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TIMEによる「私達はヨーロッパ産」というメッセージを読み解く〜ヨーロッパは広域ではなく局地となりつつある?

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スポーツ自転車産業の未来を読む!(大袈裟)ミニ考察記事です。先日、TIMEがインスタグラムに考えさせられる投稿をしていました。画像には「ヨーロッパでのみ設計・製造される」という文言が見え、その上には欧州旗があしらわれています。これは個人的に少しもやもやした、複雑に思える内容でした。

欧州での製造は簡単でも安価でもない…だと?

画像のキャプションには次のようなメッセージが添えられています。

We’re proud of our European foundations. Our bikes are, and always have been imagined, designed and made solely in Europe. It may not be the easiest or most financially profitable approach but we challenge ourselves to create bikes to the highest possible standards.

私達はヨーロッパに根ざしていることを誇りに思っています。私達のバイクはヨーロッパでのみ構想・デザイン・製造されてきましたし、現在でもそうです。これは最も容易で経済的に収益性の高いアプローチではありませんが、可能な限りの最高品質のバイクを作るために私達は挑戦しています。

長らくフランスでの製造にこだわってきたTIMEは度重なる経営危機とブランドの身売りが続き、2019年にはカーボンフレームの製造を東欧スロバキアに移管しました(ペダル部門についてはSRAMに買収され、先日同社はポルトガルにペダル製造工場を竣工しています)。

SRAMがポルトガルにTIMEペダルの工場をオープン 将来的にはハブやホイールも製造
業績不振でブランドの身売りが続いていたフランスのTIME。下の記事でもお伝えしたように、ペダルについては現在SRAM傘下のブランドとなっています。 そのSRAMがTIMEペダルを生産する工場をポルトガルに開設したそうです。 出典 SRAM ...

上のメッセージから読み取れるのは「私達はもはや純フランス産ブランドではないが、ヨーロッパ発・ヨーロッパ製造であることをブランドのアイデンティティとする」という意思表明です。

しかし「これは最も容易で経済的に収益性の高いアプローチではないが、挑戦を続ける」というくだりを読んでいて「ん?」と微妙な違和感を持ったのでした。

というのも、経営が苦しい企業というものは普通「最も容易で経済的に収益性の高いアプローチを選択する」のが普通だからです。困難でリスクも高い選択は、よほど長期的な戦略がない限り、あえて取る余裕がないでしょう。

TIMEの本音としては「実は現在、欧州での製造が最も容易で、リスクも少なく、経済的にも収益性の高いアプローチなのだが、単に『もうフランス産ではありません』と言うだけだとブランド価値が弱まる。だから『欧州(EU)ブランド』として積極的に売り出していこう」ということなのだと思います。

コロナは「ネガティブな広域化」を「ポジティブな局地化」に転換した説

このメッセージ、見た瞬間は「フランスという限られた地域」から「EUというより広い地域」への基盤の「拡大」であるように思えます。それは事実ではあるのですが、実際に起こりつつあるのは「広域化」ではなく「局地化」ではないでしょうか。それがこの記事で考えてみたかったことでした。

全世界から見た欧州圏をひとつの「局地」として考えると、そこに対置されているのはまず台湾・中国をはじめとする「東アジア」でしょう(※北米も意識されているはずですが、話を簡単にするため本記事では触れずにおきます)。

私達はアジアでは製造しない。設計もしない。ヨーロッパにこだわりつづける。アジアで製造したほうが簡単で利益率も高いが、そうすることはしない。ヨーロッパ産であることに誇りを持ちたいからだ、と。つまりTIMEのインスタ投稿の真の意味は「フランス vs.ヨーロッパ」ではなく「ヨーロッパ vs.それ以外の地域」ではないか。

周知のように、2019年末に発生した世界的なパンデミック以降、アジアでの製造はキャパシティ的にも物流的にも不確定要素が増大し続け、先行きは未だに不透明であるため、現在では「なるべく近所で材料を調達して製造したほうが確実でコストも下げられる」という判断を下しつつあるブランド・メーカーが増えているように思います。

TIMEの場合は事情が少し複雑で、コロナ以前でもフレーム製造をアジアではなく東欧に移行していました。この時点でのTIMEの動きは「製造拠点の単純な広域化」で、純フランス産であることを支持するファンに対しては「若干の後ろめたさ」があったと思います。上のインスタ投稿にも次のようなコメントが見られ、TIMEはフランス産以外ではありえない、という声は多いように見えます。

残念だ、フランス製造であることはTIMEブランドの魂だったし、あらゆる自転車ブランドの中でTIMEを差別化する要素だったのに。

しかし2年の時を経た今、アジアで製造することに大きいリスクがあると判断するブランドが増えつつあり、イタリアのビアンキもカーボンフレームを含む生産拠点をイタリアに移行する計画を発表しています。ビアンキの場合は「イタリア産」であることにこだわろうとしていますが、ここでも本当に注目すべきなのは「アジアからの脱却・欧州への局地化」という大きい動きでしょう。

Bianchiがカーボンフレームを含む生産拠点をイタリアに移行 自転車の価格高騰とアジア撤退の動きは加速するか
イタリアのBianchi(ビアンキ)がカーボンフレームや完成車の生産拠点をアジアからイタリア本国に戻す計画を発表しています。road.cc等が伝えています。 出典 Bianchi invests millions in bringing p...

人気のパワーメーターペダルを製造するFaveroも半導体の調達こそはアジアだとしてもイタリア製造を強調しています。ワイヤレス内装2段変速のベルギーClassfiedも製品の90%はベネルクス三国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)と、以前よりも「アジアに依存しない局地化」の動きが目立ってきたような気がします。

内装2段ワイヤレス変速ハブのClassified Power Shiftが12スピードカセットに対応
ワイヤレスで動作するハブ内装の2段変速システムで昨年話題になったベルギーClassified社のPower Shift。下の2つの記事で紹介しましたが、現行の11スピードカセットに加え、12スピードカセットもリリースされました。Bikeru...

こうした「ヨーロッパへの局地化の動き」は、TIMEがブランド価値を維持するにあたり追い風になるでしょう。2020年以前は「やむなく労働力の安い東欧で製造せざるをえなかった」のが、今では「欧州から出ないほうがコストメリットがある」と考えるブランドが増え、「アジア」を対立軸に置けば「フランス産」でなくとも「ヨーロッパ産」は積極的なブランド価値に転換できる。

かつての「弱み」を今後は「強み」に転換できるかもしれない… と、苦境が続いてきたTIMEにとって「コロナ禍での自転車産業の欧州局地化」は、ブランドイメージの維持・向上にとって「不幸中の幸い」になるのではないでしょうか。これまで若干フワッとしていた「MADE IN EU」は、今後パワフルな記号に変わっていく可能性があるのではないか、というのが今日のミニ考察でした。

 
▼ 完成車やフレームはどのメーカーも納期が2022年だったり2023年だったりしていますが、TIMEはいまのところ納期が早いらしいです。スロヴァキアの工場は順調なのでしょうか。ベラチスポーツにもお買い得品があるのでチェックしてみて下さい。

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マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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