Velonews.comに興味深い考察記事が掲載されています。Continental GP 5000 チューブレス(28mm)をReynolds AR41というカーボンクリンチャーリム(チューブレスレディ対応)に装着し、フランス・ピレネーの山を走っていたあるサイクリストが、登りと下りの2回にわたって修復不能なパンクを経験し、2回目の下りでは救急車で運ばれた。
その原因は何だろう? という話題です。
出典 Technical FAQ: A tubeless tire blowout in the Pyrénées
トラブル発生の経緯
トラブルの詳細ですが、このサイクリストは今年の夏、フランス・オートザルプ地方のマキュエーニュ峠(Col de Macuègne)を登っていた時に後輪がパンク。タイヤビードが2-3cmほどケーシングから剥離してしまったためパンク修理ができず、人を呼んでライドに復帰したそうです。
しかしこのサイクリストは峠の下りでふたたびパンクに見舞われます。今度はフロントがバーストし、気がつくと路上に倒れていて人々が「立ち上がるな」と声をかけていたそうです。
彼はルルドの病院に救急車で運ばれましたが、後になってタイヤをチェックするとフロントタイヤのサイドウォールのビード付近に4-5cmの裂け目ができていました。
このサイクリストによれば使用していたGP5000チューブレスは両方とも新品で空気圧もコンチネンタル推奨の6.5 BAR以上入れたことはなく、これではもうチューブレスを使うことはないかもしれない、と述べました。
原因は「チューブレス」タイヤにあるとは限らない
このサイクリストにコメントに対し、”Zinn & the Art of Road Bike Maintenance“の著書で知られるレナード・ジン氏が回答しています。
長い記事なのでざっくり紹介すると、
- そのパンクの原因はチューブレスタイヤ特有のものではないと思う
- インナーチューブ入りの軽量なクリンチャータイヤでもそれは起こりうる
- 原因は恐らくカーボンクリンチャーリムのフックだ
という内容です。リムのフックにシャープなエッジが残っていて、それがケーシングを裂いた可能性が高い、というのがジン氏の推測です。
この話は、今年3月に紹介した「ChallengeとVittoriaがENVEの注意喚起に対して反論」という記事と深い関係があります。
どんな内容だったかというと、「ChallengeとVitoriaの特定のタイヤはビード付近のサイドウォールが薄くて裂けやすいから使わないように」とENVEが注意喚起。
それに対しタイヤメーカー側は「何言ってんだ、あんたんとこのリムのビードフックがETRTO基準を逸脱したシャープなものになってるのが原因だろう」と反論した、というもの。
上で紹介した「Contintenal GP5000 + Reynolds AR41」でのパンクも、同じような原因で発生した可能性が高い。そして原因は恐らくReynolds AR41のビードフックの仕上げによるものだろう、とジン氏は推測しています(ただしReynolds AR41自体は、周期的にトラブル報告があるもののETRTO基準には適合しているらしい)。
カーボンクリンチャーリムの宿命
ちなみに押し出し成形のアルミリムでは製法上、こういう「ビードフックが鋭利になる」事例はないようです。
しかしカーボン製品はモールド製法なのでビードフック部にバリのようなものが出ることがある。それはカーボン繊維を傷めないようにきれいに除去したり、少なくとも研磨しないといけない、とのこと。
これはカーボンクリンチャーリムの宿命のようなもので、件のサイクリストが使っていたReynolds AR41リムに品質上の問題があったとしても、品質管理をしているのは人間なので必ずチェック漏れは出てしまう。ReynoldsでもENVEでも、他のメーカーでも発生しうる。カーボンクリンチャーリムには7-8年程度の歴史しかなく、まだ発展途上の製品である。
しかしこれらのビッグブランドはサイクリストの安全のためにも、ビジネスの継続性のためにも、こうした問題に積極的に対応する姿勢を見せている(そうしないと潰れてしまう)。
だが「出所不明の、ノーブランドのカーボンクリンチャーホイール」でこれが発生したらどうなるだろう? という問題をレナード・ジン氏の記事は提起しています。
無名ブランドのカーボンクリンチャーホイールに潜む危険性
無名ブランドの中華カーボンクリンチャーホイールが、ENVEやReynoldsでさえ完璧には対応できないこれらの品質面での問題をクリアしているわけがないのでは明らかでしょう。
そして、仮にそうしたホイールが原因でサイクリストが重傷を負ってしまっても、責任など取ってはくれないでしょう。彼等が品質を上げるために莫大なコストをかける、ということも考えにくい。
たとえ悪評が広がり、「あの中華ブランドは危険だ」という認知が広まっても、「3秒で考えました」みたいな新しいブランド名で同じリムのホイールを販売し続ける可能性があります。そして多くの事故につながっていく。
そう考えると、サイドケーシングの薄い高級タイヤで立ち漕ぎしたり、攻めたコーナリングをするようなサイクリストであれば、「3万円の中華カーボンホイールに超軽量高級タイヤをはかせてヒルクライムに出かける」ようなことは避けたほうが良いのは間違いなさそうです。