英Bikeradarが「プレスフィットBBはスレッド式BBよりも優れている」という記事を公開しています。近年のプレスフィットBBからネジ切り式BSA BBへの回帰の動きを踏まえ、プレスフィットBBが持つ問題点を認めながらも、エンジニアリングの観点からも性能の観点からも本当はプレスフィットのほうが良いものなのだ、という内容となっています。
出典 Simon says: Press-fit bottom brackets are better than threaded
設計ではなく製造が問題だ
記事はやや長く内容も冗長なのですが、以下、主要部分の抄訳です。
- ここ10年ほどハイエンドロードバイクではプレスフィットBBが支配的だったが、近年ではスレッド(ネジ切り)式BBへの回帰が目立っている
- Specializedは2020年にプレスフィットのOSBB 61を放棄し、Tarmac SL7では伝統的なBSAに戻している
- プレスフィットBBのトレンドを生み出したCannondaleでさえ、Synapseの2022年モデルでBSA BBを採用した
Cannondale Synapse (2022) を巡る海外での賛否両論:スポーツバイクへのエレクトロニクス統合はこれからの基準となるかキャノンデールが1月18日に正式発表したエンデュランス系モデル「Synapse」の2022年モデル。下の記事で紹介しましたが、ライト・レーダー・バッテリーの統合システム「SmartSense」を搭載したことが大きい話題ですが「キャノンデール... - しかしCanyonは2022年のエンデュランスモデルで、BB86が「速い加速のためのより良いペダリング・プラットフォームを生み出す」と主張している
- 物議を醸す意見かも知れないが、私はCanyonが正しい道を歩んでいると思う
- メインストリームのロードバイクにプレスフィットBBが搭載されたのは2000年で、CannondaleによるBB30だった
- BB30は2006年にオープン規格となり、軽量化・高剛性化ブームの中で多くのブランドが飛びついた
- 同年、保守的で有名なシマノでさえScottとの協業でロード用のBB86・MTB用のBB92でプレスフィット規格に参入した
- 2010年頃以降は、ほぼ全てのハイエンドロードバイクはプレスフィットBBを念頭にデザインされるようになった
- 正しく製造される・作業が行われるのなら、BBのベアリングを、スレッドのある別体式の金属製シェルにプレスする必要はないはずだ
- スレッド式BBでさえ、技術的にはプレスフィットBBであると言える。ベアリングが金属製シェルにプレスされており、それがフレームにねじ込まれているのだから
- 余計な金属製シェルをなくし、ベアリングをフレームに直接入れるほうがエンジニアリング的にはよりエレガントな解決法であると言えないだろうか
- ヘッドセットやハブ、プーリーホイールやサスペンションのピボットでも行われていることなのだから、BBでもうまくいくはずだ
- 専門家によれば、プレスフィットBB自体が悪いわけではなく、プレスフィット対応のカーボンフレームを大量生産するための理解が不足しているのが問題なのだという。ちゃんとやればプレスフィットは100%ベターなシステムだ
- Canyonによれば、プレスフィットBBは軽量なシステムであり、より大きいインターフェースが安定したペダリング・プラットフォームを生む。その結果ライダーのパワーがより多く路面に伝わる。BB86のコンセプトは健全であり、大規模製造現場での公差(許容誤差)も達成できないほど微小な数字でもない
- プレスフィットの問題は製造上の標準と公差にあり、プレスフィットBBのコンセプト自体が必ずしも問題なのではない
- TrekのBB90は特に音鳴りやクランクの遊び、ベアリングの低寿命が指摘された。ほぼ全てのプレスフィットBBシステムが、数年にわたりそれぞれ批判を浴びてきた
- CanyonはBB86を称賛しているが、プレスリリースでは「製造過程での公差や品質管理により多くの注意が払われており、長寿命・異音なし・スムーズな回転を保証している」としている
- Specializedによると最近のTarmac SL7でのOSBB 61(BB30のバリエーション)からのBSA BBへの回帰は、Shimano/SRAMクランクセットにとって最も軽量でシンプルなソリューションだったから、としている(シフティングが最適化される)
- 同社によると、新しい製造方法のおかげでBSA用フレームであってもタイヤクリアランスを犠牲にすることなくBB30より軽量にできるようになったという。またT47のようなモダン・スレッドBBシステム(本質的にはオーバーサイズのBSA BB)は「正しい方向性」だが、「フレームもBBもより重くなり、インストールに必要なツールが複数必要になり、より多くのケアを必要とする」
- ある業界通によれば、プレスフィットBBの黎明期、カーボンフレームとクランクセットとの間でより精密なインターフェースを生み出すため、少なくとも1つのブランドでカスタムベアリングが採用されたが、それに伴うコストが許容できなくなったため、スタンダードなベアリングに戻したという
- スレッド式BBが比較的トラブルフリーなのは、精密な接触面を持つ金属製シェルをより簡単に加工できるからだ
- カーボンフレームの問題は、フレームの完成後はほぼ調整幅がないことだ。大部分のカーボンフレームは手でレイアップされ、カーボンシートの配置でヒューマンエラーが起こることもある。BBシェルがその周囲にモールドされる金属軸が熱で膨張することもあり、カーボンレイヤーも加熱・冷却の過程で縮んだり動いたりする。これらの問題をクリアしないと設計通りのフレームにはならない
- 仕様を満たさない製品はBBであれ何であれライダーの手に渡ってはいけないし、業界がカスタマーの要求に答えるのは良いことだが…
読んでみた限り、新しいことはあまり書かれていません。プレスフィットBBがパフォーマンス面で優れており、エンジニアリング的にも合理的な発想だというのは理解できますが、実際に安定した品質で製造するのが難しいのであれば、それを歓迎するユーザーは多くないのでは、というのが正直な感想でした。しかしプレスフィットBBの歴史の再確認にはなりますね。
ソース元記事へのコメント、同サイトによるInstagram投稿へのコメントを読んでも「そうかやはりプレスフィットBBのほうが良いのか。BSAはダメだね」という声はほとんど見かけません。
3年後5年後には、BSAがまた主流になっているのでしょうか。それとも製造上の問題が改善されて、やはりプレスフィットのほうが優れている、となるのでしょうか。