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青色LEDとリチウムイオン電池 ~ナイトランの世界に革命をもたらした2大発明~

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ランドナー、キャンピング車など、フロントバッグやサイドバッグを装備した旅行車が少なからぬシェアを占めていた昭和のサイクリング界における前照灯の主流は、ダイナモランプや、懐中電灯でした。

ダイナモランプは、多少の走行負荷増大を伴うとはいえ、平地走行では十分な威力を発揮します。しかし、登坂では一気に暗くなります。

一方の懐中電灯。光源として使われる豆電球は、原理的に効率が悪く、しかも当時、乾電池の容量も大したことがなかった、というわけで、明るいのは最初の1時間だけで、時間を追うごとに着実に暗くなるという代物でした。乾電池の消費量も半端なかった。

しかし、時代は変わりました。

20世紀末に開花した2つの発明、「青色LED」 と 「リチウムイオン電池」(LIB)が、状況を大きく変えてしまいました。日常生活の様々な場面で強烈な変化を誘引し続けるこの2つの発明はそれぞれ、2014年度ノーベル物理学賞と2019年度ノーベル化学賞に輝く、日本人発の成果でもあります。

夜間走行するサイクリストや、山歩きや、夜通しのトレイルランに勤しむような人々は、「軽量ライト」という一点で、その恩恵を存分に受けています。もしかしたらこの数十年で、自転車の世界にもっともインパクトを与えた技術が、青色LEDとLIBなのかも知れません。

もちろん、Bluetoothのような高周波通信デバイスが超小型化されてあらゆるものに実装されるといった技術革新にも目を見張りますが、高周波技術や、超微細実装技術の進化といったものは、ある程度、予測できます。

しかし、青色LEDやLIBというのは、研究者たちが、それこそ七転八倒してついに生み出した、努力と、努力で呼び込んだ運の結晶であり、驚愕の技術だと思うわけです。

この2つの発明を知っておくことは自転車乗りとして必須でしょう。(ってそりゃ言いすぎ!)

というわけで、2つの必須アイテムについて簡単にご紹介したいと思います。

青色LED

なぜ青色LEDなのか

LED(Light Emitting Diode:光を発するダイオード)というのは原理的に、非常に高効率な光源です。かなり以前から赤色のLEDというのは存在し、家電品のパイロットラップなど、さまざまな場所で使われていました。

赤に加えて緑と青があれば、フルカラーのディスプレイ光源として使えますし、白色光源を作ることもできる、ということは、話の上では成り立ちましたが、しかし、光の波長が短い青色というのは実現が非常に困難でした。

青色LEDを何とか実現させたい・・・

この実現を目指してそれこそ世界中の研究者がしのぎを削ってきたのが1980年代から90年代です。青色が光ってしまえば、他の色はエネルギーの高い青色の光で蛍光励起させること可能で、これによって結果的に白色LEDを実現することができます。したがって、青色LEDこそがキーテクノロジーだったというわけです。

LEDの発明者

LEDは米国の研究者ニック・ホロニアックがゼネラル・エレクトリック社に勤務していた1962年に発明しています。この時は、赤色のLEDでした。その後、大学で研究を始めたこの人は、当時すでに、LEDがいずれ電球に置き換わるだろう、と予言していたそうです。つまり、青色LEDの出現を予言していた、ということになります。

なお、この人、直後に半導体レーザー(LEDの親戚)の可視領域発振(発光)に成功しています。ノーベル物理学賞はまだ受賞していませんが、複数回授賞しても誰にも恨まれないような物凄い実績を残していまも存命です。

そして、1962年から約30年後。ついに青色LEDが陽の目を見る日がやってきます。1990年代初め、赤崎勇、天野浩、中村修二ら、日本の研究者の手によって青色LEDが開発されます。

特に、主流研究者たちが捨てた素材「窒化ガリウム」に賭けて勝負に出た中村修二氏(当時日亜化学)の孤軍奮闘、執念は凄まじく、実用化に向けて非常に大きな役割を果たしています。

参考 中村修二 怒りのブレイクスルー 集英社文庫

LEDと電球の違い

人間の眼が感じることができる光の波長には、ある幅があります。これは視感度として表現されます。次のグラフに示すように人間の眼には光の波長で0.55μm(μm:マイクロメータ→1000分の1ミリ)、つまり緑色付近の光が、最も明るく感じられます。

図の下側に虹色の帯が示されますが、この紫色より左側が紫外領域、赤より右側が赤外領域で、人間の眼は、これらの領域で感度を持ちません。

cvrl.orgのデータから作成した人間の眼の視感度特性

cvrl.orgのデータから作成した人間の眼の視感度特性


  
一方で、電球。

電球は、タングステンフィラメントに電流を流すことで加熱して、白熱したフィラメントから光を得ています。この際の光の波長が大問題。次のグラフの黄線が白熱電球の発光強度特性の一例です。先ほどの視感度特性もオレンジ色で追記しています。

energychord.comから引用作成した白熱電球の発光特性

energychord.comから引用作成した白熱電球の発光特性


   
あれれ、オレンジ色の線が左に押しやられています。

というわけでご覧の通り、電球の発光領域というのは、人間の眼の感度特性の波長領域などお構いなしで、長波長側、すなわち赤外側に大きく伸びています。

つまり、電球というのは、頑張って光っても、そのエネルギーの大半が赤外領域に存在していて、人の眼には見えない、という残念な光源なんですねぇ。このグラフを見ると、その残念さ加減の凄まじさに唖然としてしまいます。こんなところにエネルギーを大量に捨て去っているわけです。

何だか、スプレー式チェン用潤滑剤みたいですね。噴いた大半がチェン以外のところに飛んで行って、嗚呼、もったいない・・・。

LEDが低消費電力である理由

しかし、LEDを使うと、この状況が一変します。

次のグラフの青線が青色LEDの波長特性です。比較のため、目の感度(オレンジ点線)と電球の発光特性(黄点線)も載せています。

CREE社の青LEDスペックから引用作成した青色LEDの発光特性

 CREE社の青LEDスペックから引用作成した青色LEDの発光特性

青色LEDの発光領域は本当に(笑)、人の眼に見える青色の領域にドーンと存在しているわけです。したがって、光っている光がすべて見える! ということになります。

白色LEDはこの青色の光をエネルギー源として、波長の長い光を蛍光励起し、ちゃんと視感度の範囲内にそれらの光が収まるように発光しているので、高効率なわけです。

白色LEDの発光波長特性の一例を次に示します。白線が白色LEDの特性で、これは視感度特性(オレンジ線)の範囲にほぼ収まる形で広く分布する特性になっています。この波長特性で、ちゃ~んと白く見えちゃうんですねぇ。

CREE社の白色LEDスペックから引用作成した白色LEDの発光特性

 CREE社の白色LEDスペックから引用作成した白色LEDの発光特性

さて、LEDってどういう構造なの?ということには一切、触れませんでしたが、これは、半導体と呼ばれる分野の話になります。ICやCPU等々、スマホの中に入っているいろんな半導体集積回路の中の、ン千万だかン億(?)の極微素子で使われている半導体にも必須の 「pn接合」 というヤツが発光の舞台となります。その話は少々面倒なので省略!!

あ、それからLED自体はものすごく小さいんですよね。ライトのLEDを見ると、ドーム型をしていたりしますが、あれはモールド兼レンズ。本体は砂粒のような大きさです。高効率とはいえ、小さすぎる割にすごい光量を発するので、それなりに発熱します。熱対策は非常に重要です。

LIB(リチウムイオン電池)

旧来の乾電池とは異なり、LIB(リチウムイオン蓄電池:lithium-ion rechargeable battery)は繰り返しの充電再利用が可能な、いわゆる2次電池です。

リチウムイオン電池

リチウムイオン電池 画像 © Panasonic

家庭用2次電池といえば、古くは、三洋電機のTV CM(昭和!)でもおなじみだったカドニカ電池に代表されるニッケルカドミウム電池(略称ニッカド、NiCd)、そして、もちろん、自動車用として今でも現役の鉛蓄電池があります。小型2次電池としては、ニッカドの次に、ニッケル水素電池(NiMH)が登場し、いまでも現役で広く使われていますが、次に現れたLIBの性能が素晴らしく、ニッケル水素電池が担うはずだった領域を侵食しつつあります。

そもそも電池とはなにか

電池とは、

何らかのエネルギーを元手に、直流の電力を生じさせるもの

です。乾電池であれば、中に入っている物質の化学エネルギーを元手にして、電極に電圧を生じさせ、電球とか、電熱器とか、スマホとかとか、何かをつなげると電流が流れ、結果として電力を取り出すことができます。

次の表は電池をわかりやすく(でもないか?)分類したものです。

電池の分類

化学電池 化学反応によって電気を作る
物理電池 熱や光などの物理エネルギーから電気を作る

化学電池の分類

1次電池 マンガン乾電池
アルカリ乾電池
リチウム電池
2次電池 ニッケルカドミウム蓄電池(NiCd)
鉛蓄電池
ニッケル水素蓄電池(NiMH)
リチウムイオン蓄電池(LIB)

物理電池の分類

光を使う 太陽電池
フォトダイオード
熱を使う 熱電変換(ゼーベック効果)
電池の分類(独断版・・・)

電池は、そのエネルギーの由来から、化学電池と物理電池に大別することができます。

化学電池は普段、「電池」と呼んでいるもの。化学電池には、1次電池と2次電池があり、2次電池は、充電することで何度も使うことができる電池のことです。LIBはもちろん2次電池。他に2次電池は、ニッケルカドミウム(NiCd)、鉛蓄電池、ニッケル水素(NiMH)などがあります。

物理電池には、太陽光を電気に変換する太陽電池などがあります。ところで発光ダイオード(LED)は電流を流すと光りますが、実は、光を当てて電気を取り出すこともできます。これは一般に、フォトダイオードと呼ばれるもので、光センサや光計測、光通信などへの応用があります。このフォトダイオードの原理は、太陽電池の原理にそのままつながっています。

あ、そうそう、デジタルカメラのイメージセンサ(CCDとかCMOS)も、フォトダイオードと同じ原理で光エネルギーを電気エネルギーに変換しています。これも広義の電池といっても悪くはないかも知れません。

LIBと従来電池の違い

次の表に示すように、LIBは従来2次電池と比較して、圧倒的に小型軽量であり、高効率です。また、単電池の端子電圧が3.6Vと高く、使い勝手に優れています。さらに、NiCd電池のようなメモリー効果もほとんどなく、どんな充電残量から充電しても問題ありません。おっと、メモリー効果という言葉はすでに死語かも知れませんね。

各2次電池の評価(※Wikipediaを参考に作成)

鉛蓄電池 NiCd NiHM LIB
質量エネルギー密度(Wh/kg) 30〜40 40〜60 60〜120 100〜243
体積エネルギー密度(Wh/L) 60〜75 50〜150 140〜300 250〜676
出力密度(W/kg) 180 150 250〜1000 250〜340
充放電効率(%) 50〜92 70〜90 66 80〜90
自己放電率(%/月) 3〜20 10 2〜30 8〜31
単電池公称電圧(V) 2.105 1.2 1.2 3.6〜3.8

なお、各評価量が良い場合に得られる 「効果」 を参考までに次の表に記しておきました。

質量エネルギー密度(Wh/kg) 軽量化
体積エネルギー密度(Wh/L) 小型化
出力密度(W/kg) 瞬発力
充放電効率(%) 高効率
自己放電率(%/月) 放置OK
単電池公称電圧(V) 使い易さ

ところで、上記表で、LIBの充放電効率が80~90%となっていますが、自転車用白色LEDライトのような軽い負荷を駆動する場合の放電効率はおそらく、95%以上になっているものと思われます。詳細は次のリンク先のCBNレビューのfig.12付近をご覧ください。

cbn リチウムイオン電池18650の特性について

LIBの課題

実に素晴らしいLIBですが、課題がないわけではありません。

なかでも大きな課題は、LIBの構成材料の原料であるリチウムの供給が安定しないことです。リチウムは、多くが南米に偏在しており、しかも政情不安気味の地域だったりします。スマホなどの携帯機器やノートPC用途のLIBだけならまだしも、仮に地球上に存在する自動車がすべてLIBの電気自動車に置き換わったりすると、あっという間に希少資源となってしまうでしょう。

そこで注目されているのが、海水。海水中に膨大なリチウムが溶けていると推測されていて、海水をろ過してリチウムを採取する技術開発が進められています。もしこれがうまくいけば、リチウムはほぼ無尽蔵の資源となるといわれています。

また、電極の材料として使われるコバルトにも資源問題が付いて回ります。

さて、今後、二酸化炭素排出削減に向けて、様々な自然由来の発電プラントの建設、稼働が加速化すると想定すると、懸念されるのが、自然を相手にして電気を作るが故の、発電電力の安定性の低さ、ということになります。

この安定性を確保すると目されるのが、大容量のLIBなわけで、自然エネルギー由来の発電電力の大きな変動を平滑化する重要な役割を担います。自然由来の発電プラントの増加に合わせて、LIBの必要数量は将来、膨大なものとなるでしょう。

さらに、先ほども書きましたが、自動車の内燃機関が駆逐され、世界中のクルマの電動化が着々と進むとすれば、クルマに搭載する電池の量はとんでもない規模になります。

というわけで、LIBの資源問題。本気で自然由来発電やクルマの電動化を進めるのであれば、これは必ず解決しなければならない課題でありましょう。

・ ・ ・

しかしですねぇ、皆さん。

スマホやライト用途ならまだしも、電気自動車や発電系統の安定化といった莫大な用途を考えると、原料であるリチウムやコバルトの産出と精錬にも莫大なエネルギーが必要となるでしょう。

仮に、二酸化炭素の排出が小さくなったとしても、はたして、そういったエネルギー大量消費を支えるための技術の方向性が本当に正しいのか、よく考えたほうがいいかも知れません。

環境技術が廻り廻って、人々を苦しめることにならないとも限らないのではないか、なーんて、危惧してしまいますが、こういうのは穿った考えなのでしょうか?

地球の歴史の長さに比して、ほんのわずかな長さの歴史しか持たず、近代化の歴史などほんの一瞬でしかない人類の活動は、些細な気候変動にも大きく影響を受けます。氷河期が到来したら一体、どうやって対処しようとするのでしょうか。

おっと何だか自転車とあまり関係ない話になってしまいました。

いやまあ、それにしても、クルマも持たずに徒歩と自転車と公共交通機関で大半を済ませるようなスタイルの方も、最近では特に若い方で少なからずいらっしゃると思いますが、それが最も環境に優しく、実は人間らしい生活スタイルなのかも知れませんよねぇ。

「人は一度手に入れた快適さを手放すことができない」

と、訳知り顔でいう人がいますが、本当ですかね?一度手に入れたその快適さを手放して、別の快適さを手に入れている人もいるのではないかと思うのですが。

(やっぱり脱線している)

まとめ

青色LEDとリチウムイオン電池、LIB。

この2大発明のおかげで、自転車ライフは新時代を迎えることができたと言っても過言ではないと思います。これらのおかげで、ライトを昼間点灯する方も増えているのは、よい傾向じゃないでしょうか。

LEDの発光効率は今後、もう少し良くなるでしょうし、LIBの容量は着実に向上するでしょう。点灯回路(インバータ)も効率が多少、向上するでしょう。というわけで、ライトを構成するデバイスの性能は着々と上がっていきます。

あとは、ライトの配光ですよねぇ。クルマ並みというのは大きさに制約があるので無理ですが、キリッと整形したうえで光量を使い切った配光のライトが出現すれば、さらに夜間自転車ライフが充実することでしょう。

2大発明を十二分に活かしたライトの出現を望みます。

著者
GlennGould

単なる市井の自転車乗り。2020年はスレスレで年間走行距離10000kmを上回り、最近10年間の総走行距離は109500kmほど。早朝4時から7時前(冬は真っ暗)に走ることが多く、日焼けはかなり控えめ。ここ数年はMTB走行が多め。おかげで自転車の操縦が少しだけ上達したような気がする(というのは完全に思い込み)。 そういえばサイスポ歴は立ち読みも含めて45年。 なお、山歩き歴も長いですが、そちらは永遠の初心者。

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