趣味で自転車に乗るにせよ、競技に取り組むにせよ、睡眠がパフォーマンスに大きい影響を与えることを痛感されている方は少なくないと思います。回復とパワーアップのためには睡眠が不可欠とされていますし、よく眠れた翌日のライドはやはり調子が良いものです。
しかし「8時間も眠れないんだよなぁ、夜中に起きてしまうし…」という悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
睡眠に関することを調べていたら、ちょっと興味深い歴史的事実に遭遇したので、ここでご紹介します。
みんなどのくらい眠ってる?
その前に、まず海外掲示板の自転車コミュニティへの投稿からいくつかピックアップ。皆さんどのくらい眠っていますか? というスレッドです。
出典 How much sleep do y’all get?
以下、寄せられたコメントから抜粋。全体的に8時間睡眠が理想的、というコンセンサスはあるようですが、実際はそれほど眠れていない人のほうが多いようです。
- 4〜6時間のあいだです。十分ではありません(20いいね)
- 子供がいます。4〜6時間です(10いいね)
- 8時間(9いいね)
- 睡眠の質は量と同じくらい大事です。深く良い睡眠ブロックを7時間で得られるなら、落ち着かない9時間よりも体調が良いです(6いいね)
- 3時間です。私は睡眠障害があり、もうすぐ死ぬのかもしれません(5いいね)
- 15ヶ月の子供がいるので細切れの4〜6時間です(3いいね)
- 5〜6時間。十代を過ぎてから8時間眠ったことがないのは間違いないです。いま51なのでどのみち睡眠は少なく済みます(3いいね)
8時間連続睡眠って原始時代は危なかったんじゃね?
続いて以下は海外掲示板の別コミュニティで見かけた意見です。
出典 Our 8 hours of uninterrupted sleep requirement is life-threatening from survival perspective.
- 8時間の遮られない睡眠という要件は、サバイバルの視点からすると生命を脅かすようなものだ
- だからむかしは夜に見張りをする人たちがいたのさ(2700いいね)
- だから人間は犬を発明したのさ(1500いいね)
- 確かに人間は8時間の睡眠が必要なのかもしれないが、いつ眠るかは要件に入っていない。人間は群れで生活してきたから、ある人々が眠っているあいだは別の人々が見張りをできた
- 人間は一回の長いシフトで睡眠するように進化したわけではありません。私達の自然な睡眠スケジュールは二相性(bi-phasic)なのです。出典はこちら(1200いいね)
8時間連続して眠ることが人間にとって必要不可欠だったとしたら、ライオンのような捕食者を考えると確かに大きいリスクになったと思います。果たして人間は8時間程度の連続した睡眠を太古の昔から取っていたのか?
約300年前までヨーロッパでは二峰性が当たり前だった?
上の最後のコメントで紹介されていたScience Alertというサイトの記事を読んでみました。長いので興味深かったところを一部抄訳で抜粋します。
出典 Humans Used to Sleep in Two Shifts, And Maybe We Should Do It Again
- 人口の3分の1が睡眠の問題を抱えている。それには夜のあいだ、睡眠を維持することの難しさが含まれる
- 夜間覚醒は多くの人にとって悩みの種ではあるが、2つの別々の睡眠のあいだに生まれるこの覚醒時間は普通のものであったことを示す証拠がある
- 歴史を通じて、医学文献から法定記録、日記などで、またアフリカや南アメリカの部族においても、「第一睡眠」と「第二睡眠」というものが普通に言及されているケースが多数ある
- 小説家のチャールズ・ディケンズは1840年の小説で”first sleep”という表現を使用している
- 人類学者は、産業化以前のヨーロッパでは二峰性(bi-modal=ピークが2つある)の睡眠が標準であった証拠を発見している。睡眠は特定の就寝時間によってはじまるものではなく、やることがあるかどうかで決められていたのだ
- 歴史学者のA. Roger Ekirchは、日暮れから2時間後に就寝し、数時間後に起きて1〜2時間目覚めた時間を過ごし、それから夜明けまで第二の睡眠を取る世帯について記録を残している
- その覚醒時間のあいだ、人はリラックスしたり、見た夢のことを考えたり、セックスしたりしていた。人によっては縫い物や薪割り、あるいは月明かりやオイルランプをたよりに読書したりしていた
- Ekirchは第一睡眠と第二睡眠への言及が、17世紀末のあいだに消えはじめたことを発見した。これは北ヨーロッパの上流階級ではじまったものと考えられ、続く200年にわたり西側社会にゆっくりと浸透していったものと思われる
- 興味深いことに、睡眠持続障害型の不眠症が文献に登場する19世紀末は、分断睡眠が消滅しはじめた時期と偶然にも重なっている
- つまり現代社会は、人は毎晩、連続したしっかりした睡眠を取らねばならぬという不必要なプレッシャーを人間に与え、睡眠に関する不安を増やし、睡眠問題を長引かせているのかもしれない
- より極端でない二峰性睡眠は今日の社会でもよく見られる。たとえば午後にシエスタを取る文化がそうである…
上で書かれている説が正しいとするなら、いわゆる「夜間覚醒」は病的なものではないということも言えそうですよね。睡眠パターンに関係する遺伝子が2〜300年程度の少ない世代で進化するとは考えにくい(と、私は思う)ので、続けて8時間とか眠れない、夜中に起きてしまう、というのは実は人間の本来の生理的リズムからすると自然なことである可能性もあるのではないか、と思いました。
何がなんでも8時間ガッツリ連続して眠らなければならない、と考えるのではなく、昼寝などを含めてトータルで8時間程度の良質の睡眠を取ることを心がければそれで良いのかな、という気がしました。8時間連続睡眠、という考え方は、産業革命後の効率を求める世界で普及してきた、ある意味で不自然な睡眠様態だったりする可能性はないでしょうか(反論もたくさんあるとは思いますけれども)。