タイヤに空気を入れたあと、かたいポンプヘッドを抜こうとして勢いあまり、スポークに手をぶつけて痛い思いをしたことがある人は多いはずだ。みんな一度は経験する。あれがイヤでスポーツサイクルがイヤになってしまう人もいる。だがしかし。あの「痛さ」からあなたを解放してくれるアイテムが存在する。それが「ヒラメ」(HIRAME)である。
ヒラメとは
通称ヒラメ。本名クワハラ・ヒラメ。戸籍謄本には「桑原ひらめ」と記載されているはずだ(妄想)。ヒラメ、それはポンプヘッドの女王。あの「痛い」からサイクリストを解放し、ライドの前の苦痛の儀式を悦楽へと変換した伝説の救世主。
この穴をバルブに差し込み、長いレバーで「コクッ」と固定する。その固定音は他にも「スチャ」とか「カチ」とか「クッ」とか「コクン」等々、さまざま擬音語で表現されているが、とにかく気持ちが良い。
レバーは軽い力で締めることができ、空気入れが終わったら同じようにレバーを軽い力で開放する。ヘッドは軽やかに抜ける。なんの抵抗もない。手はスポークに当たらない。皮はむけない。血も出ない。
ヒラメはこのようにして数多くのサイクリストを救った伝説の救世主なのである。そして今でも現役の、自転車ポンプヘッド界の頂点に君臨する女王、クイーンなのである。
もちろん類似したコンセプトの製品も多く、最近では下のエアボーンの製品も人気がある。それでも桑原ひらめの女王の座は、そう簡単には奪われないだろうという妙な安心感がある。
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私のヒラメは使いはじめてから10年以上が経つ個体だが、はじめて手にしたときの輝きはまだ失われていない。赤いロゴ部分だけシールが溶けてきているものの、金属自体に痛みはない。ショップで毎日酷使するとレバーが折れることもあるらしいが、週に2〜3回程度の使用頻度なら20年はもつんじゃないだろうか。
ただ、内部のゴムパッキンは数年に1度交換したほうが良い。その手順は後述するが、いましばしこの桑原ひらめの姿に見とれてほしい。
ちなみにヒラメを買う時はこの金属性のホースバンドも一緒に買うのがお約束。最近ではこのバンドとセット販売されているヒラメもある。
自分の家にあるフロアポンプならなんでも良いから、先端のバルブヘッドを外す。ネジをゆるめると外せるものが多いはずだが、外し方がわからなければハサミでカットしてしまっても良い。あいたホースにヒラメの先端を差す。わりときついと思うけど頑張って押しこむ。
どれくらい押しこむかというと、上の写真くらい。そのあと金属バンドを巻き、マイナスドライバーで締め上げる。これで終わり。あなたの家のあの憎いフロアポンプが、高性能な官能マシンに生まれ変わる。
使い方と注意点
使い方としては特に難しいことはなく、まず先端の加圧調整リングで「締め加減」を決める。バルブ口を下にした状態でリングを時計回りに回すと、ゆるく・軽くなる。反時計回りで、かたく・重く・きつくなる。バルブ側から見るとその逆。
あまりきつくしすぎると、レバーが倒れない。あまりにも軽すぎると、高圧時にヘッドが外れてしまう。ただし、新品状態のヒラメであればかなり軽めの加圧に調整しても7気圧(100bar)くらいまでならヘッドは外れないはずだ。調整が終わったら、バルブに差し込んでレバーを倒す。以上。
もし先端のリングをきつめに設定しないと外れてしまうようであれば、内部のゴムパッキンを交換すると復活する。作業手順は後述するが、パッキンの交換は数年に1度で良いだろう。パッキンは2〜300円で入手可能。
使用上の注意点としては、使い終わったあと、レバーは開放しておくこと。閉じっぱなしにしておくとゴムパッキンの寿命が短くなる。
先端の加圧調整リングは毎回いじる必要はない。ただ、バルブの太さはすべて同じではないから複数台の自転車を運用する人はその都度微調整する必要がある。
レバーが重くなったらパッキン交換
たとえばロードバイクのタイヤに7気圧の空気を入れる時、かなりきつめに調整してレバーを倒さないとポンピングの途中に外れてしまう、といった場合、パッキンが劣化している場合があるので交換しよう(ただし週に1〜2度の使用頻度なら3〜5年は大丈夫だと思う)。
ヒラメの構造はシンプルで、加圧調整リングをゆるめていくと中からパーツが2つ出てくる(下図。全部上向きに並べてある)。左から2番目のパーツの裏側にゴムパッキンが隠れている。
この写真は影が出てしまっていて見づらいが、左側が使いこんで痩せたパッキン。右側が新品のパッキン。東ハトの「ポテコ」というリング状のスナックとダンキンドーナツのオールドファッションくらいの違いがある。
交換方法はいたって簡単。ふるいパッキンを手で取って、新しいのをハメるだけ。
縦カムや他社製品との違い。どれを買ったらいい?
ところで桑原ひらめには「横カム」と「縦カム」の2種類があり、どちらを選んだら良いのか迷う方もいると思う。私が愛用しているのは横カム。横カムのほうが愛用者は多いようだ。
縦カムはスポークとスポークの間隔がせまい場合には便利だが、ミニベロなどでは逆にレバーがスポークにあたってしまって使いづらいケースがある。悩んだら横カムで良い。横カムのほうが値段は高いが、作業性は縦よりも少し良いと思う。
そしてヒラメの他にも「ポンプヘッドの着脱を容易にする」という類似したコンセプトの製品は各社から出ている。上でも紹介した最近人気のエアボーン製品との主な違いは、ヒラメでは「レバーを開閉」させるのに対し、エアボーンだとスリーブと呼ばれる「リングを下げて回す」点(外す時は下に押して抜くだけ)。どちらがいいかは好みだろう。
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ただエアボーンZT-A15クイックポンプヘッドはフレンチ(仏式)とシュレーダー(米式)の切り替えが可能。桑原ひらめはフレンチバルブ専用であり、米式・英式に対応するには内部パーツを交換する必要がある。シュレーダーの自転車を持っている人はエアボーンのようなタイプを選んだほうが良いだろう。
エアボーン製品は現代的な感じがする。コバルトブルーのような金属部もなかなかかわいらしい。値段はヒラメの半分以下。これはこれで良さそうだ。ヒラメが昭和なら、エアボーンは平成という感じだ。
だがエアボーンが気に入った方にも一度は是非ヒラメを使ってもらいたい気はする。モノとしての魅力・オーラはやはり桑原ひらめが格上である。女王・ヒラメ。王女・エアボーン。そんな感じである。
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参考CBNレビュー
ヒラメ ポンプヘッド2(横カム)
ヒラメ ポンプヘッド(縦カム)
ヒラメ ポンプヘッド使用上の注意点
Airbone ZT-A15 クイックリリースバルブヘッド