よく適正なクランク長は身長の10分の1を目安にするといい、などと聞いたことはありませんか。どこで聞いたかは覚えていませんが、私もそう聞いたことがあります。でも、それは本当に目安になるのか。何か根拠があるのか。身長170cmの日本人サイクリストが170mmのクランクを使用しているのは、確かに珍しくないですよね。身長の10分の1。
なら身長180cmの人は、180mmのクランクを使うことが多いのか。
身長の10分の1という目安は通用するの?
CBNにGlenGouldさんが投稿してくださったSuginoの「クランク長さ適応表」レビューには、スギノ社が身長ごとに推奨しているクランク長テーブルと、そこからGlennGouldさんが作成されたこんな見やすい図表が入っています。スギノの場合、160cmの方には160〜167.5mmクランク。170cmの方には167.5〜172.5mmクランク。180cmの方には172.5〜175mmクランクを推奨しているようです。
GlennGouldさんのレビューにはこう書かれています。これは面白い、と思いました。
左側に並ぶ3つの青○は、実は原点を通過する直線に非常に近い直線上に乗っているので、人間と自転車の大きさを相似形で変化させた場合に設定されるクランク長さに対応しています。この考え方はある意味、理解しやすいものです。一方で、6つの赤い●は、原点からかなり離れた直線に乗っており、身長の増大に対するクランク長さの増大に一定の抑制がかかっています。
身長が伸びれば伸びた分だけ、推奨クランク長も同じ比率で伸びているかというと、そうはなっていませんよね。180cmの人で、推奨値が172.5〜175mm(スギノの場合)。身長の10分の1より、ちょっと小さい数字。5〜7.5mmくらい小さい。
ちなみに身長177.5cmの方が177.5mmの、180cmの方が180mmのクランクを使いたければ、カンパもシマノもフラッグシップにはその長さのものが用意されてはいます。
ただその長さのクランクを使うとしたら、フレームによってはBB位置を上げないと、路面とのクリアランスの問題が出てくる場合があるはず。コーナーリングの時とか。実際に180mmクランクを使っている人は、ちょっと聞いたことがありません。皆さんの周りにはいますか?
氏のレビュー内容と少し話がそれますが、「身長の10分の1(10%)を目安にする」というのは、身長170cm前後の人にとってはわかりやすくて有効かもしれないけれど、それ以外の方にはあまり有効じゃないんじゃないか。
有名プロロード選手の身長と、使用しているクランク長は?
ここで有名プロロード選手の身長と、使用しているクランク長を観察してみましょう。選手は上から身長順に並べてあります。これね、面白いですよ。いくつか気付くことがあります。
身長 | クランク長 | 比率 | |
ブラッドリー・ウィギンス | 190cm | 177.5mm | 9.3% |
ファビアン・カンチェラーラ | 186cm | 175mm | 9.4% |
ペーター・サガン | 184cm | 172.5mm | 9.4% |
ランス・アームストロング | 177cm | 175mm | 9.9% |
アルベルト・コンタドール | 176cm | 172.5mm | 9.8% |
マーク・カヴェンディッシュ | 175cm | 170mm | 9.7% |
ナイロ・キンタナ | 167cm | 172.5mm | 10.3% |
まずぱっと見て、キンタナのクランク長の数字がおかしいw 彼だけ自分の身長の10分の1より長いサイズのクランクを使っています。ちなみに彼はヒルクライムが得意な選手。勿論、これは「身長と股下と足の長さの比率」がみんな同じであると考えた場合は不思議な数字であって、キンタナの脚や足が異様に長かったら別におかしくなかったりします。
スプリンターのカヴェンディッシュは、この表の中ではいちばん短いクランクを使っています。一般的に、クランクが長ければ出力が上がると言われていて、ヒルクライマーは長めのクランクを使うことがあり、ハイ・ケイデンスのライダーは短めのクランクを使う傾向があると思います。ランスはヒルクライムも優秀でしたが、ハイ・ケイデンスで走る男でした。
上のテーブルを見ていると、いろいろな納得感があります。ただし「身長の10分の1」という人はまったくいないですね。ランスはかなり近いけど。
日本人成人男性の平均身長は、2015年くらいのデータによると170〜171cmくらいらしい。そして170cmの方が選択すると思われるサイズの完成車に付属しているクランクは、まず170mm。これ、165cmくらいにしたほうがいいんじゃないかと思わされます。
ちなみにBikeDynamicsというサイトの記事によると、イギリスで販売されている完成車付属のクランクは、172.5mmが多いんだそうです。そしてイギリス人成人男性の平均身長は、177.8cm。これは9.7%という比率。上のライダーでいうとカヴェンディッシュがこの比率。
この比率を保ったまま身長170cmの人のクランクを考えると、165mmという数字が出てくる。別にUKの数字が良いというわけではないですが、この「身長の9.7%長」は「身長の10分の1」よりいい感じの数字のように思えます。それにしても、キンタナのクランク長は不思議ですね(笑)。
身長以外に考慮しないといけない要素は?
さて、ここまで身長、身長と身長の話ばかりしてきましたが、身長だけで考えるのは乱暴なわけです。身長を目安にして語れるのは、股下や足(foot)の長さが同じ比率で変化する、と推定した場合です。そのため、身長160cmの方で靴のサイズが27cm、というようなデカ足の方の場合、「身長のX%」のような目安はあまり役に立たないでしょう。
さらに、足首の柔軟性の違いによってペダリングも変わるし、ハムストリングスや大殿筋の柔軟性によっても使える脚の長さが変わってくるじゃないですか。こういう個人差を考慮する必要があるので、最終的には「人それぞれ」の数字になるのですが…
みんなのクランクの長さは?
CBNのTwitterのフォロワーさんに、主に使用しているクランクの長さについて聞いてみました。これは予想通り170mmが最多です。予想通り、というのは、日本人成人男性の平均身長とされる170cmの10分の1に近い数字だし、かつかなり多くの完成車で使われているサイズだから。日本人は、170mmを使う人が多いに違いない。きっとそうだ。
【CBNアンケート】皆さんが主に使っているクランクの長さを教えて下さい!
— CBN (@cbnanashi) November 2, 2018
しかし「170mmのクランクを使っている」と回答された方々は、身長はどのくらいなのでしょうか。みんな170cmくらいなのか。そんなことはなかった… 170cm以下の方で、170mmのクランクを使っている割合は、36%くらい。
【CBNアンケート】170mmクランクを愛用中の方にお聞きします。身長を教えて下さい!
— CBN (@cbnanashi) November 2, 2018
これは、結構多いなと思います。もしかするとその方々はヒルクライマーなのか。あるいは股下が長いのか。キンタナの影響を受けているのか。デカ足なのか。それとも、なんとなく、なのか。いずれにしても、これは「特異」と言って良い傾向なのではないでしょうか。