あまり一般的では無いようですが、世の中には「自転車趣味」というものが有ります。
その自転車の中でもロードバイクは数々のドラマと歴史が積み重なり、今では趣味として多方面に広がりを持っています。
このロードバイクに代表される所謂「スポーツバイク趣味」を大きく分けると、「自転車を使って何かをする」という、スポーツ的というか「人社会との関係の中で浮き沈みみたいな喜怒哀楽を体感して満足感を得る」趣味と、「自転車そのものが趣味」な「自転車部品と工具と走る場所さえあれば良し!」という積み木遊びのような孤独な趣味も有ります。
オールドパーツのすすめ
今回は「自転車そのものが趣味」な人がごく自然に惹かれる「オールドパーツ」という物についてご紹介したいと思います。
写真上:Campagnolo GRAN SPORT - 高級グレードでは無いのですがいい雰囲気です。
オールドパーツと聞くとコルナゴやチネリなど憧れのクロモリフレームにカンパニョーロ・ヌーボレコードといったクラクラするようなビンテージを思ってしまいますが、安心してください今回は単に昭和辺りの「古い自転車部品」の話です。
また、よく「昭和の自転車」というと実用自転車や酒屋さんの運搬自転車が検索で出てきますが、これはこれで楽しい趣味ですけど今回は残念ながら除外します。
写真上:丸石自転車 – なんともこの当時はマイナスネジで組み立てられています。
写真上:ウエルビー運搬自転車 – 実用性重視ということでインチキをしてHEリムに3s内装ハブで組んでいます。
さて、昭和のロードレーサー(まだ当時はロードバイクと呼んでなかった記憶があります)というと1970年代から80年台くらいに作られた物になりますが、当時の憧れのハイエンドパーツであったカンパニョーロやシマノのデュラエース、サンツアー・シュバーブプロは現在でも人気で高値で取引されています。
対して普及版のモデルに使われていたパーツは、出回っていた数の多さもあって今でも手頃な価格で見つけることが出来ます。
あちこちの境内で開かれるがらくた市に何度も通い時には失敗するうちに養われる審美眼、そのようにオールドパーツの世界も骨董からジャンクというガラクタや箱入り新品未使用まで玉石混交ですので使い物になる物やお買い得を見つけたときには心高鳴ります。
でもこれらの古いパーツで自転車を組み立てることは余程のマニアックな知識が必要なのではないか?と思われるかも知れません。
少し前のロードバイクでも自分で組んでみようと思うとまず最初にヘッドパーツ、ボトムブラケット、クランクのシャフトの規格等の頭を悩ます壁にぶつかりますし、スプロケット段数にディレイラーとシフターといったコンポーネントの互換性も問題です。
さらに最近のロードバイクではディスクブレーキやスルーアクスルの規格、フレームと専用設計されたシートピラー、チューブの中のワイヤーや配線にバッテリーと複雑さは留まることを知りません。
チェーンリングを換えただけでフロントディレイラーのトリムが上手く行かなかったりしますし、異なるメーカーの組み合わせだとお手上げな場合も有ります。
ところがこれらの問題でほとほと疲れたときにWレバーのクロモリバイクを触るとあまりのシンプルさにほんと癒やされる事がわかります。
国産規格であればヘッドパーツは1インチのスレッド、ボトムブラケットは68mmのBSAネジ込みという共通規格でシールドカートリッジでもカップアンドコーンのコッタードでも使えます。
シートポストは直径さえ合えば問題なし、クランクもスクエアテーパーという四角棒に差し込むだけ、ロードバイクで最も神経を使うシフトはワイヤー引きのWレバーという無段式なのでディレイラーの動く範囲であれば変速可能なのです。
なんということでしょう、まるでお菓子の箱に集めておいた服が全てぴったり使える着せ替え人形のような感じです。
しかも現代のようなアッセンブリー化されたブラックボックスは何処にも無く「見れば構造が分かるし触ってみれば立ちどころに理解できる」ような「ただバネで縮んでいる物をワイヤーで引くのみ!」という綱引きのシンプルなパーツばかりなのです。
(フレームを入手する際にはヘッドパーツやボトムブラケット、クランクのスクエアテーパーにITA規格やカンパニョーロ独自の規格等もあるのでその点だけ確認が必要です)
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比較の世界を離れて自転車を楽しむ
でも最新の物の方が軽くて速いでしょ?と必ず考えてしまいます。
人の脚力を速さというエネルギーに変換するためにはもちろん、高性能であることに越したことはありません。
私たちは常に比較の世界で生きています。ロードバイクという趣味の世界でさえライバルという他人との比較、過去のタイムや未来の目標という今ここに存在しない自分との比較、他人のブログや雑誌インプレとの比較、パワー数値だったり重量であったりグレードであったり何でもかんでもが比較です。
それが元気の素であり自己の存在の実感であるわけなのですが、良いストレスとは言えやはり疲れるのは避けられませんし実際留まることがないのです。
その比較の世界を脇に置いておいて、今手に触れている物、感覚を与えてくれている物で自分を楽しませる事、それが可能なのは自分で組み立てて乗っている唯一無二の自転車があるからだと感じる事があります。
何故かと言うと「まあ、これはこれでそんなもんだから」という諦めの境地に達することが無限の比較から逃れる手っ取り早い方法だからです。
うっかり弛め忘れると信号待ちで転倒しかねない革ベルトのクリップペダルや、とても原始的な変速レバーでチェーンをガチャガチャ鳴らしてギヤチェンジしている、あまり速そうでない古臭い自転車に喜々として乗ってる人を見かけることもあるでしょう。
案外その人達は「自転車を使って何かをする」趣味ではなく「自転車そのもの」を楽しむ事ができる幸福な人たちかもしれません。
古い部品でロードを1台組んでみた
最近オークションでガラクタ市的な数千円のロードバイクフレームを入手したので、手に入りやすいパーツでしかも走る楽しみを犠牲にしない程度の物を組んでみました。
フレーム
フレームはタンゲチャンピオンという普通のクロモリですがエンド幅が120mmと古いものでした。
剥離剤で塗装を剥いで缶スプレーで塗り直してみました。剥離剤は「ホルツ 剥離剤 ペイントリムーバー」を使っています。
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クランク
クランクは当時の標準だとインナーが42tと大きすぎて辛いのでツアラー系の「スギマキシー」を使って48t/36tにして見ました。46tや33tのチェーンリングも入手可能なのでのんびり派にはお勧めです。写真はアウター一体型のTタイプのようです。
ペダル・駆動系
ディレイラーとシフトレバーは3点セットで数千円という安価な物をサビ落としして使いました。サビ落としは「サビ落としの達人クリーナー」を愛用しています。
写真上:サビ落としビフォーアフター
ハブ・リム・スプロケット
フレームのエンド幅が120mmという古い規格のものだったので、ホイールはグランボア製ハブに手持ちのリムを新しく組みました。
グランボア製ハブは120mmエンドであるに関わらずボスフリーではなくフリーハブ仕様なので7sカセットスプロケットをバラして好きな歯車構成にすることが出来ます。今回はシマノ7sカセットスプロケットを使って13-26tの6速にしてみました。
難しい事を言わなければホイール組みは割りと簡単だと思います、32本程のスポークを穴に刺しながら張っていくだけなので慣れればどうってこと無い気がします。
(ホイールに合わせてわざわざフレームのエンドを広げるよりは合うハブを探してきてさっさとホイールを組んだほうが精神衛生上も良いかと思います)
ホイールに限らず自分で組んで自分で使うのですから多少のことは我慢できてダメ出しも的確になります、何しろ色々勉強になります。
ブレーキとシフター
ブレーキは今も昔も変わらないダイアコンペの現行品です。Wレバーはサンツアー。
リアディレイラー
リアディレイラーはサンツアーV-LUX。Vxにちょっとだけ高級感を足した感じのモデルです。
フロントディレイラー・クランク
フロントディレイラーはトップノーマルのサンツアーSPIRIT。丸い羽がかわいいです。
トップノーマルだとアウター・トップで左右のレバーが揃ってダウンチューブに沿うので見た目も変速の操作も気に入っています。
トップノーマルとはディレイラーをワイヤーで引いて無い状態(スプリング縮んだ状態)の時がトップ(リアならば最小ギヤ、フロントならば最大ギヤであるアウターを指します)位置になる物。
ローノーマルとはワイヤーで引かれていないスプリングで縮んだ状態がロー側(リアならば最大ギヤ、フロントならば最小ギヤであるインナーを指します)位置になる物。
MTB用のXTRのリアディレイラーにローノーマルが有ったような覚えがあります。
通常はリアディレイラーがトップノーマルでフロントディレイラーはローノーマルになっています。
クランクは3アームのスギノマキシーCタイプでしょうか?プロダイと違いがよくわかりませんがチェーンリングの選択幅が広くて使いやすいです、貴重なアルミ製の3ピンはチタン製に換えてあります。
できあがり全体像
できあがりました。数千円の中古フレームを缶スプレーで再塗装し、サカエのハンドル、スギノのクランク、ヨシガイのブレーキ、サンツアーのヘッドパーツ、三ヶ島製作所のペダル、マエダのディレイラー等ネットがらくた市でガサゴソと集めた物で組み立てました。
古いパーツで組み立てるロードバイクは簡単な仕組みなのであちこち弄っているうちに作業に慣れてしまいますし、パーツもプラスネジや六角ボルトなので特別高価な工具を必要としません。自転車専用工具というとコッタレス抜きにハブスパナやヘッドスパナくらいです。
ヘッドパーツもホームセンターのボルト・ナットと角座で自作したもので十分圧入できますのであれこれ試してみるのも面白いです。
なにより自転車の基本は変わっていないので乗車前点検や日常で必要な整備等が自然と身につきます。
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今回も使用したオールドパーツの数々を今でも作ってくださっている有り難い会社です。
常に更新されるオールドパーツの世界
このように古いクロモリフレームとオールドパーツの融通性がパーツ弄りの素材として最適なのですが、最近は簡単に装着できる無線式のパーツも増えてきたのであと少しで時代遅れとなる平成のフレーム達を電気仕掛けで遊ぶという事もそのうちに流行ってきそうです。
また一番隆盛を誇ったと思われる9〜11sの紐式や今最新のDi2やカンパEPSが過去最も融通の利かなかった時代の産物としてマニアに珍重されるようになるのももうすぐな気がします。
そう、実のところオールドパーツとは常に更新されるものなのです。
写真上:サンツアーVxとSRAM eTap