましょう
このページで良いなと個人的に思ったのは「過剰なまでに友好的にふるまい、過剰なまでのコミュニケーションを取る」というところ。相手がこちらを快く思っていないことがわかっても、挨拶は不要かなと思っても、必要以上に友好的・コミュニカティブであることで事故のリスクだけでなく相手が抱くかもしれない不快感を軽減できると思います。
トレイルでの自転車は交通強者
クルマが走る道路では、交通強者であるクルマはサイクリストに配慮すべきである、と私達が考えるなら、トレイルではモーターサイクルと並んで交通強者であるサイクリストが交通弱者であるハイカーや動物に対して大きい配慮を払うべきである、という考え方に異論を持つ人は多くないでしょう。
自転車の走行が認められている多目的・共有トレイルであれば、自転車も走る権利はあります。しかし「走る権利がある」=「他の利用者を驚かせて良い権利がある」ではないですね。
自転車の利用が明示されていないようなグレーなトレイルでは勿論ですが、グラベルバイクで走るような林道もハイカーが山へのアプローチに使っていることも多いため、気をつけたほうが良いでしょう。
私の体験談をひとつ挙げると、狭山湖の林道(東京都)でバードウォッチングをしているハイカーさんにちょっと睨まれたことがあります。カーブを曲がったら歩いておられて、礫を巻き上げるタイヤの音に驚いたのだと思います(スピードは出していなくても結構な音がする)。スピード以外に音も配慮したほうが良いと思います。
最後に付け加えておくと、ハイカーを避けて侵入したところが植生回復のために保護されている区域だったりすることもあるので、植物へのダメージも考えておきたいところです。
まとめ
- 馬(動物) > ハイカー > サイクリストの順で考える
- 登ってくるほうに基本的に優先権がある
- しかしサイクリストの場合は自分が登っている時でもハイカーに優先権があると考える
- ハイカー(や動物)の近くでは減速し、距離を取り、驚かせない
- 必要以上にフレンドリーに、必要以上に情報を伝えるようにする(話しかけることは動物に対しても自分が脅威ではないことを知らせる効果がある)
- 先の見えないカーブでは自分の存在を知らせるように務める