人様にお出しするような料理を作ろうとする時にはたぶんレシピ片手にスーパーに行き目指す料理の食材を揃える事が多いと思います。
対して、とりあえず何か飯でも作ろうか?という時には冷蔵庫の残り物をざっと調べてレパートリーの中から出来そうなものを考え、足りないものは誤魔化して適当に作る事の方が多いでしょう。
今回はその適当、かついい加減な自転車を組むお話をします。
いい加減 = 手を抜きすぎずかつ無駄に凝って労力と時間を虚しく捨てない肩の力の抜けたさじ加減の事
シングルスピードでも作ろうか
自転車工具とパーツで溢れてきた押し入れを整理しようとダンボール箱にしまってあったパーツを引っ張り出してみると、売り物にならないけど捨てるには惜しい物ばかり出てきました(単にガラクタというやつです)。
そして並べてみてほぼ1台分揃ってると分かったが最後、1台作りたくなってフレームを物色しだす有様です(なにしろガラクタ市好きには物色というか漁るプロセスにたまらなく充実感を覚えるのです)。
さて、これを使ってシングルスピードバイクを組もうと思いました。
シングルスピードバイクといってもSSMTB(シングルスピードMTB)のような山の強者が駆るバイクやピストクリテリウムバイクのような超ハイレベルなものではなく、有り合わせのパーツや安価に入手できる一昔前のパーツを使って出来る物という、カゴや荷台を付けてもいい感じの普段着で乗れそうなフラットペダルやフリーコグの付いたシングルスピードバイクです。
今回は有り合わせのパーツに合わせてフレームを選んでみましたが、バイクはフレームが主体なのでまずフレームを決めてからホイールやクランク等のパーツを選択していくというのが一般的です、そこでフレームに合わせてパーツを選ぶ際の留意点を「ホイールの選択」「ブレーキの選択」「その他のパーツ」に分けて説明してみます。
(26インチMTBも楽しいのですが今回はピスト風やロードバイクフレームに限定しての私の守備範囲であるところの数千円以内で入手できる一昔前のパーツについての事なのでその点ご容赦願います)
ホイールの選択
まず最初に使うフレームに適応するホイールサイズを調べますが、ネットオークション等での安価なものにはホイールサイズがはっきり分からない物が多く、山勘で購入し届いてからサイズを確認することになるケースが多いです。
ただそれなりの価格の商品であれば質問にたいして的確に答えてもらえると思います。
ホイールの見分け方(リムサイズ)
ロードフレームであればほとんどが700cですがトライアスロン等一部のバイクには650cが使われていますし、ブリジストンロードマン等の古い物には27インチであったり同じくブリジストンユーラシアでは650Aだったりしますのでフレームに合わせたホイール選びが必要になります。
余談ですがこの650Aはいわゆるママチャリのタイヤサイズ(26×1-3/8)なのでタイヤからチューブまでホームセンター等で入手可能という旅派の人にはかなりすごい利点があります。
大まかに26インチ, 650A, 650B, 650c, 700c, 27インチの6つに分けてサイズを比較してみました。
()内の数値はホイールのビード径(リム側面内側のタイヤビードが収まる位置)になります。
- MTB等で使われていた26インチ(599mm)
- ママチャリ等の26インチ、650A(590mm)
- ランドナー等に使われている26インチ、650Bともいいます(584mm)
- トライアスロンバイク等に使われていた650c(571mm)
- ロードバイクに使われている700c(622mm)
- 現在のシティサイクルや昔のロードレーサーに使われていた27インチ(630mm)
ホイールの見分け方(ハブサイズ)
フレームの年代によってリアエンドの幅が異なりますが普通安価で手に入れられる物を大まかに分けると3種類です。
- 120mm ピストバイクや5s時代のロードバイク
- 126mm 7sまでのロードバイク
- 130mm 8s以降のロードバイク
鉄フレームの場合、フレームのリアエンド幅とホイールのハブ幅の差が3mm以内であれば何の加工もなく取り付けれますので神経質になる必要はありません。
例としてSurly Cross-Checkのリアエンド幅は132.5mmになっており、130mmのロードホイールも135mmのMTBハブのホイールも装着できるようになっています。
参考 自転車タイプ別・エンド幅(オーバーロックナット寸法)&軸の太さまとめ
ブレーキの選択
取り付けナットの種類
サイドプル等のキャリパーブレーキに限定すると、一昔前の袋ナットで取り付けるタイプと沈頭ナットと呼ばれるスリーブタイプのナットで取り付ける2種類に分けられますのでフレームのブレーキ取り付け穴の種類に合わせて選択します。
沈頭式ナットのフレームに袋ナット式のブレーキを取り付ける場合は沈頭ナットの入るフォークの穴を埋める作業が必要になります。
また、古いナット式のフレームに沈頭ナット式のブレーキを取り付ける場合はブレーキのシャフトをナット式のものに取り替える必要があります。このシャフトの単体販売は無いのでジャンクパーツから捨てずに取り置きしておいてください。
アーチサイズ(リーチ)
ブレーキ取り付け穴からブレーキシューまでの長さです。通常はミドルリーチで間に合いますが、例えば27インチ用のフォークに700cのホイールを装着した場合等はロングリーチのブレーキが必要になったりします。
参考までにダイアコンペBRS101(45mm〜57mm)と BRS202で(57mm〜75mm)です。
また、多少の範囲ならば10mmオフセットされたブレーキシューカートリッジを使う方法もあります。
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その他のパーツ
その他フレームに合わせる必要のあるパーツはシートポストやステム、ボトムブラケット等の小物ですので現物合わせで安いものを購入すると良いと思います。
これらについては組み立ての項でそれぞれのパーツの事に触れてみたいと思います。
それでは押入れのダンボール箱から出てきたパーツ一式を見ていきます。
ハンドル
モンスタークロス マウンテンドロップハンドル クランプ径25.4mm、バー径22.2mm
なんだかプロレス技みたいなネーミングですがドロップタイプで握り径22.2mmは割りと貴重なMTB用です。
ステム
古そうな鉄製としかわかりません、22.2mmスレッド、クランプ径25.4mm
アップライトですがMTB風でもママチャリ風でもない感じが良さげです。
ブレーキレバーとブレーキ
ワインマンのセンタープルブレーキとワインマンダイアコンペのレバー(22.2mmバンド径)
サイドプルと違って上引きのタイプは効きは良くないですが古めかしくてロードらしくない雰囲気が好きです。
クランクとペダル
初期デュラエースクランクPCD130mmとサカエのMTBペダルSAKAE MTP-126
このサカエのペダルは外側のキャップと内側のシールパッキンの所からペダルシャフトのナットを緩めること無くグリースアップが可能というものぐさにはありがたい構造です。
チェーンリングはSEBIKESに付いてた鉄製の厚歯でかなり気に入っています。
サドル
カシマックス。とりあえずこれを使うことにします。
ホイール
林道ピスト(意味合い的には無茶苦茶ですがなんか薄ぼんやりと通じそう)用にAmbrosio excursionリムにフォーミュラートラックハブと星スポーク#15で手組したホイールです。
このアンブロシオ エクスカージョンは価格のわりにアイレット付きでクロモリフレームにもアルミフレームにも似合うデザインが気に入り、ここ数年で10本以上組んでますが組みやすく使いやすいリムです。
フレーム
ざっと見てもてんでバラバラなガラクタばかりですが、さてこれに似合うフレームとはどんなものでしょう?
まあでも悩む必要はありませんね…「リアエンドがトラック又はロードエンドで120mm程度、そして数千円以内の物」で決まりです。
きっとボロボロの古い物でスレッド式コラムにネジ込み式ボトムブラケットの物になるに決まってます。
…昨今のガラクタ市でも嘆かれるようにオークションでも最近は汚いどうしようもないフレームの出品が少なく下層の値段も上がってきてるので掘り出し物狙いのガラクタ愛好家には寂しいところです。
ということでほどなく理想的な訳ありフレームが届きました。
ちなみに購入価格ですが500円です。
注:以下の画像には神経質な方や潔癖性の方には不快な感じを受ける恐れがある物が含まれますので閲覧に注意してください!
シートポストの残骸を抜く
前オーナーが格闘した凄まじい残骸となったシートポスト、これを抜くにはどうするか?
軽度の固着ならば浸透性の良いオイルで気長に作業すれば抜けてくれますが、このようにパイプレンチでも千切れるほどの強固な固着は切って除けるしか無いです。
で結果の方はと言うと、金ノコと三角ヤスリで四方に割を入れて抜こうとしましたが無理でした、もともと引き抜くための掴み代もない状態だったのでさっさと諦め叩き込んで終了です。
スッキリとしないところはありますが惜しいという気はさらさら起こりません、使えればいいのですから、これといって拘る必要はありません。この辺がガラクタの自由さです。
ヘッドパーツの取り外し
いい感じに錆びてます、ヘッドパーツリムバーはOS用しか持っていないのでタガネとハンマーでコツコツ叩いて外します。タガネで叩くと変形や損傷の事を考えると思いますがカップが鉄製なので再使用には問題ありません。
外したパーツは灯油とパーツクリーナーで清掃して再使用に備えておきます。
塗装
錆も味わいとして残しておきたいと思いますが一旦剥離してみましょう。いつものように「ホルツ 剥離剤 ペイントリムーバー」を使います。
あまりきれいに剥離出来ませんでしたが塗装とサビ落としをし下地を整えて塗装するのは手間なのでこのままの状態で錆止めクリアを吹いてフレームは終了にします。
オリジナル塗装をリスペクトして残した?という事で後は錆が成長して行くのを楽しみにしましょう。
組み立て
それではこれらのパーツで組み立てていきましょう。
ヘッドパーツ圧入
ヘッドパーツはホームセンターに売っている某ネジ等でも押し込めますし、ヘッドワン圧入用として使いやすいようにセットにして売っている場合もあります。
この工具で10台以上圧入していますが十分使用に耐えます。
ボトムブラケット取り付け
安物ロードフレームであればたいていBSA68mmという幅68mmのネジ切りハンガーなのであとはクランクに合わせてボトムブラケットの軸長を決めます。
今回は103mm、110mm、118mmを試してチェーンラインが45mm程度になった110mmのカートリッジBBを使用しました。
ヘッドパーツやボトムブラケット、シートポスト等のフレームへの装着には「パークツールASC1 焼付き防止剤」を使っています。
グリースでも良いのでしょうが油が抜けると固形成分だけになってしまうので長期間の使用などにも安心なこの製品をつかっています、チューブ一本で何十台もバイクが組めますので割高感はありません。
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ホイールの取り付け
フレームが曲がっていない限りは特に問題になるようなこともありませんが、うっかりしてフレームのエンド幅とハブ軸長が合わない場合もあります。
今回はエンド幅126mmのフレームに120mmのピストハブを付けますので3mmm程度になるようにワッシャーを挟みます。
ブレーキの取り付け
フレーム側が沈頭ナット式だったのでナット式のセンタープルブレーキに合うようスペーサーを入れます。
ブレーキシャフトの直径は6mmですが枕頭ナットの外径は8mmなので先出のリム用米仏変換アダプターを入れて隙間を埋めます。
ハンドルの取り付け
フレームのスレッドコラム内径は22.2mmなので22.2mm用のステムを使います。
またハンドルバーのセンター外径が25.4mmなのでステム側も同じ寸法であることを確認しておきます。
もしステムとハンドルのクランプ径が合わない場合もステムのクランプ径はだいたい25.4mm、26.0mm、31.8mmなのでそれぞれの取り付けシムが販売されています。22.2mm→25.4mm、25.4mm→26.0mm、26.0mm→31.8mm等たくさんありますので心配無用です。
ブレーキレバーの取り付け
ブレーキレバーのクランプが22.2mm用なのでそのまま使えました。
もし23.8mm等の場合はクランプだけ別売りされているので交換するだけで大丈夫です。
レバーの位置が決まったらコットンバーテープを巻いていきます。
ワイヤーの取り付け
古い自転車はブレーキワイヤーのアウターケーブルはハンドルに巻き込まずにビロ~ンと上に出ています。
なんだか邪魔なようですがステム調整やアウターの交換などがとても簡単に出来ますし、なによりブレーキレバーの引きが軽いです。
たしかその昔エアロが流行した時に(もちろんクロモリフレーム時代です)アウターもバーテープに巻き込むようになっていったようです。
今回使用するワインマンはセンタープルのブレーキなのでアウターケーブルを受ける金具を付けますが、ブレーキにもレバーにもワイヤー調整の機能が無いので DIA COMPE Flexie というフレキシブルなアジャスターを付けておきます。
シートポストの取り付け
フレームの内径が26.8〜27.0mmくらいです。(変形していてはっきりわかりませんのでとりあえず26.8mmを購入してもし小さかったらアルミ缶でも切って巻きます)
安くてオーソドックスなデザインのVIVA(ビバ) リッチータイプシートピラーを新たに購入して取り付けました。
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昔のロードバイクフレームはシートクランプではなく直に締め付けるシートピンタイプなのですがここはボルト・ナットで代用しておきます。
さてここまで出来たらギヤ比を決めてリアフリーコグとチェーンリングを取り付け、チェーンを張って終了です。
出来上がりました
出来上がりました! とくとご覧ください。
1インチのトップチューブには22.2mmのか細いハンドルバーが似合います、余り物のコットンバーテープで太くならないように気を使ってみました。
ワインマンのセンタープルブレーキの古めかしい趣と細身の汚いクロモリフレームの組み合わせがなんともいい感じです。
ラグのロウ付け跡と無理やりシートポストを抜こうとしたバーナーによるフレームの溶け具合そして塗装の削り落とし具合が得も言われぬ雰囲気を醸し出しています。
菌糸状に成長している錆の姿がクロモリチューブの景色となっています。これからの錆の成長が楽しめそうです。ブレーキアウターケーブルも余り物で長さが足りなかったのでケーブルアジャスターで継いで使ってあります。
溝付クランクのくすんだアルミ地肌がよく似合っています。さらに鉄板のチェーンリングも塗装を剥いで錆の成長を楽しめるようにしてあります。
バカでかいフリーコグと細身クロモリフレームとのアンバランスさがロードバイクの無理やりなダート化を主張しています。
ロードとしては小さめフレームですが、ダート使用にすると違和感がなくなりました。突き出し30mmの鉄ステムでアップライトなポジションになっています。
やはりマウンテンドロップハンドルは林道で使いやすいです、しかもNITTO RM3のような頼もしさが無いのでかえってゆったりと走る気になります。
後ろからはシングルスピードのシンプルさと細身クロモリフレームの華奢な感じが一度に感じられて好きな角度です。乗ってみた感想は「乗りやすい!ゆっくり景色を観ながら走りたい!いつでも停まって写真を撮ったり休憩したりしたい!」という狙った通りの物でした。
ガラクタ自転車でマインドフルネスの境地へ
はい!どうでしたか? ママチャリを組み立てるよりお財布に優しく自由度が高くてはるかに簡単です、そして楽しみながら暇つぶしが出来てしばらくは乗る楽しみもありますので是非お試しください。
もう一つ!このようなバイクは色々な気苦労が無いという事も安らかなバイクライフに貢献します。
傷や錆や盗難(もしかしたら物好きがいる恐れもありますが)で気を病むのは随分と財布と心の負担だったと気づく事になります。
そう、ガラクタ自転車とは実は色々と気付かせてくれるマインドフルネスな自転車なのです。
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