ロード・グラベル・ホイールは
スイスの名店ベラチスポーツで

BELLATI SPORTを見る
よみものサイクリング

冬の低山サイクリングでプチ遭難:小さい誤算が重なり計画通りに行かなかった2021年走り納め

2021年12月末、早朝。北関東の僻地に筆者は愛車を抱え、始発電車でやってきた。予定しているライドは5時間程度、累積標高は800m程度で済むはずであり、のんびり行動しても午後1時には復路の駅に戻れると見込んでいた。だが、実際はそうならなかったーー

低山に至る道

誤算1 給水不足

経験上、水分は1.5Lあれば十分だろうと考えた。駅で3本の水を買い、1本をボトルに入れ、残り2本をバックパックに放り込んで走りはじめる。しかしせいぜい6%平均と想定していた序盤のヒルクライムは、10〜12%で推移した。真冬だというのに、3時間もすると水の残りは500ml。しかも予定走行距離の半分にも達していない。

林道

焦りを覚えたところで、運良く茶屋を発見する。店は無人で閉じている。だが自販機はあり、ライトも灯いている。電子マネーは使えないようだが、問題ない。小銭は必ず携帯している。ポケットに入れた1枚の500円玉を自販機に入れ「いろはす」のボタンを押す(「いろはす」は使い終えたらボトルを潰せるので便利なのだ)。

だが水のボトルは落ちてこない。かわりに落ちてきたのは、自分が入れた500円玉だ。取り出してまた入れてみる。またカランと落ちてくる。持っている小銭は、その500円玉1枚だけだった。普段は100円玉も2枚持っている。この日に限って500円玉1枚だ。

動いているように見える自販機が実際には動いていないというのは、地方ではよくあることだ。これもその類だろう。先にも自販機はあるだろうから、残りの水を大事に飲んでいけば良いだけのことだ。登山者用の水場も、たぶん見つかるだろう。わざわざ1000円札を入れ、お釣りの小銭をジャラジャラさせたくもない。

誤算2 欲張りすぎた遊び

今日はたっぷり時間がある。余裕のあるプランを立てたつもりだ。林道のヒルクライムを楽しんだ後は、何度かバイクを道端に寝かせて植林の中に入る。シカの写真を撮るためだ。その山域では以前にもシカに遭遇している。その時は標準ズームレンズで悔しい思いをしたので、今回は超望遠ズームを持参してきた。

ホンシュウジカ

その日もシカに会えそうな気がしていた。が、だいぶ長い時間張り込んでもシカは姿を現さなかった。気温は3℃くらいだろうか。身体が少し冷えてきたので、私はバイクへと戻り、ふたたび走り出す。

途中、魅力的な岩壁をいくつも見かけた。小さい岩でボルダリングごっこをして遊んでみる。これも計画内のアクティビティだ。このためにフラットペダル、トレランシューズでやってきた。心地良く疲労した後、バイクに戻り先へと進む。自転車、写真、岩登り。なんて楽しい1日だ。

岩壁

誤算3 思い込み

いくつもの小さい峠を経て、その日最大の峠を超えた。家で確認したGoogle Mapのプロフィールでは、その後は大した登り返しもなく、復路の駅まではほぼ下りである。

峠からの眺め

実際は、そうではなかった。残りの峠を通過するまでのアップダウンは、身体に堪えた。左手のスマートウォッチを見ると、時刻はもう12時を過ぎている。予定では既に駅に向かって長くゆるやかなダウンヒルを楽しんでいるはずであり、1時には駅に付くはずだが、どうもそんな気がしない。少なくともあと3つの峠を通過しなくてはならない。

どんなに小さい峠でも、峠と呼ばれるからには、登りと下りで構成されている。Google Mapの斜度プロフィールは、極端な縮小表示だっただめ、この隠れたアップダウンを私は見過ごしていたのだった。

誤算4 真冬の冷気

唐突に腹が減り、この日はじめて食べ物を口に入れた。非常食として携帯しているサラミと、食べかけのチョコレートである。

夏から穀物を摂らない食事法を実践しており、体脂肪だけで1日中動けるようになっている。普段のサイクリングでは、水さえあれば5時間でも6時間でも何も食べずに走り続けられるようになった。休憩自体を楽しむために、カップヌードルPROを食べることはある。だが今日は持ってきていない。サーモスのボトルの代わりに、75-300mmズームがバッグに入っていた。

いつも以上に体温が奪われているようだった。下りで浴び続ける冷たい風に加え、冬の乾燥しきった空気が普段よりも大量の汗を気化して身体を冷やしていたのだ。防寒対策は完璧だったが、シカの写真を撮ろうとして長い時間を停滞して過ごしたり、岩登りごっこをしたことで想定外のカロリーも消費していたに違いない。私の身体は熱生産が追いついていないようだった。

陽が差さなくなった傷んだ坂道を次の峠に向かって登りながら、サラミとチョコレートを食べ、ボトルの残り半分になった水を飲む。最後の峠にたどり着くまで、全て消費してしまってはいけない。8%の坂を登り続ける。喉が渇き続ける。空気の乾燥がひどい。食料は、最悪食べ尽くしても良い。だが水がなくなると困る。頭の中で、黄色信号が灯った。

傷んだ林道

誤算5 圏外

バイクを停め、帰路のルートを確認したほうが良さそうだ。残り何kmなのか。アップダウンはまだ続くか。食堂はありそうか。水場はあるか。ライド中はなるべく使いたくないスマホを取り出し、電源ボタンを押す。途端にバッテリーが残り1%、と表示された。

私のiPhoneはもう何年も前の旧型で、バッテリーが著しく消耗しているからはやくアップルストアで交換しろ、というメッセージが画面に表示されたことがあるのだが、面倒だからそのままにしていた。家を出る時は、満充電にしていた。バッテリーが寿命な上に、気温が低いのでおかしくなっている。まるで私の体調を反映しているようだ。

だが問題ない。Ankerのモバイルバッテリーを持っている。落ち着いてiPhoneに繋ぎ、Google Mapを起動し、現在位置を求める。安堵したのも束の間、今度は「圏外です」と表示された。

誤算6 新500円玉

とにかく先に進むしかない。営業中の茶屋を見かける。うどんか何かを出しているようだ。自販機もある。これで水の確保ができる。朝に別の自販機に入れたものの、カランと戻されてしまった例の500円玉を入れてみる。

するとまたカラン、と落ちてきた。財布から1000円札を取り出し、入れてみると今度は認識された。水を1本買った。残りは5km程度だろう。しかも、下って終わりだ。2本は要らない。食事も、まだいいだろう。

しかし朝に使えなかったこの500円玉は、なぜ今度も使えないのだろう。すり減っているのだろうか。偽造硬貨なのだろうか。以前、500円玉を入れたら隣国の500ウォン硬貨が落ちてきたことがあった。

返却された硬貨を眺めていると、妙にピカピカしている。そうか、先月に発行されたばかりの新500円玉で、機械が認識しないのかもしれない。とにかく札を持ってきて良かった。とはいえ、キャッシュレス生活に慣れきっているために、1000円札は2枚しか持っていない。普段は5000〜1万円程度は持つようにしているが、今朝はATMに寄るのが面倒臭かった。

誤算7 通行止め

日がさらに落ちてきた。先を急ぐ。ようやく最後の林道だ。あとは道なりに下って行けば、駅に着く。しかしそこで私を待っていたのは、通行止めの看板だった。

通行止めの看板

数年前の台風被害で道が傷んでいるらしい。電波が入ったので、スマホでルートを確認する。その林道を経れば、駅までは確かに数kmだ。しかし初めての道をこのまま進んで穴ボコに落っこちて動けなくなったら、どうするか。救急車でも呼ぶのか。それはない。体力も消耗し、集中力も落ちている。迂回するしかない。

下ってしまえばこちらのものだ。迂回路を下ったところで左折しても、予定していた駅にはたどり着く。問題はない。

誤算8 新たなる峠

下りの途中、食堂を見かけた。絶対に何か食べるべきだ、と身体が信号を発している。しかしその時、店のおばさんが駐車場の軽自動車に乗り込みエンジンをかけたところだった。店のカーテンは閉まっている。営業が終わったばかりなのだ。

食事を諦め、下りきって左折した私の目に看板が飛び込む。「◯◯峠」とある。

峠…だと? また登るのだろうか? 何%の坂で、何Kmあるのだろう? 時刻は午後3時を過ぎている。日の入りは4時半頃だろう。ライトは当然装備しているが、問題は体力と集中力だ。最後に買った水も、また半分になっている。しばらく登ってから停車し、もう一度スマホを確認し、当初予定していたものとは別の駅が盆地にあることを知る。ただし、距離は20kmほどあるようだ。

この峠を越えれば駅は遠くないだろう。実は年末最後の遠征ライドのフィナーレとして、地元の名物を食べて帰るつもりで、店も下調べしてある。なのに、なぜ行ったこともない別の駅を目指して15kmも余分に走る必要があるのだろう?

最後の力を振り絞り、その想定外の峠を2kmほど登ってはみたものの、葛藤の末、分岐点まで引き返すことにした。そこに幸い自販機があり、気が付くと缶入りの温かいコーンポタージュを飲み干していた。とうもろこしを身体に入れるのも数ヶ月ぶりだ。

林道の日暮れ

全くリサーチしていない、聞いたこともない名前の村をぼんやりと走っていると、唐突に薬局やコンビニが現れ、駅に出た。なんとか日暮れ前に着いた。予定よりも20km多く走り、3時間余分にかかっていた。累積標高は、倍になっていた。これでパンクでもしていたら、軽く遭難していたかもしれない。

誤算が重なった不思議な1日

誤読した地図。使えなかった硬貨。必要な水分の計算ミス。通じない電波。開いていたのに寄らなかった食堂。寄ろうとして開いていなかった食堂。自分の体力を過信して詰め込みすぎた活動。舐めていた真冬の冷気。無事に帰れたので良かったが、本当なら今年の走り納めとして、最高の1日になるはずだった。シカの写真を撮り、ご当地グルメで優勝するはずだった。

帰宅したらもう寝ることしかできない。今日はやはり外食して帰ろう。電車で2時間揺られて辿り着いた自宅近くの最寄り駅で、たまに訪れるといつも空いている店に向かった。

しかし3軒とも満席である。忘年会で多くの予約が入っているのだという。仕方なく、チェーン店の「日高屋」で肉野菜炒めと麻婆豆腐を食べた。予定していた特別なご当地グルメではなく、どこにでもある日常の食事だった。それはそれでおいしかったのだが、その日の私の失敗を象徴しているかのようで、少し寂しい食事だった…

2021年を振り返って

2021年もCBN Blogをお読みいただき、ありがとうございました。今年前半はコロナの影響で思うように遠方でのサイクリングが出来ず、鬱々とされていた方も多いと思います。私もその1人で、秋口からはタガが外れたように輪行しまくりでした。走り納めはトホホな結果になってしまいましたが、コロナ再流行の兆しを見ると今は走れているだけ幸せなのかもしれない、とも思います。

皆様の走り納めはどんな感じでしたか。また、サイクリングが計画通りに行かなかった体験談・ヒヤッとした経験談などがありましたら、是非Twitter等でご共有ください。来年もCBN Blogを宜しくお願いします。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

マスターをフォローする
CBN Blog
タイトルとURLをコピーしました