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リム破断についてのENVEの説明はどこがまずかったのか。そしてどんな回答が正解だったのか?

先日、ENVEのE-MTB用リムがPinkbikeのインプレ中に破損して話題になった件を下の記事で紹介しました。

参考 ENVEのMTBリムがテスト中に立て続けに破断。同社からの釈明にも批判の声

その中でENVE責任者による釈明に批判が寄せられた件についても触れました。読んでいて私も違和感があったのですが、欧米の方々もENVEの説明には大きい不満を持ったようです。

ENVE M730E ©ENVE

では、一体ENVE側の説明の何がまずかったのでしょうか。そしてどのような言葉・対応だったらユーザーは納得したのか。この記事ではその点を考察してみます。

責任者による釈明全文

まずあらためてENVE側の釈明を再掲します。

ポール(記事執筆者の名前)、この件についてコメントする機会を与えてくれてありがとう。

ENVE側で発生した問題については責任があると考えていますし、このレビューに含まれているいくつかの見解や主張について、明確な説明と、異なる視点を付け加えたく思います。

まずENVE製品で何かがうまくいかなかった時に、我々の製品の価格を根拠とする「完璧さ」に関するある種の考え方が頻繁に持ち上がります。

はっきり言いましょう、完璧さというのは、神話です。ENVEにとってそれは確かにゴールです、しかし我々は決して自分たちが完璧であると主張したことはありません。反対に、我々は日々あらゆる点においてベターになるよう努力しています。

しかしそれは長い道のりであり、我々はうわべだけの詰め物や塗装によって自社製品の不完全さを隠すようなことはしません。

そのため、我々の品質管理チームにはより多くの責任が課せられているのですが、彼らは人間であり、人間は時に間違いを犯します。

ポールはファイバー繊維が飛び出たリム、不完全に穴があけられたリムを受け取って当然だったのでしょうか? 全然そんなことはありません。我々は間違いを犯した時、責任を取りますしカスタマーを質問攻めにすることなくケアします。

ENVEの長期的な保証体制とカスタマーサポートの高い評価によって、メーカー各社はカーボンホイール市場にアグレッシブな生涯保証を導入することを強いられることになりました。

ある製品が一定の距離の中でダメージを受けた、あるいは破損した場合、それは長い時間をかけて最終的に破損したり消耗したりする製品よりも悪い、という考え方があります。

カーボンは疲労しません。もしある製品が最初のライドで破損し、他の製品が10回目や100回目のライドで破損したからと言って、それは必ずしも早い段階で壊れた製品のほうが劣っていることを意味しません。

クルマの新車に乗って駐車場を出て、はじめて道に停める時に破壊してしまうこともあります。ここで問題になっているのは、このE-MTB専用設計のM735ホイールのテスターはこの製品の能力を超えてしまったということです、しかしこれは我々のカスタマーが経験していることではありません。

私が次にポールに提案できるのは、我々のワールドカップDHチームがレースで使用しているM9シリーズホイールにグレードアップすることでしょう。

ポールのようなライダーがE-MTBでこの製品を使う際の要求に応えるために、我々はもっとやることがあるでしょうか? あります、ENVEはベストであり続けることにコミットしています。

この製品は彼のテストをパスしなかったにせよ、E-MTBライダーにとってのパフォーマンスと活動範囲を改善するために限界を押し広げているのです。

M7ホイールのE-MTB以外への適用については、我々のプロテクティブ・リムストリップ・テクノロジーは素晴らしいものです。ストリップの装着時に注意しないと裂けることもありますが、前例のないプロテクションを提供しており、これを導入して以来、旧型のM70と新型のM7とでは保証カバー率が3%から1%に減ったのです。

最後に、価格のことについて。このレビューでテストされたホイールセットはクリスキングハブを使用した専用設計です。このクリスキングのハブはE-MTBで使用するための耐久試験・信頼性要件をクリアするためにE-MTB専用設計となっています。

これらのハブは安価ではなく、ホイールセットの価格を現在の価格にまで押し上げてしまいます。我々はENVEホイールをより多くの人々が買いやすくなるよう模索しています。

その証拠として、我々のMシリーズにI9ハブを使用することによってMシリーズの価格は$2550にまで抑えることができました。これは過去の価格より10%安くなっています。

ポールとPinkbikeに、我々の見解を共有する機会を与えてくれたことを感謝します。

– Jake Pantone, プロダクト・アンド・コンシューマーエクスペリエンス・バイスプレジデント

どんな問題点があるか

上のENVEによる釈明が多くのユーザーから批判を浴びているのは、次のような理由からではないかと思いました。

明確な謝罪がない

洋の東西を問わず最近の世の中ではちょっとでも謝罪したりすると徹底的に叩かれることがあるのでわからないではないですが、ENVE責任者の上のメッセージにも明確な謝罪はありません。”owning the mistakes”という表現はあるけれど、ソーリーやアポロジャイズという単語はゼロ。ここは一言謝っておいたほうが良かったのではないかという気がします。

期待値のズレ

ENVEが考えている自社製品の品質水準と、消費者が求めている水準に乖離があるように感じます。

「完璧な製品も、完璧な人間もいない」というENVE側の主張、これ自体は事実ではあるのですが、消費者がENVEに求めている品質水準はこの担当者が考えているよりもずっと高いようです。3000ドル以上するホイールなら、リム穴からカーボン繊維が飛び出していてほしくない。リム穴もセンターがずれていてはいけないだろう。そういう意見を多く目にしました。

責任の転嫁(他人のせいにする)

しかしENVEホイールの価格が高いのは、使われているChris Kingハブが高いからなのだ、とENVEは説明しています。この点を「値段の高さをクリスキングのせいにしている」と受け取った読者も少なくなかったようです。人のせいにするな、というわけです。

さらに上のメッセージには別の種類の責任転嫁らしき内容もあります。それは

クルマの新車に乗って駐車場を出て、はじめて道に停める時に破壊してしまうこともあります

という箇所。何を言いたいのかやや不明瞭な箇所で、製品の初期不良はどんな製品にもある、ということを言おうとしているのかもしれませんが、この部分を「ユーザーによる誤った操作・使用を示唆している」と受け取った読者がPinkbikeの元記事の読者にはいました。

新車をショールームから走らせてすぐに壊してしまうのはユーザーエラーがほとんどだろう、つまり使用者が悪いと言っているんだ、という意見がありました。実際にENVE責任者がそういうことを言おうとしたのかどうか不明ですが、そう受け取ってしまった人がいるのは事実。

さらに「DHチームがレースで使用しているM9シリーズホイールにグレードアップすること」を提案しているのも、暗に「テストライダーはENVEが想定している状況よりも高い負荷で使用した」と示唆しているのではないか、と考えた読者もいました。

また、リムがどのように破損したのかを十分に調査していない段階で上のメッセージを発したように見えるのですが、そうであれば使用者や使用状況に問題があったのではないかとも取れてしまう言い方をするのはマイナスポイントでしょう。

なぜ最も良い状態の製品を送付しなかったのか?

次に文章自体の問題ではないのですが、テスト用に送付した製品が2回連続して破断したあとに再度リムを送付するのなら、より厳しくチェックした製品を送るべきだったのではないか、という疑問があります。2回壊れた後に届いた3つ目のリムは、最初の2つよりも仕上げの品質が悪いものだったのです。

これを好意的に考えるなら、QC(品質管理)をパスしたあるロットの中から無作為に抽出した製品を送っている、という意味で、消費者が受け取るホイールに近い。つまりメディア向けに特別に良い製品を送っていない。

その意味で公正な感じもしないではないのですが、文章中に述べられているように不良率が1%であれば、100セットのホイール中1セットは不良品が入る確率があります。

ここはマーケティング的には選りすぐりの製品を送るのが正解ではなかったのだろうかと個人的には思います。目的は製品のレビューであって、不良発生率の調査や補償制度の充実ぶりをお知らせすることではなかったはずです。

しかも皮肉なことに、これではENVEホイールの不良率が実は1%どころではないのでは、という疑念を抱かせる結果も招いたのではないか。

どんな説明だったら良かったんだろう?

ではどんな説明だったら良かったのでしょうか。元記事には次にようなコメントが寄せられていました。

彼はこう言えばよかったんだ。「ポール、申し訳ない。これらの品質上の問題については全く弁解の余地はない。我々は根本原因を十全に調査・特定するつもりです。問題が解決次第、もう大丈夫と判断できたら新しいテスト用ホイールを送付します。それまでのあいだ、(※より丈夫な)このM90ホイールセットを使ってみてください。あなたのライディングにはこのホイールのほうが向いていると思ってくれるといいのですが」。

これは読んでいて模範解答に近いというか、納得だなぁと思いました。

問題の原因もきちんと特定できていないのに、輸送中に問題があったのではないか、組付けに問題があったのではないか、テープを巻かずにぶつけたのではないか、ウルトラハードな乗り方をしたのではないか… と言うのは、やっぱりちょっとおかしいなと私も思います。

ENVEの品質、実際はどうなのか

今回の件でENVEの信用はかなり落ちてしまったようで、どこを見てもENVEを擁護する声は非常に少ない印象を受けました。かわりにSanta Cruz, WeAreOne, DT Swissを推す声が多かったのも印象的でした。特に最初の2ブランドは支持者が多いらしく参考になりました。

ところでENVEは2016年、Mavicの親会社であるアメアスポーツに約5,000万ドルで買収されています。しかしMavicとENVEの製造ラインは無関係で独立しているとのこと。

アメアスポーツによる買収後にコストカットの施策が入り、その結果ENVE製品の品質が悪くなったのではないかという推測も目にしましたが、一方でENVEのDHホイールは買収前の2013年のPinkbikeのインプレ中に破断したという過去もあります。

全く問題なく使えているよ、という擁護的な主張も皆無ではありませんが、元記事のコメントやRedditの投稿を読んでいるとENVE製品の品質については懐疑的な声が圧倒的多数であるように感じます。

同社は今後イメージ回復のために何か手を打ってくるのか。注目したいところです。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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