今日は年末年始の休日におすすめのとある自転車マンガをご紹介します。「こんちき」さんという作家の「おりたたぶ」という作品です。既に愛読者の方も多いと思いますが、私はCBN Blogライターのなどかずさん経由で知り、愛読しています。
このマンガ、ストーリーの巧みさ、画のうまさ、自転車の知識の全てが高いレベルで兼ね揃わっていて、かなり面白いです。
ロケーションが支えるストーリーの魅力
ストーリーの巧みさ、と言っても「おりたたぶ」には今のところ「手に汗を握るような展開」や「ドラマ」は発生していません(注:それらは「おもしろいストーリー」の必要条件ではありません)。が、最新刊3巻までの「おりたたぶ」では「東京西部の多摩湖」を中心とした「ロケーション」の選択が功を奏していて、それがゆるやかに展開する物語を支えています。
筆者はむかしこの「多摩湖」近郊に住んでいたことがあるのですが、このエリアは東京都内で自転車を楽しむ上では格好の場所です。多摩湖・狭山湖周辺はもとより、北東に向かえば荒川、南に下れば多摩川サイクリングロードにもアクセス可能で、さらに奥多摩を周遊して帰ってきても100km程度に収まる絶好のロケーションなのです。
そしてこの多摩湖付近の地形が、実に「自然な感じの物語」を発生させる装置として機能しています。「おりたたぶ」は「多摩湖」という場所を中心に据えることによって、とりあえず速攻で優勝している感じです。
余談ですが、超有名な某オンライン自転車メディアはこの多摩湖付近に本部があり、自転車のインプレッション等もこの付近で実施しているのがわかります。
多摩湖の隣の「狭山湖」は東京都内でグラベルライディングを楽しめる場所でもあります。距離は短いですが、ご興味のある方は是非下の記事をどうぞ。
画(え)もうまい
個人的な意見ですが、マンガにおいて何より大事なのは「ストーリー」。例えば「ワンピース」や「カイジ」を思い出してほしいのですが、どちらの作品も、画はとても上手とは言えません。しかしその2作品はストーリーテリングが超強力なので、絵が下手でも全然構わないくらいの勢いで次々と読んでいける作品なのは周知の通りです。
「カイジ」については作者の福本伸行氏自身が「マンガでは絵なんか全然うまくなくたっていい」といった主旨のことをインタビューで発言されていたように思います。自転車マンガで考えると、名作「シャカリキ!」も現代的な基準から考えると決して絵が上手というわけではなかったと思います(しかし「シャカリキ!」のストーリーが強力だったのは言うまでもありません)。
しかし「おりたたぶ」の面白いところは、ストーリーにも満足できつつ、同時に「画のうまさ」も堪能できる点。登場人物の女の子たちがメッチャかわいいんです!
これがもうみんな惚れてしまうくらい可愛いんですね。ストーリーも良い。画も良い。この両方を満たしている作品というのは、実はそれほど多くありません。
ちなみに逆のパターン、「ストーリーは面白くないけれど登場人物がとりあえず可愛い」だけだとマンガとしては成立しにくいと思います。
作者の自転車知識がすごい
そして「おりたたぶ」が自転車マンガであるからには、サイクリストが読んで満足できるだけのリアリティや洞察があるだろうか、という点が気になるところですが、これがまたすごいんです。
「おりたたぶ」に登場する自転車は、少なくとも今のところは(今後どうなるかは知りません)小径車(ミニベロ)がほとんど。具体的にはA-Bike、ブロンプトン、CarryME、Dahon各種、Strida、タルタルーガといった自転車。
そしてこれらの自転車に関する描写が、実際に乗り込んだ人でないと描けないように思えるものが多いんですね。実際に合うパーツはこれだとか、このカゴはカッコいいけど乗ってみると踵が当たってしまう、といった描写がリアルで驚きます。
ストーリーが面白い。画がうまい。自転車の知識も豊富。こうなるともうつまらないわけはない、という感じです。
ミニベロガイドとしても機能する不思議なマンガ
さらに「おりたたぶ」の面白いところは、マンガ自体として楽しめるのは勿論、上で挙げた「A-Bike、ブロンプトン、CarryME、Dahonの新旧モデル、Strida、タルタルーガ」はどれがどういった自転車で、自分が買うとしたらどれを選べば良いんだろう? という問いへの回答にも(ある程度)なっているところです。本記事筆者愛用中のDahon K3もちょっとだけ登場したりします。
つまり実用的なガイドブックとしても機能しうる作品なのです。自転車マンガの名作はいくつかありますが、この「実用的なレイヤー」が最も充実しているのは「おりたたぶ」であると本記事執筆者は感じています。小径車に興味がある方には是非読んでいただきたいマンガです。
多摩湖が聖地になる日
これはもう「多摩湖」が自転車の聖地になる日は近いのではないでしょうか(というか、もうなっている)? 下はCBN Blogライターなどかずさん作成の動画ですが、これ実は「おりたたぶ」へのオマージュ作品です。「おりたたぶ」読者の方なら楽しめる内容なので是非ご覧下さい。
また同じくなどかずさんの動画に「CarryME」が登場するものがあります。「おりたたぶ」に登場する極小径車です。
次は鎌倉?
マンガ「おりたたぶ」は3巻の終わりで、次の舞台として神奈川県の鎌倉が登場するらしいことが示唆されています。東京近郊であちこちを乗り回したサイクリストにとって、「輪行で鎌倉・江ノ島方面に行く」というのは自然な選択肢。
そしてその時にミニベロをお供にする、というのも自然なことですよね。
「おりたたぶ」のこのゆるやかなストーリーがこの先どのように展開していくのか、とても興味が湧きますよね。この先は勿論「ゆうみ、ミニベロで渋峠に挑戦」という展開があっても良いはずで、「多摩湖・ミニベロ」という初期設定が今後いかようにも「自然な展開」を見せていくのは想像に難くありません。
「おりたたぶ」、未読の方は是非読んでみて下さい。登場人物がみんな幸せそうなのでハッピーな気分になれます。