タイヤは太いほうが良い。何故なら転がり抵抗を軽減できるからだ。ーそんなことを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。実際、最近主流のロードバイク用タイヤは25〜28mmが下限になりつつあります。また以前より低圧で運用されるのが普通です。しかし10年ほど前は21〜23mmが標準でしたし、空気圧も7気圧などは普通に入れていた方も多いのではないでしょうか。
タイヤは何故太いほうが良いのか。何故チューブレスで低い空気圧が主流になってきているのか。 しかも「フックレス」リムというのも出てきているらしいし、わけがわからなくなってきたぞ… ZIPP公式サイトの2つのドキュメントを読んでいたところ、そんな疑問に対する手がかりになりそうに思えたので、この記事で概要を紹介したいと思います。
参考 Total System Efficiency | SRAM
参考 TotalSystem Efficiency™ – Making you faster (PDF)
スピードの4つの敵
ZIPPは”Total System Efficiency(全体システム効率)”というコンセプトを持っていて、それをベースにホイールを設計しているようです。「全体システム効率」と言うと難しく感じられますが、「部分ではなく全体の最適化」と言い換えるとわかりやすいと思います。
ZIPPは「効率とはスピードに等しい」と主張しています。そして「効率・スピードの妨げとなるような4つの敵」がある、としています。
その4つとは、
- 風抵抗(空力抵抗) (WIND RESISTANCE)
- 重力 (GRAVITY)
- 転がり抵抗 (ROLLING RESISTANCE)
- 振動による損失 (VIBRATION LOSSES)
です。これらが大きければ大きいほど、エネルギー伝達効率が低くなり、スピードが低くなる。というわけです。
詳細は参考リンクとして挙げた2つの文書をお読みいただきたいのですが(英語)、ここでは私がそれらの文書から理解した内容をまとめてみます。これら4つの「敵」に対するソリューション(解決案)としてZIPPが提案しているのは、
- 風抵抗(空力抵抗)に対しては、フックレスリムで対抗する
- 重量に対しては、軽量化で対抗する
- 転がり抵抗に対しては、フックレスリム・ワイドタイヤの合せ技で対抗する
- 振動(縦方向)に対しては、タイヤの低圧運用で対抗する
という内容です。
空力抵抗を軽減する
「1」の「空力抵抗」に対するフックレスリムの効果については、下の図解を見ると理解しやすいと思います。この結果得られる「空力的アドバンテージ」は微々たるものではないか、という意見もあるとは思いますが、バイクシステム全体の各部でエアロ効果の向上が追求されているわけですから、それらの「総体」による効果に資する、のは間違いないでしょう。
重量を減らす
「2」の「軽量化」によるエネルギー損失の低減は、直感的にも明らかなので説明は不要でしょう。登りは辛い。軽いの大好き。ホイール重量を削ります。以上!
▼ 重要参考リンク
転がり抵抗を軽減する
「3」の「転がり抵抗」について。フックレスリムとワイドタイヤだと何故有利なのかは、下の図を見るとわかりやすいと思いました。同じ体重・同じバイクシステムのライダーが、細いタイヤと太いタイヤに乗った場合、タイヤの「接地面積」は同じでも、ZIPPによると「接地形状」が違う。
ワイドタイヤの場合、「幅広で縦に短い」この形状の場合、体重によるタイヤの「サグ」(沈み込み量)が少なくなる(サスペンションのあるMTBに乗ったことのある方ならこの「サグ」という概念は理解しやすいと思います)。
故に、タイヤの変形量が少ない。故に、エネルギー損失量が減る。という論考です。
振動を軽減する
「4」の「振動」ですが、これは7気圧や8気圧以上の高圧でカンカンに空気を入れたタイヤを想像してみるとわかりやすいです。単純に高圧にすると、手や身体に伝わる路面からの振動が大きいですよね。ライダーの身体(=マス・質量)は縦方向に振動します。
そして、これがエネルギー損失に繋がります。よって、低圧で運用されるタイヤならこの縦振動が少ないため、エネルギー損失が少ない=速くなる、という理屈です。
凹凸の少ないベロドロームのような路面であれば、振動が少ないため高圧のタイヤで走ってもエネルギー損失には直結しない、というのは直感的には理解できるように思います。
「1つの敵」だけにフォーカスするとうまく行かない
ZIPPが提唱している”Total System Efficiency(全体システム効率)” というコンセプトは、「これらのどれか1つだけ」にフォーカスしてそれを改善しようとしてもうまく行かない。だからこれら4つにバランスよく対処していく、という考え方です(※これはZIPPに限らずのどのホイールメーカーも考えていることではあるでしょう)。
「高いバランスで全体を最適化…」と言うと、なんだか「ふわっとした表現」で、煙に巻かれたような感じになりますよね。
しかし、例えば「空力性能を高める」ために、「前方投影面積の少ない細いリムのホイール・細いタイヤ」を履かせて高圧で走らせた場合、路面が滑らかなベロドロームなら効果を発揮するかもしれませんが、同じことを荒れたアスファルトやグラベルでやってみると、今度は縦方向の振動が発生してエネルギー損失に繋がるわけです(※この部分は筆者による考察です)。
最初に紹介した2つめのリンク(PDFファイル)には、これらの現象を考察する際の数式なども掲載されているので、数学に強い方はご覧になってみてはどうでしょうか。
これらの文書は、あくまでマーケティング(=自社製品を売る)のためのものなので省略されている要素もあるのだろうとは思うのですが、「低圧のワイドタイヤのほうが、効率的なんだ。」というここ数年で主流になってきている言説を理解するための「スタート地点」としては、なかなか便利なものではないでしょうか。
振動との戦いの歴史としての自転車
これらのZIPPによる「製品プロモーションを目的とした論考」は、個人的にはとても面白く読めました。
そして思ったのが、スポーツ自転車は「軽量化の歴史」であり「高剛性化の歴史」であり「エアロ化の歴史」であると同時に、「振動軽減の歴史」でもある、ということです。
先日CBN本館に、kazaneさんが「フロントフォーク用 外装可変式マスダンパ」というものすごいDIYパーツのレビューを投稿して下さり、Twitterでも「これは何だ〜!?」とバズっていました(笑)。このすごいパーツも振動軽減のためのもの。
クッション性の良いバーテープを使ったり、一昔前にはBontragerから「BuzzKill」という、ドロップバーエンドに埋め込んで振動を軽減するダンパー的な小物が発売されていたのを覚えている方も多いと思います(何故かもう売っていないようですが…)。
人間を含めたバイクシステム全体のマス(質量)にとって、「振動」とは「快適かどうか」以外に、「エネルギー損失」の面でも影響があるのか、と新鮮な気持ちでZIPPのサイトを読んだのでした。
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